【職員室の立ち話】保護者のハラスメント 関係悪化の前にできること

【職員室の立ち話】保護者のハラスメント 関係悪化の前にできること
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 「このニュース、どう思う?」――。日々報道される教育ニュースを、同僚と「立ち話」する感覚で読み解くこのコラム。今回のテーマは、保護者からのハラスメント。東京都教育委員会の調査によると、保護者などからのハラスメントで「時間外労働が増えた」と回答した教員は1092人に上りました。公立小学校で20年間教壇に立ち、現在もSNSなどを通して全国の教員のエンパワーメントに取り組んでいる田中美香子さんに語ってもらいました。

 

今日の話題

保護者などからのハラスメントで「時間外労働増えた」1092人 東京都

 

今日はこの人と立ち話

田中美香子さん(元公立小学校教諭・センセイカプセル代表)

 

 これまでは「学校で何とかしなさい」とされてきて表面化しなかったものが、社会や時代の変化に後押しされて、改めてクローズアップされたように思います。数字だけを見て「やっぱり学校は大変だね」と終わるのではなく、これをきっかけに自治体や社会全体で改善策をしっかり示していかなければなりません。

 「これは学校で対応しきれない」という問題が、日々現場には寄せられています。保護者からの相談を学校外で受け、ケースに応じて専門家が対応する仕組みづくりが急務だと感じます。東京都や奈良県天理市などにはこのような窓口がありますが、さらに全国的に広がると、現場の心理的安全性は格段に上がるでしょう。

 保護者の言動に頭を悩ませたり、関係が悪化しそうになったりした経験は、程度の差はあれどもほとんどの先生にあると思います。ハラスメントは許されません。とはいえ中には、保護者との信頼関係が築けていれば防げるケースもあるのではないでしょうか。そのためには関係が悪化する手前で、基本的なポイントを確実に押さえることが肝要です。

 まず、よく言われている「一人で対応しない」は鉄則です。特に新規採用など若手の先生に最初の研修の段階で「保護者対応は、一人で抱え込まないでほしい」と繰り返し伝えてきましたし、周囲に頼れる環境をつくることも大切です。

 教務主任をしていた頃は、保護者との関わりに悩んでいる先生の個人懇談に同席したこともありました。あくまで「見学しにきました」という軽い感じで振る舞い、保護者に威圧感を与えないこと。すると1対1のときとは違ったコミュニケーションが生まれ、場の空気が和やかになる、新たな会話が生まれて保護者とその先生の関係が改善するなどの効果がありました。

 他にも保護者への電話対応の際に、隣でメモを使ってアドバイスしたり、放課後に理科室など特別室で即興のお悩み相談室を開いたり、若手の先生が一人で抱え込まない環境をつくっていました。

 また一見遠回りのように見えますが、学級の児童生徒の満足度を上げることが、保護者と良好な関係を築く一番の近道。日頃の授業や学級活動などを充実させて、子どもたちが楽しく学校に通えていると、それが保護者にも伝わり信頼関係が築けるように思います。

 とはいえ、授業実践や指導力を磨くことは一朝一夕ではかないません。ちょっとした取り組みを試してみるのもいいかもしれません。例えば私の場合は、児童の良かったことを一筆箋に書いて持ち帰らせていました。「困っていた1年生に気がつき、しゃがんで目線を合わせて話を聞いてあげていました。〇〇さんは気遣いと優しさがすばらしいですね!」などと、短く簡単なものです。児童本人も喜びますし、一筆箋を児童から自慢げに見せられた保護者も、担任が子どもを見てくれているという安心感につながるようです。

 

【プロフィール】

田中美香子(たなか・みかこ) センセイカプセルMIKAMOとして活動。教師歴20年、教務主任を務めたのちに独立。「先生の生き方を照らす」ブランド《センセイカプセル》を立ち上げ、学校現場に寄り添う服などのアイテムを多数プロデュース。47都道府県すべてに購入者がいる“先生に愛されるブランド”として成長を続けている。SNS総フォロワーは2.5万人以上、著書に『センセイのための服装・マナー図鑑』(学事出版)など。

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