女子中学生を対象に理系への関心を高めてもらおうと、東京都文京区のお茶の水女子大学本館でこのほど、「ひろがる工学・つながる工学セミナー」が開かれ、応募した約20人が参加した。ぬいぐるみの裁縫やビーズ細工といった手芸と数学、情報科学との隠れた関係がテーマとなり、コンピューターでシミュレーションできるプログラムなどが紹介された。
日本は理系学部に進む女性が国際的に見ても少ないという課題があり、中学生の段階で理工系への興味を持ってもらう狙いがある。セミナーでは、理学部情報科学科の五十嵐悠紀(ゆき)准教授が「ぬいぐるみとコンピューター~手芸に隠れる数学や情報科学を探ろう~」と題した講義を行い、「立体を想像しながら平面の壁紙を作るのは大変。立体を分割して平面に展開するとゆがみが出る。だけど、ゆがみなく展開できる平面がある」と解説。参加者にぬいぐるみのデザインを描かせて、どういう型紙が必要か想像させ、ぬいぐるみの型紙となる平面と数学との関係などを説明した。
ここでは、コンピューターグラフィックス(CG)の形状モデリングとシミュレーションを使ってオリジナル手芸作品が設計できるようにしたことや、ビーズ細工と一筆書きができるオイラーグラフ構造が関係している点などにも触れ、「手芸だけでなく、スポーツ、音楽、アートなどいろいろな分野と、情報科学、数学は親和性が高い」と強調した。
講義後、参加者は大学生、大学院生と交流。中学生からは「中学生時代に熱中していたことは」などの質問が出て、大学生らは質問に答えたり、大学で学べることや自身の研究について説明したりした。一方、保護者は別室で大学教員と懇談。五十嵐准教授が子育てしながら研究を続けてきた経験など女性研究者の働き方や学部学科の特徴などについて説明、保護者からの質問に答えていた。
同セミナーは、お茶の水女子大のプログラム「理工系フロントランナー育成加速イニシアティブ」の一環として、同大の理系女性育成啓発研究所が開催。進路選択を意識していない女子中学生を主な対象に、理系進学へのモチベーションを育成し、将来につなげていく。
この日のほかにも、年間を通してセミナーや観察会などを実施する。これらの取り組みは科学技術振興機構(JST)が助成する「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」に2025年度の事業として採択されており、最大3年間、支援を受けられる。
同研究所の加藤美砂子所長(副学長)は「中学生向けのシーズ発掘プログラムと中高生向けの育成、強化プログラムの3段階があり、女子中高生の進路選択を支援したい。日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国平均に比べて、理系に進学する女性がかなり少ない。あらゆる分野のイノベーションで性差を含む多様性の視点、発想は重要」と訴え、そのためにも、進路選択を判断する高校生よりも早い段階で理系に興味を持ってもらうことや、保護者への情報提供などに力を入れているという。