永岡桂子文科相は中教審に教育の働き方改革や処遇改善を諮問した(本紙電子版5月22日付)。教員の過剰労働が指摘され、教員不足が深刻化する中、教員勤務実態調査で状況はあまり改善されていないことが確認され、自民党からも教員制度改革案が出されている。中教審での議論は今後の政策に直結するはずなので、どのような議論がなされるか、注目される。
中教審での議論には、自民党案(本紙電子版5月10日付・参照)が参照されるものと思われる。自民党案の主なポイントは以下の通りだ。
○給特法の教職調整額を4%から10%以上に増額
○教員の平均時間外在校等時間をまず月45時間以内、将来は20時間程度にまで減らす。(現在は小学校約41時間、中学校約58時間)
○管理職手当の改善、学級担任手当の創設など
○中学校35人学級の実現
○小学校高学年教科担任制の強化
自民党案は、現状を大きく好転させるものでありうる。しかし、次のような課題を指摘する必要がある。
●時間外勤務時間に応じた手当は付かないので、時間外勤務を減らすインセンティブは働かないままで、「定額働かせ放題」は変わらない。
●手当が付く学級担任や管理職については、他の教員より長時間働いて当然ということになりかねない。
●教員の業務を目に見えて減らす点は見られない。
結局、教員の収入は増えるかもしれないが、教員の業務量が減る要素は見られず、むしろ収入が増える分だけ長く働くのが当然だということになりかねない。
では、どうするか。国が主導して業務を確実に減らす策を取るべきである。実効性ある策として、以下の2つを挙げたい。
ほぼ予算がかからずすぐに実現できるのが、年間授業時間数の削減である。具体的には、年間35週分(小学1年生は34週分)となっている授業時間数を34週分あるいは33週分に減らすのである。こうすることで、4月の授業開始時期を少し遅らせて余裕をもって新年度の準備ができるようにした上で、年間通して午前授業の日を増やし、教員が会議、採点、事務作業などに充てる時間を、勤務時間内で確保できるようになる。もちろん、各教科等の内容については一部簡略化して扱ってよいこととする。
文科省は、最新の学習指導要領の施行に際して、小学3~6年生について週あたり1時間増やすという悪手を取ってしまっており、小学校教員の負担を増やしてしまった。そもそも教員の過剰負担が深刻であったことを思えば、必要なのは逆に授業時間数減であったはずである。今からでも授業時間減を検討すべきではないか。
中学校や部活動のある小学校等では、部活動指導が教員の実質労働時間を長くしていることは明白である。教員の勤務時間は基本的に平日8時ごろから17時ごろまでであろうが、夏場などは部活動が18時以降まで行われることが珍しくない上、7時ごろから朝練習があったり、土日にも部活動に入ったりすることが当たり前のように行われている。この状況を放置したままで、教員の処遇を改善することができるはずはない。
現在、部活動の地域移行が進められているが、地域移行は進んでおらず、仮に進んだとしても平日を中心に教員の負担が残る恐れがある。
地域移行を待つだけでなく、当面は教員が部活動指導をある程度行うことを前提に、改善策が取られるべきである。具体的には、以下のようなプランであれば、すぐにでも実行できるはずである。
・原則として、教員が部活動の指導を行うのは、平日の勤務時間内のみとする。このため、地域移行ができていない地域や学校では、部活動は平日の放課後(17時ごろまで)や長期休業中の平日のみとなる。
・部活動の大会等は、原則として長期休業中等の平日のみとする。
・例外的に教員が時間外に部活動指導を行う場合には、給特法の教職調整額の適用範囲外とし、給与水準に合わせた時間外・休日勤務に係る手当を支給しなければならないこととする。
・教員が地域移行後の部活動の関与を希望する場合には、兼業手続きを取り、教員としての勤務時間外に従事することとする。
要は、教員が無償で勤務時間外に部活動指導に従事することを、法令で明確に禁止するのである。この措置を取れば、中学校を中心に教員の時間外労働は大幅に削減される。
以上のような具体策なくして給与体系だけを変えても、教員の多忙感が変わらないことに絶望が生じ、教員不足をますます深刻化させることになりかねない。上記のように国がすぐにできる策を検討しなければ、事態は何も改善されないのではないか。
なお、中教審が議論する際に忘れてほしくないのは、給特法は公立学校のみに適用される法律であり、国立や私立の学校には適用されないということである。国立や私立の学校では、教員の業務を削減し、必要な時間外手当を支給するなどのやりくりを行っている。この結果、国立の附属学校では部活動を廃止したり、大幅に縮小したりしているところも多くなっている。
教員の働き方改革を進めている国立学校の生徒は、短時間で工夫して部活動を行い、大会等では長時間部活動をしている公立学校と対戦しているのである。同じ学校種なのに、設置主体が異なるだけでこれほど条件が違うのは、法の下の平等に反するとも考えられる。ぜひこうした視点も忘れずに議論を進めてほしい。