参院選を前に、投票率が低い傾向にある大学生に選挙への関心を持ってもらおうと、中央大学の主権者教育・投票啓発サークル「Vote at Chuo!!」は7月15日まで、東京都文京区にある同学茗荷谷キャンパスで選挙を身近に感じてもらうイベント「問う票所 2025」を開催した。不在者投票の請求などをサポートするほか、政治について考えてもらうさまざまな仕掛けを展開。Vote at Chuo!!代表で、同学法学部3年生の藤田星流さんは「私たちとちょっとした対話をすることで、政治についてお互いにいろいろなことを考えることができれば」と意気込む。
総務省によると、昨年10月に行われた衆院選の投票率は10代で39.43%、20代で34.62%と、全年代の平均である53.85%よりも低かった。特に10代では、高校3年生が含まれる18歳の投票率よりも19歳の投票率が低い傾向にあり、その要因の一つに、進学を機に一人暮らしをしながら大学などに通うようになったものの、住民票を移していない人が多いことがある。
こうした課題に着目し、Vote at Chuo!!では2016年から東京都八王子市にある多摩キャンパスでこの取り組みを開始。茗荷谷キャンパスに活動の拠点が移ってからは、昨年の衆院選に続き、今回で2回目となる。
「問う票所」では、教室を借りて、実際の投票箱などを展示するとともに、自分の考えと近い政党を探すことができるボートマッチなどを紹介。地元を離れて暮らしているものの、住民票を移していない学生には、その場で不在者投票の方法を案内し、必要な書類や封筒、切手も用意して、ワンストップで投票用紙を請求できるようにしている。
進学を機に上京してきたという法学部2年生の男子学生は「自分は早生まれで、18歳になってすぐに上京したので、地元では選挙に直接行く機会がなかった。大学に入ってからは(不在者投票を)郵送でしてきたが、煩雑で時間がかかると思っていたので、こういう取り組みはありがたい」と話す。
また、政治や選挙に関して自分が考えていることをメッセージにして、壁に貼ることもしている。取材した7月15日は「問う票所」の最終日だったが、昼休みになると三々五々、学生がやってきて、自分が書いたメッセージを基に、Vote at Chuo!!のメンバーとちょっとした立ち話をする光景も見られた。
貼り出されたメッセージに目を向けると「適切な税金の使い方ができている社会」「若者の意見を届けたい」「1000年後もみんな幸せ」「安全保障」など、学生もさまざまな声を持っていることが伝わってくる。
「昨年の衆院選と比べると今回の参院選は関心が下がっている印象だ。衆院選のときは『103万円の壁』など分かりやすいものが提示されていて、学生が寄せるメッセージにも、賃金などの身近な政策が多かった。今回の参院選は、各党の選挙公約を見ても若者に向けたものが目立たず、社会や将来への漠然とした不安など、やや大きなテーマを書く傾向にある」と藤田さん。一方で「若者の意見を政治に届けてほしいという声も出ているし、若者の声を聞こうという姿勢の政党も増えている実感がある」と、若い世代の政治に対する意識も、政党の若い世代に対する意識も変わりつつあることを指摘する。
メッセージに「武力行使ZERO」と書いた法学部4年生の男子学生は、広島県の出身で、被ばく4世に当たるという。藤田さんが話しかけると「核兵器を持っていた方が平和になるという考え方もあるけれど、極論かもしれないが、お互いに武器を使わないのが一番いい」と、その理由を説明。「これまで選挙についてあまり考えていなかった。投票日まであと数日あるので、どうしようか考えたい。これまで自分の1票はあまり大したことないと思っていた面もある。こういう活動があると、自分のように、行動に移そうと考えてくれる人が出てくるのではないか」と期待を寄せる。
藤田さんは「法学部の学生の中にも、政治に興味のない人や選挙自体があることを知らない人もいる。そういう人にも来てもらえるようにしたい。メッセージを書いて、私たちとちょっとした対話をすることで、政治についてお互いにいろいろなことを考えることができれば」と手応えを感じていた。
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主権者教育 政治の仕組みについて知るだけでなく、主権者として自立し、他者と協働しながら、さまざまな社会の問題解決を主体的に担う力を身に付けさせることを目的に行われる教育。2016年から選挙権年齢が18歳に引き下げられたことに伴い、高校生をはじめとする若年層への主権者教育の重要性が増している。