【0から1をつくる】PBLや探究学習のコツ

【0から1をつくる】PBLや探究学習のコツ
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 正解のない学びを子供と一緒に創る楽しさを感じてほしい――。世界の先端教育に触れる中で、これからの教育は課題解決型の学びであるべきだと考えるようになったという(一社)FutureEdu代表理事の竹村詠美氏。教員研修なども主催している竹村氏は、PBLや探究学習を行うためには、教員側のマインドセットの転換が必要だと指摘する。インタビューの第2回は、PBLや探究学習のカリキュラムをどのように設計し、主体的な学びにつなげていくべきかについて、実例をもとに解説してもらった。(全3回)

正解のない学びを創る楽しみ

「High Tech High」の授業の様子(竹村氏提供)
「High Tech High」の授業の様子(竹村氏提供)
――世界の教育を視察する中で、特にPBL(プロジェクト型学習 )や探究学習に注目されていますが、そうした学びに必要なことを教えてください。

 PBLの先端校である米国カリフォルニア州のチャータースクール「High Tech High」の場合、生徒たちはクラス単位でPBLに取り組み、学期末に一般公開される展示会に向けて作品制作に臨みます。

 その様子を見学に行くと、子供たちは教室におらず、いろんな所でいろんなことをしています。「大丈夫なの?」と心配になるほどですが、活動は先生が全体のカリキュラム設計をしっかり考えた上で進められています。

 PBLの授業を設計するとなると、1から10まで最初に全部決めておかなければ不安になる先生も多いと思いますが、そこまでガチガチに決める必要はありません。

 「High Tech High」でも、基礎として教える学力的な部分や、プロジェクトを進行する上での大きな問いと方向性、プロジェクトの始め方や終わり方はデザインされています。でも、実際にプロジェクトが始まると、子供と一緒に旅をするような感じで進んでいきます。

 例えば、「火のプロジェクト」をやるとか「飛行のプロジェクト」をやるとか、大枠はきっちり決まっていますが、その中で子供がいろいろな役割を担えるようになっています。グラフィックの好きな子ならばキャンペーンのポスターを作ったり、科学が好きな子であればプロトタイプを作ったり、みんなが参加しやすいように多様な役割があり、チームで一緒にプロジェクトを進めていく形になっています。

 対して、日本で行われているPBLや探究学習は、「先生が決め打ちしたテーマをみんなでやる」といったケースが多いのではないでしょうか。その多くは、探究学習というより調べ学習に近い形になっていると思うんです。

 例えば、日本でも注目されているSDGsから「水」の問題を取り上げるにしても、海だったり、近所の川の水質だったり、飲み水だったりと、いろいろなテーマがあります。

 本来の探究学習は、一人一人がその課題に対して目的意識を持つことが大切です。つまり、水ならば、水という「幅のある設定」を先生が設けて、子供一人一人が、自分がどんな水問題に興味があるのかを考えられるような時間を設けた上で、取り組むべきです。

 子供にはスイッチが入る瞬間が必要で、スイッチさえ入れば自走できます。自分が選んだテーマで探究し、「知らないことが分かって楽しかった」という経験を1回でもできると、他の分野にも意欲的に挑戦するようになります。

 日本の学校の先生にも、ぜひ子供たちと一緒に正解のない学びを創る楽しさを大切にして取り組んでいただきたいですね。

自身の経験やネットワークを生かした授業デザイン

「日本では探究学習というより調べ学習に近い形になっている」と指摘する
「日本では探究学習というより調べ学習に近い形になっている」と指摘する
――竹村さんは教員研修なども主催されていますが、教員がPBLや探究学習の全体設計をするためのポイントについて教えてください。

 PBLや探究学習をやるためには、先生がカリキュラムデザイナーになるという大きなマインドセットの転換が必要です。何より「やってみたい」とか「楽しい」という気持ちが必要となります。

 私たちが昨夏に開催した教育イベント「Learn by Creation」で、PBLのハッカソンをやったのですが、そのうち3つがすでに実際に授業として実施され、先生方はとても楽しそうに取り組まれていました。ハッカソンでは先生とクリエイターや企業人といった社会人がタッグを組んでPBLの案がデザインされました。実現にはエネルギーが必要ですが、従来型の授業デザインとは違うワクワクがある内容でした。

 例えば、ある中学校の理科の先生は、生徒が音の出る仕組みなど理科的なことを学びながら、廃材で楽器を作り、最後に演奏会をするという授業を設計し、実践されました。

 その先生がなぜこうした授業をデザインしたかというと、もともとバンド活動をやっていたそうなんです。自分の専門である理科だけでなく、音楽や音響についても詳しいので、「こうすると子供たちが満足できる演奏会になるのではないか」ということが見えていたのです。

 また、ある高等専門学校の先生は、今までの知識偏重型の授業をどうにか変えたいと思っていました。そこで、町の商店街と組んで授業をやろうと考えました。そして、学生がフィールドワークをハッカソンメンバーのクリエーターと共に行い、そこから実際に何をやるかを決めていったそうです。

 このように、先生自身の興味関心や経験、ネットワークを生かした授業が年に1本でもデザインできると、先生自身の成長にもなります。また、子供が家族や先生以外の社会人と接点を持つきっかけとなり、キャリア教育としての相乗効果が期待できます。

子供との対話から始める

子供たちと一緒に正解のない学びを創る楽しさを語る竹村氏
子供たちと一緒に正解のない学びを創る楽しさを語る竹村氏
――PBLや探究学習に対して難しさを感じている教員も多いと思います。

 一つのプロジェクトをみんなでやるためには、まず、子供の心理的安全性が重要です。

 子供たちがお互いのことを思いやりながら話し合えるような環境、自分の意見を発言しても大丈夫だと思える環境をつくり、その上でプロジェクトを進めると「私はこういうことが得意なので、ここをやらせてください」と言えるようになります。

 また、PBLや探究学習は取り組む期間も長く、経験のない先生がいきなりやると、途中で破綻してしまう危険性があります。

 そこで、まずは先生と子供が対話するところから始めてみてはどうでしょうか。対話をすると、子供たちのことをよく理解できて、いろんな才能を知ることができます。

 また、正解のない問いに向かって子供たちと対話していると、子供たちは本当に面白いことを言いますし、子供たちが持つ可能性のすごさを感じられます。まずは、そういう子供たちのクリエイティビティを感じられるような機会を少しずつ増やしていくことが大事です。

 そうすると、「せっかくこの子たちはこんなに面白いんだから、ちょっとこういうこともやってみようかな」などと、先生も考えられるようになります。また、子供たちが興味を持っていることや、悩んでいることにも気付けるようになるので、実態に見合った学びや授業も考えやすくなると思います。

【プロフィール】

竹村詠美(たけむら・えみ) 一般社団法人FutureEdu代表理事、一般社団法人SOLLA共同代表。慶應義塾大学経済学部卒、ペンシルバニア大学ウォートンスクール・ローダーインスティチュート卒。マッキンゼーを卒業後、Amazon、ディズニーなどの日本経営メンバーとして、サービスの事業の企画や立ち上げ、マーケティングなど幅広い業務に携わる。2011年に立ち上げた「Peatix.com」は現在27カ国、400万人以上のユーザーをもつ。現在はSTEAMや21世紀教育をテーマに執筆、講演、研修など幅広く活動中。『Most Likely to Succeed』日本アンバサダー、総務省情報通信審議会委員なども務める。小・中学生二児の母。

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