一般社団法人・リディラバが提供する「スタディツアー」を経験した子供たちは、社会問題に関わる進路を志すようになったり、探究的な学びに意欲的になったりするなど、大きな変化があるという。代表・安部敏樹氏へのインタビューの最終回は、予測不能な未来に適応できる子供たちを育てるために、今後学校での学びをどのように変えていくべきかを聞いた。(全3回)
主体性を引き出すためには、他者とのフィードバックが必要です。フィードバックの中で「自分で解きたい」と積極的になっていけるようなテーマが見つけられると良いでしょう。「自分が関われば、何か変わるかもしれない」と思える場所や機会を、小さなことでもいいから持たせてあげるべきです。
もう一つは、子供たちにとって価値平面上の距離が遠いものと交流させる工夫が必要です。価値の平面というものがあったとしたら、その平面上において、距離が遠いところと交流することで価値が生まれます。近いところの交流では、価値も主体性も生まれづらくなります。
例えば、高齢者施設に行ったことがない子が初めて行くと、「どうしてこれをしないんですか?」「これができればいいんじゃないですか?」などと、次々に疑問や提案が出てきます。「じゃあ、あなたがやってくれる?」と施設の方に言われると、本人はとてもやる気を出して取り組みます。ところが、家の手伝いを頼んでも、子供はなかなかやる気が出ないものです。
地理的に遠くに行けばいいというものではなく、価値の平面上の距離をいかに遠くするのかが重要です。地理上は近くても、価値平面上はとても遠いという交流もたくさんあります。先生が知っているところや想像のつくところばかりとつなげるのではなく、こうした視点から課題をコーディネートすることが必要だと思います。
今、未来がいかに予測不能であるかを受け入れなくてはいけない時代になってきています。その意味でも、社会問題はとてもいい教材だと思うんです。
現代社会は、どんどん多変数になっていて、混沌(こんとん)として複雑な仕組みになってきています。そこに適応できる人材を育てることが、未来の子供たちを育てるということだし、教育の中身もそれに対応して変えていかなければいけません。
社会問題は、なんとなく文系の領域に思われていますが、課題が起きる原因も、課題を解決する手段も「テクノロジー」が深く関わっています。例えば、フードロスの解決に向けてごみを処理して豚の餌を作る場合には、アミノ酸や化学化合物など複雑な問題が絡んでいます。
社会問題を学ぶことで、子供たちはどんどん深掘りして学んでいきます。「イシュー」から入った方が、学びの裾野が広がるのです。ただ「化学を勉強しなさい」と言われてもやる気にならないけれど、フードロスの問題を解決するために必要ならば、「やってみようかな」と思えるのです。
僕たちは学校で習ってきたことの多くを忘れてしまっています。では、どういう学びは忘れないかというと、自分がオーナーシップを持った学びです。そうして学んだことは、知識としても抜けづらいものです。
正解なんか教えたって、その正解は5年後、10年後には変わってしまうかもしれません。それよりも、子供たちがオーナーシップを持った学びを一つでも二つでもいいから経験させてあげる。それだけで、子供にとっては大きな自信になります。社会問題のように、「自分がやらなければ」という環境に身を置くことが、とても大切なのです。
今、多くの人が社会問題に関心を持てないのは、「自分が何かしたって社会は変わらない」と思っているからです。だから、20歳までに社会問題に自分から参加して、小さくてもいいから「社会を変えた経験」をさせることが大事です。
社会をよくできる、課題は解決できると思わなかったら、社会参加する大人にはなりません。こうした経験こそが、有権者としての行動や、社会を構成する一員としての認識を形成していくのです。
(先を生きる取材班)
安部敏樹(あべ・としき) 1987年生まれ。株式会社Ridilover、一般社団法人リディラバ代表理事。東京大学在学中に社会問題の現場を学ぶスタディツアーを提供するリディラバを立ち上げる。総務省起業家甲子園日本一、学生起業家選手権優秀賞、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞、第2回若者旅行を応援する取組表彰において観光庁長官賞(最優秀賞)受賞など受賞歴多数。リディラバでは、社会問題を構造化する社会問題専門の購読型メディア「Ridilover Journal」も配信中。著書に『日本につけるクスリ』(竹中平蔵氏との共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『いつかリーダーになる君たちへ』(日経BP社)。