高校生も実感する教員不足の深刻さ(室橋祐貴)

高校生も実感する教員不足の深刻さ(室橋祐貴)
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 4月28日、文科省が実施した「教員勤務実態調査」の速報値が公表された。結果は、一定の改善は見られたものの、根本的な改善にはつながっていない。これでは、ワークライフバランスを気にする教員志望学生を引きつけることは難しいだろう。

 「教員不足」の影響は児童生徒にも広く及び始めている。筆者は「給特法のこれからを考える有志の会」の一員として、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の抜本的見直しを求めてきたが、高校生からも教員の長時間労働をなんとかしたいという声が上がり、新しく高校生を主体としたキャンペーン、「【学校崩壊の危機】公教育を守る為、教員予算を増やして、教員の労働環境を改善してください!#SaveEducation」を開始した。

 オンライン署名サイト change.org で4月30日に始めた署名は、開始から1週間もたたず、2万人以上の賛同が集まり、5月15日時点で約2.9万人に達している。

 高校生が感じているのはまさに公教育の危機的状況だ。

 東京都教育委員会の調査によると、都内の公立小学校では、2023年4月7日時点で約80人の教員が欠員しており、公立高校の欠員はほとんどいないという結果になっているが、実際の学校現場では、新任の先生が多かったり、クラスの掛け持ちがあったりなど、なんとかギリギリ保っている状態となっている。

 実際、高校生から集まったエピソードをいくつか紹介したい。

 都立高校 2年生

 「小中高と公立の学校に通っています。学校の先生には大変お世話になっており、私自身公立中学校の教員を目指しています。高校で家庭科の先生の産休代替講師が見つからず、1人の先生が同時に2クラスを相手する授業を受けたとき、公教育の崩壊を実感しました。担任の先生は運動部と生徒指導を担当していて、とても忙しそうなので、進路や友人関係などの相談をしたいと思っても、申し訳なくてできないことが多いです。小学校では心を壊してしまった先生もいました。子どもと先生と日本の未来のために、早急に教員の労働環境を改善してください」

 都内私立高校 3年生

 「私の学校は、教師の入れ替わりが年々激しくなっており、現在の教師のほとんどはここ数年で入った新任ばかりです。さらに、新しく教師として入ってきても、1年後には退職する方々が非常に多く、安定感に欠ける体制が続いています。新任の先生が増えると、校内に新しい空気が生まれて新鮮で良いのですが、望ましくない面も多々あります。テストの難易度や成績の評価基準などを把握しきれていない新任の先生が、基準と比較すると厳し過ぎる評価を付けたり、難し過ぎる試験を作成したりすることもあります。それによって単位を落とし、退学・留年する生徒や、評定平均値が下がり、(大学入学者選抜で)推薦を受け取れる基準に届かない生徒や総合型選抜に挑戦できない生徒などがいます。多くが受験生である高3の担当教員は、進路指導に慣れているベテランの教員が望ましいのに、新任の先生がなることもあり、進路に直結する年だからこそ信頼感も低く、不信感が拭えません」

 近年、東京都こども基本条例やこども基本法が施行され、子どもの権利を学校の現場でも尊重することが求められるようになってきているが、教員が新たに子どもの権利を学んだり、子ども一人一人に向き合ったりする時間がなければ、現場は変わらない。

 こうした状況に対し、高校生たちは6つの改善策を求めている。

1.学校に教員の数を増やしてください(25人学級の実現)

 きめ細かい指導を1人が40人にするのは不可能です。教員の数を増やしチーム担任制、少人数学級、小学校における教科担任制の導入を進めてください。仕事を分担し休みやすい環境を作ってください。少人数学級では先生の目が行き届き、生徒の自己肯定感アップにつながっています。

2.教員の仕事内容を見直してください

 教員に生徒、保護者、行政、地域住民は多くのことを求めています。過酷な労働環境の中で授業研究や生徒対応をきちんとできていないと感じている先生も多いです。部活動や防災対策、事務作業などの教師としての専門性が問われないことに関しては外部への移行を進め、先生が私たちに向き合える時間を増やしてください。

3.教員の質を担保してください

 国は教員の質向上を目的として、教員免許を更新制にしていましたが、費用や時間の負担が大きく、令和4(2022)年の改正でなくなりました。団塊世代の一斉退職や少人数教育推進での教員の需要増加で採用人数は増える中、少子化や長時間労働、低賃金を理由に(教員採用試験の)受験人数は減少しています。小学校では倍率2倍を切る地域も出てきています。国は現在定年退職後の再任用や、免許を持たない、経験や知識のある社会人の採用を進めるよう通知を出していますが、諸外国のように教員の質向上を目指し、学費の補助や教員になっても学び続けられる環境を整備してください。

4.教員の正規雇用を進めてください

 教職員の給与の国費負担に関する改革(国庫負担割合を2分の1から3分の1に引き下げ)や長期的な児童数の見通しがたたない(少子化で減る可能性が高い)ことが理由で、教員の非正規の割合は増え続け、その数は全国の公立学校で5~6人に1人の割合になっています。数カ月や1年の雇用契約で、教員1年目でも初任者研修なども受けられずに教壇に立ちます。教員の負担も大きいですが、担任や授業担当が短期で変わるのは生徒もすごく大変です。

5.校舎の老朽化を改善してください

 公立学校は第二次ベビーブームに合わせて建築されたものが多く、校舎の老朽化が深刻な課題になっています。22年の調査では建物の老朽化が主因で発生したひび割れや破損など、児童生徒等の安全を脅かす不具合は全国で2万2029件発生していました。和式のトイレや雨漏りがする教室、壊れて使いものにならないエアコン。安全で快適な環境で授業ができるよう、校舎の修繕を進めてください。

6.公教育で多様な学びを実現してください

 不登校の生徒数を見れば分かるように、生徒の多様性を無視した、昭和型の画一的な教育モデルは限界がきています。個人個人に合った教育を選べるように、教育カリキュラムの自由度を上げ、児童生徒の選択肢を増やし、公立でも質の高い国際バカロレアやイエナプラン教育、ボーディングスクール(全寮制)などの教育を受けられる環境を整備してください。

 「教育は国家百年の計」と言われるが、公教育に十分な予算を割いてこなかった政府や自治体が、今に続く30年以上の日本の低迷を導いたと言っても過言ではない。同じ失敗を繰り返さないためには、教育現場に大きな予算と権限を与え、公教育を再興させることが急務だろう。

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