生徒と生成AIが共創する探究的な学び 船橋市立飯山満中が挑む新境地

生徒と生成AIが共創する探究的な学び 船橋市立飯山満中が挑む新境地
「社会×美術」の授業で発表していた生徒たち=撮影:松井聡美
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​ 生成AIと協働することで、生徒の探究的な学びや自己調整学習は実現するのか――。約2年前から生成AIを校務や授業に積極的に導入してきた千葉県船橋市立飯山満中学校(野上浩資校長、生徒344人)でこのほど、公開授業研究会が行われた。授業では生成AIが学びの一つの手段として日常使いされており、今年度からは教科横断的な学びにも挑戦。また、生徒に実施した生成AIの活用に関するアンケート結果も公表され、約9割の生徒が「自分の考えが深まった」と肯定的な回答をしていることが分かった。

教科横断で深まる「歴史」と「表現」

 3年生で行われていたのは、「社会×美術」の教科横断型授業。社会科で学んだ明治期から大正期の歴史を、美術科で作品として表現するという、ユニークな試みだ。

 社会科の渋江英俊教諭は、「これまでの社会科は年号や出来事の暗記が中心になりがちだったが、今回は明治から大正の激動の時代を題材に、生徒自身が現代に伝えたいことを考え、探究することに挑戦した」と、この授業のねらいを語る。

 生徒たちはまず社会科で、明治・大正時代の歴史的事象や人物について調査。なぜその出来事が起きたのか、その背景に何があったのかといった因果関係や価値の転換に注目し、それが現代社会に与える影響を考察した。こうして自分が調べた事実から「現代に伝えたいこと」をまとめ、スライドにした。

 並行して美術科では、明治・大正時代に活躍した作家の作品技法や社会的・文化的背景を整理。令和との比較や課題意識なども踏まえて「自分で表現したい主題」を考え、それらをスライドにまとめた。

生成AIが「教科と教科をつなぐコネクター」に

 こうしてできた2つの教科におけるスライドを生成AIに読み込ませ、▽2つのスライドの要約▽社会科の「現代に伝えたいこと」と美術科の「自分で表現したい主題」に対するアドバイス▽社会科の「現代に伝えたいこと」と美術科の「自分で表現したい主題」の3つの共通キーワード――を提示するよう指示。生徒たちは、生成AIのアドバイスなどを参考に、自身の問いをさらに深めた。

 この日の授業では、班ごとに各自が調べた内容や生成AIが出した共通キーワードなどを発表し、意見交換。例えば、社会科で政治家の原敬を、美術科で風刺画家レオナルド・レイヴン・ヒルを調べた生徒は、「今、海外のさまざまな国で争いなどが起こっているので、それに関連した風刺画を白黒で描いてみたい」と構想を明かした。

 振り返りでは、多くの生徒が「生成AIの活用によって学びが深まった」と実感。「最初は社会と美術、それぞれのスライドに共通点などないと思っていたが、生成AIに出してもらった共通キーワードを見て、こんなにも似ているところがあったのかと、よい気付きを得ることができた」といった声が聞かれ、生成AIが教科と教科をつなぐコネクター役となったことがうかがえた。

 一方で、「生成AIに出してもらったものは、自分なりに理解していたものが多く、あまり自分の考えは深まらなかった」という声もあった。

 今後、生徒たちは今回の探究結果をもとに、生成AIも活用しながら表現方法や構成を具体化し、美術科の授業で作品制作へと入っていく。

生徒の「素朴な疑問」が教科横断の起点に

 「この時代は風刺画が多いと思った。美術でもやるんですか?」。実は、今回の教科横断の学びは、社会科の授業中に出された、ある生徒の素朴な疑問からスタートしたという。

 渋江教諭は「生徒の声に耳を傾けることは、教科横断的な学びにつながる。社会科もより深く学べたし、そこで学んだことを美術科の作品にしていくので、生徒たちがどんな作品をつくるのか楽しみだ」と語る。

 野上校長は、「中学校では教科ごとに教員が固まりがちだが、本校では教科や学年の枠にとらわれずに、教員が授業について話したり、相談したりしている。そうした関係性があるからこそ、教科横断的な学びが実現できるのではないか」と、教員間の連携が教科横断の土台となっていることを強調した。

 この日の公開授業では、「社会×美術」以外にも、「英語×社会」「国語×理科」の教科横断型授業が各学年で行われ、特別支援学級でも「美術×国語」が展開されるなど、学校全体で多様な教科横断型の学びが実践されていた。

2年生理科では、生徒それぞれが問いを立て、生物分野における探究的な学びを展開。ペンギンがなぜ飛べないのか、羽の骨をつくりながら探究する生徒=撮影:松井聡美
​2年生理科では、生徒それぞれが問いを立て、生物分野における探究的な学びを展開。ペンギンがなぜ飛べないのか、羽の骨をつくりながら探究する生徒=撮影:松井聡美

「生成AIを手段の一つとして自然に取り入れている」

 同校は2023年10月、文部科学省の生成AIパイロット校の指定を受け、校務や授業での生成AIの活用がスタートした。今年度はリーディングDX認定校となっている。公立校故に教員の異動が多い中でも、生成AIを含めた教育DXを継続的に推進してきた。

 特に生成AIの活用が注目されがちだが、内藤亮生教務主任は「生成AIは手段の一つ。生徒が主体的に学ぶ環境をどう整えるかが重要だ」と強調する。

 現状の課題として、コンピテンシーの明確化や、問いの設計力、授業と育成目標の一致などを挙げ、「生成AIで『調べてまとめる』という段階はもう終わるだろう。生徒がそれに意味付けし、活用する学びへの転換を目指していく」と、今後の教育の方向性を示した。

 公立中学校で、生成AIを授業で日常的に活用している様子が見られるとあって、この日の公開授業研究会には全国から約110人の教育関係者が参加。「生成AIを使ってみたいけれども、足踏みしていることを、現場にいて感じる。教員間でも、学校間でも差がある。飯山満中では、教員も生徒も一つの選択肢として、自然に取り入れている姿に驚いた。『これならやってみたい』と思える活用がたくさんあった」といった声が聞かれた。

生徒の約9割が生成AIの活用で「自分の考えが深まった」

 公開授業研究会では、同校の生徒に対し、授業や日常生活の中で生成AIをどのように活用しているかを調査したアンケート結果も公開された。中学2・3年生、合わせて205人が回答した。

 「授業でAIを使うことで自分の考えが深まったと感じたことがあるか」との質問には、「とてもそう思う」が49.8%、「そう思う」が37.6%と、約9割の生徒が肯定的な回答を示した。

 具体的には、「数学の授業で難しい問題や途中式のヒントだけをAIに求め、解法の道筋を自分で整理できた」「社会科の授業で江戸時代のビジネス案や宗教と食文化などをAIに検証・多角化してもらい、メリットとデメリットを比較できた」などの例が挙がった。

 「生成AIを使うことで、自分で学びを進めたり、調整したりする力がついたと思うか」についても、「とてもそう思う」が33.7%、「そう思う」が48.3%と、こちらも肯定的な回答が多かった。

 生成AIをよく使っている場面(複数回答)では、「授業中の問題解決」(91%)が最も多く、「調べ学習」(79%)、「アイデア出し」(73%)、「意見・文章の要約や整理」(65%)、「家庭学習・宿題補助」(48%)と続き、生徒が多様な場面で活用している実態が明らかになった。

 ユニークな活用方法としては、「その日の天候や活動内容を入力し、最適な日焼け止めを教えてもらう」といった生活への応用や、「テスト範囲を貼り付け、2週間分の学習スケジュールを自動生成させる」「一人で寂しい時の話し相手として雑談し、気分転換や自己整理に活用」といった声も上がった。

 生成AIを使って良かったこととして、「友達や先生に相談できないことでもアドバイスを聞くことができる」「AIのおかげで、文章で書きたいことを見つけることができた」といった声があった。

 さらに、ほとんどの生徒が「生成AIを使う時に気を付けることがある」と回答しており、具体的には「情報の真意を確認(ファクトチェック)」「個人情報を入力しない」「AIに頼り過ぎず自分で考える」「人を傷つけない・悪用しない」「著作権・盗用の回避」などが挙げられた。

 同校研究主任の大浜美樹教諭は「日常的に活用することで、生成AIを頼りにし過ぎず、上手に付き合う力が着実に育っている」と、生徒たちのAIリテラシーの育成に手応えを述べた。

 同校では12月にも第2回公開授業研究会を予定している。

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