デンマークの公共図書館でメーカースペースが広がっている。メーカースペースとは、3Dプリンターやレーザーカッターなどの各種創作活動のための資源や、そこに集まる人々の知識を共有し、何かを作ることのできる空間のことだ。ファブスペースやファブラボなどと呼ばれることもある。
利用者は、作りたいものを作りたい時に自由に作れるし、ワークショップに参加し、スタッフのサポートを受けながら創作活動を進めることもできる。中には、学校と協力してコースを提供する公共図書館のメーカースペースもある。
ヘアニング市の公共図書館では、2018年2月からメーカースペースを設置している。3Dプリンター、レーザーカッター、デジタルミシンや、プログラミングロボット、動画編集や3Dモデリング用のソフトウエアが入ったPCなどが備えられ、誰でも自由に利用できる。
このメーカースペースの重要な役割の一つに、市内にある学校のICT・プログラミング教育の支援がある。学年別にコースメニューを用意していて、教員は自由にコースを選択できる。
例えば、低学年向けの「プログラミングの考え方を学んでロボットを動かす」や、小学校中学年から中学生を対象とした「アニメーションを作る」などのコースがある。
「Micro: bitなどを使って本のお話の世界を表現する」というコースは、図書館の蔵書1冊を生徒に読み聞かせた後に、その本のお話の世界をコーディングブロックで表現する。つまり、図書館が持つ資源と、デジタルデータを用いた創作活動(デジタル・ファブリケーション)を組み合わせている。
デンマーク文化省の城・文化局がまとめた報告によると、18年には全国に98ある基礎自治体のうち27自治体で、公共図書館と学校との協力により何らかのメーカースペースを活用した取り組みが行われているという。また22自治体において、公共図書館内のメーカースペースを拠点に、継続的なクラブ活動が行われている。
公共図書館にメーカースペースが広がった背景には、図書館が直面している事情が関係している。
資料の電子化や、電子図書館サービスが進展する中で、いま図書館は、物理的な「場」としての存在意義が問われているのだ。創作活動というフィジカルな体験機会を提供するメーカースペースは、「場」としての図書館の存在意義を市民に改めて提示するための方策の一つになっている。
一方、教育界では14年の教育改革を契機に、学校教育を地域社会に開き、企業や各種民間団体、行政機関など、学校外との密接な関わりの中で展開させる「オープンスクール」が重視されるようになった。
そこにICT・プログラミング教育の重要性の高まりが相まって、オープンスクールとして、公共図書館のメーカースペースを学校が利用するというケースが増えている。
メーカースペースは、学校と公共図書館が直面している課題の交点にある。これらの課題は日本でも決して無縁ではなく、デンマークにおける取り組みは示唆に富んでいる。