プリンストンやハーバードも 米国の大学の学資援助プログラム

プリンストンやハーバードも 米国の大学の学資援助プログラム
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 先進国では所得格差の拡大が深刻な社会問題になっている。最大の理由は学歴格差にある。特に米国では、その傾向が顕著である。多くの日本人が持っているイメージとは違い、米国は学歴社会である。大学を卒業しなければ、高所得のホワイトカラーの仕事には就けない。高卒や大学中退者には低賃金のブルーカラーの仕事しかないのが実情である。大学の授業料は極めて高額で、ブルーカラーの子供が大学に進学するのは極めて難しい。その結果、教育格差が所得格差に結び付き、所得格差がさらに教育格差を生むという悪循環が発生している。

 日本との違いを言えば、大学の奨学金制度が充実しており、成績が良ければ、低所得層の子供であっても教育の機会を得ることは可能である。筆者が米国の大学で教えていたとき、日系人の学生と話をする機会があった。彼女は「家族の所得では今の大学に進学はできなかったが、奨学金をもらって進学できた。将来、医学部に進学する計画で、奨学金をもらえるので問題ない」と話していた。

 成績優秀な学生は奨学金を得ることで大学進学が可能になるが、その数は多くはない。多くの学生は銀行から「学生ローン(student loan)」を借りて進学する。だが卒業後、ローン返済に窮する人が多く存在する。米国では4500万人以上が1兆6000億ドルの学生ローン残高を抱え、返済できず破綻する人も出てきている。バイデン大統領は学生ローンの返済免除の方針を打ち出し、その政策の発表に際して、「ローンの負担は極めて重く、仮に大学を卒業しても、かつての大卒が享受できたような中産階級の生活を手に入れることはできない」と語っている(『ニューヨーク・タイムズ』8月25日付、「The Toll of Student Debt in the U.S.」)。

 米国の大学の授業料は極めて高い。リサーチ・ユニバ―シティと呼ばれるトップクラスの私立大学の授業料は、過去20年間に134%上昇している。私立大学の平均授業料は3万9723ドルだ。州立大学では州外から来た学生の授業料は平均2万2953ドル、州内に居住している学生の授業料は平均1万423ドルである。ただ、これは授業料だけの金額だ。米国の大学の多くは全寮制で、寮費や食費などの負担もある。『USニューズ&ワールド・レポート』誌によれば、最も授業料が高い大学はオハイオ州のケニヨン大学で、授業料と諸経費で6万6490ドルかかる。マサチューセッツ州のタフツ大学の授業料と諸経費は6万5222ドル、南カリフォルニア大学は6万4726ドル、ボストン大学は6万4176ドルと、軒並み6万ドルを超えている。日本人の平均所得を大きく上回っている。

 全寮制の場合、寮費や食費もかかる。例えばプリンストン大学の授業料は5万7410ドルだが、それに加えて寮費1万960ドル、食費7670ドルがかかり、総額で7万9540ドルになる。これに本代や諸経費もかかり、おそらく9万ドル以上になるだろう。こうした状況の中で、優秀な学生を確保するために、多くの大学は学資援助プログラムを実施している。

 プリンストン大学は9月8日に、低所得層の子供に対する新学資援助制度を発表した。所帯年収10万ドル(約1440万円)の家庭の学生に対して授業料、寮費、食費などの費用が免除され、今年の秋入学の学生から適用される。同学ではすでに6万5000ドル未満の世帯所得の学生に対して学資援助制度は存在していたが、今回の制度改正で対象となる金額が引き上げられた。新制度によって約1500人の学生、比率では25%の学生が、同制度の恩恵を被ることになる。さらに奨学生はキャンパス内の図書館や食堂などで働く制度も廃止され、自由に学園活動を行えるようになる。

 こうした支援措置を講じているのは同学に留まらない。ハーバード大学では2005年から低所得家庭の学生に対する学資援助プログラムを実施している。年収7万5000ドル未満の世帯所得の学生は授業料と諸経費が免除され、学部学生の4人に1人が免除対象になっている。さらに入学に際して「start-up grant」として、新生活を始めるために必要な経費を賄うために2000ドルが贈与される。さらに健康保険、本代、旅行費、住居費、冬用のコート代、イベント参加費も支給されている。同制度が始まって以降、同学は総額で29億ドルの資金を使っており、学部学生の55%が毎年1万2700ドルの資金援助を受けている。

 また同学は今年3月、26年入学生を対象にした新しい学資援助プログラムを発表した(The Harvard Gazette, 3月31日、「Harvard to expand financial aid starting with Class of ‘26」)。それによると26年入学生から、学資援助を受けることができる所得制限が6万5000ドルから7万5000ドルに引き上げられ、授業料、寮費など全ての経費が無料になる。同学の説明では、学部学生の25%が対象になるという。

 プログラム改訂の理由を、同学のゲイ学部長は「低所得や中所得層の家族にかかる膨大な金銭的プレッシャーを解消するために、大学は学資援助プログラムに投資を継続する。ハーバード大学は世界中の優れた学生に門戸を開く努力を続けていく」と語っている。

 さらに同学は、多様性を確保する方針を明らかにしている。26年の入学生に対して、アフリカ系米国人を15.5%、アジア系米国人を27.8%、ヒスパニック系米国人を12.6%とし、また女子学生の比率を54.2%とする方針を明らかにしている。いわゆる“アファーマティブ・アクション”を実施すると発表している。

 こうした学資援助プログラムは、米国では大半の大学で行われている。さらに特徴的なのは、授業料を徴収しない大学も数多くあることだ。イリノイ大学アーバナ・シ

 学生の資金的問題に対する米国の大学の取り組みは、日本では想像もできないほど意欲的だ。ただ米国の大学が手厚い学資援助プログラムを実施できるのは、巨額の大学基金を持ち、財政的に余裕があり、大学の理念に従って行動できるからであって、日本のように文科省の資金に依存した経営では、そうした独自性は発揮できないのが現実である。

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