読解力低下で、教育大臣が学校で移民の子供を制限する提案 ドイツ

読解力低下で、教育大臣が学校で移民の子供を制限する提案 ドイツ
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急激に低下する児童生徒の読解力

 各国の教育事情や教育問題を長年調べてきて気が付いたのは、先進国ほど児童生徒の読解力の低下に苦慮しているということだ。途上国の児童生徒が読解力で問題があるのは、それなりに理解できる。十分な教育資源がなく、教師も十分に存在しないのが原因であろう。しかし、先進国は巨額の教育資金を提供し、優れた施設や教師、教材が整っている。保護者の教育に対する意識も高いはずだ。しかし、前回紹介した英国と同様に、ドイツでも児童生徒の読解力低下という問題に直面している。

 ドイツの公共放送局『Deutsche Welle(ドイチェ・ヴェレ)』は、5月16日付の記事「Germany: Reading skills below European average」で、同国の教育の現状を報告している。かつて経済や政治、文化でヨーロッパをリードしてきたドイツに、何が起こっているのだろうか。

 60カ国以上が参加するPIRLS(国際読書力調査)で、ドイツの小学4年生の成績は過去20年間に確実に悪化している。2021年の調査結果では「ドイツの4年生の25%は、小学校高学年で必要とされる読解力の最低レベルにも達していない」という結果が出た。

 ドイツのカリン・プリエン教育大臣は「この結果は危機的だ。小学校での教育政策を急いで見直す必要がある」と語っている。01年に最初の調査が行われた時は、読解力に問題がある児童は17%に過ぎなかった。20年間に8ポイントも悪化している。

 この調査に携わった研究者は、いくつかの要因を指摘している。その一つはコロナ禍であるが、これは一時的な要因である。他の要因は長期的かつ永続的なもので、「06年以来、一貫して観察されるものだ」と語っている。

 保護者が高学歴か富裕層の場合、子供たちは良い成績を上げている。そうした子供たちは、早い段階から家庭で教育を受けている。全体としての児童生徒の読解力低下の背後には、貧富の格差の拡大とドイツ語を話せない移民の子供たちの増加がある。特に移民の子供たちは、家でドイツ語を話す機会が限られており、学校の授業についていけない。ドイツと同様に移民が増え、多文化化が進んでいるオランダやベルギーでも、児童生徒の読解力の顕著な低下が見られる。

 同研究者は、2番目の理由は教室での授業計画にあると指摘している。ドイツの小学校で読書および読書関連に費やされる時間が、他の国の平均を大きく下回っている。OECD加盟国では週平均200分が読書関連の時間に充てられているが、ドイツの場合は140分に過ぎない。そして問題は、読解力の低下にとどまらない。

移民の子供の問題は政治化し、割り当て制度も提案されている

 こうした教育問題が政治的な問題へ発展している。ドイツには1930万人の移民が住んでおり、人口の約30%を占めている。若者に限ってみれば、その比率はもっと高い。都市部に住んでいる子供の55%が移民のバックグラウンドを持っている。ドイツの教育の劣化の理由の一つに移民問題があるのは間違いない。

 『ドイチェ・ヴェレ』は、学校における移民の子供の割当制導入に関する議論が行われていると報じている(7月12日、「Germany debates quota for immigrant students」)。

 プリエン教育大臣がドイツの学校で移民の子供を制限する提案を行い、議論が巻き起こっている。中道右派のキリスト教民主同盟の政治家も「移民の子供の数を制限する割当制は考慮に値する。最終的に移民の子供の比率を30%から40%に制限すべきかどうか、検討すべきだ」と語ったと伝えている。現在、台頭しつつあるネオナチ的な極右政党が割当制を主張するのは理解できるが、教育大臣やキリスト教民主同盟のような良識のある政党の政治家までが露骨な反移民的政策を支持するまでになっている。

 ドイツ教員協会の役員は「児童生徒が十分なドイツ語能力を持っていなければ、教えるのは難しい。しかし、個々のクラスに特定の割当を達成するために児童生徒を割り振るのは意味がない。それは学校コミュニティー内の社会的結束を促進することにはならない」と批判している。

 同記事は「自分の学校の児童生徒350人のうち、80%以上が移民の子供である。割当制は非現実的だ。教育レベルの低下を移民と関連付ける主張を聞くが、それは事実ではない。私たちは移民の流入の恩恵を受けている。私たちは良い教育を得ようという、意欲ある多くの子供たちを受け入れてきた」という校長の言葉を紹介している。さらに「ドイツの教育に関して一つ確かなことがある。それは、教師、保護者、児童生徒、専門家全てが、教育システムを緊急に改革する必要があることに同意していることだ」と書いている。

 移民問題は人口減少に直面する多くの先進国にとって、避けることができない問題である。どの国でも常に移民排斥運動が起こる可能性がある。これから否応なしに移民や外国人労働者が増え続けるだろう。その数がクリティカル・マスに達すれば、一気に問題が噴出してくる。その影響を最も敏感に受けるのが教育分野であろう。

 日本も他国の例を見ながら、慎重かつ万全の準備をする必要がある。排斥することは、何の解決にもならないのは確かである。

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