米国のエリート大学と私立高校の内幕 選抜方法と高額な授業料

米国のエリート大学と私立高校の内幕 選抜方法と高額な授業料
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 日本人の一般的な理解とは異なり、米国は学歴社会である。大学を卒業していなければ、ホワイトカラーの仕事には就けない。高卒や大学中退者はブルーカラーの仕事しかない。企業でも管理職になるためには、大卒の資格だけでは不十分だ。修士号あるいは博士号の資格が必要となる。筆者が米国の大学で教えていたとき、仕事をしながら夜のクラスを履修する社会人や、会社を辞めて大学院に戻ってくる社会人が多く見られた。社内で実績を上げるよりも、資金を貯めて経営大学院に入学し、経営学修士の資格を取る方が出世の可能性が高くなる。極論すれば、学歴による階級格差が歴然として存在している。

エリート大学に入学する最短の道

 大学進学を巡る高校の状況の内幕を書いた記事が『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載された(10月1日付、「There’s Still Big Trick for Getting Into an Elite College」)。スタンフォード大学2年のソフィー・コールコットさんが寄稿した記事である。その記事は「米国の全ての高校生は人生を成功させるための秘密を知っている。それはエリート大学に入学することだ」という文章から始まっている。単に大学卒業の資格だけでは成功の道を歩むことができない。エリート大学と呼ばれる有名大学に入学しない限り、成功の道は開かれない。コールコットさんは記事の中で、エリート大学に入学する最短の道はエリート私立高校に進学することであると指摘している。

 事実、スタンフォード大学では入学者の4分の1が私立高校出身者である。全国で私立高校に通う生徒の数は14%にすぎない。比率から言えば、私立高校卒の入学者の数が圧倒的に多い。ハーバード大学では、私立高校出身者の比率はさらに高く、35%に達している。

 スタンフォード大学の入学状況を詳細に見てみると、昨年は応募者5万5471人に対して合格者は2190人、実際に入学した人数は2126人だった。激烈な競争である。男女比率でみると女性が51%、男性が49%となっている。このうち12%が留学生である。家族で初めて大学に進学した者の比率は18%。高校別でみると、公立高校が60%、私立高校が27%、ホームスクールが0.5%だった。最近、米国では学校に通わずホームスクールで勉強する生徒が増えていることを反映している。

米国の大学の選抜方法

 日本では志願者が一堂に集まり、同じ試験を受け、その成績に基づいて選抜されるが、米国の大学の選抜方法は日本のやり方とは基本的に異なっている。まず入学試験がない。高校生は日本の大学入学共通テストに相当するSAT(Scholastic Assessment Test、大学進学適性試験)を受ける必要がある。スタンフォード大学では、SATのスコアは750から800が必要とされる。また、多くの大学では共通願書(Common Application)を提出する必要がある。これは日本の内申書に相当し、家族状況や高校の教育内容、高校での課外活動などを記入する。さらにエッセーの提出や高校の推薦状などの提出も求められる。これ以外に、大学によっては面接を行う。通常、応募者の近くに住む卒業生が直接面接を行う。合格すれば大学から直接、応募者に連絡が届く。

 極めて形式的な手続きのように見えるが、コールコットさんは「エリート私立高校は選抜過程に効果的に影響を及ぼすことができる。最も成績が良く、最も聡明な生徒が最も優れた大学に入学するというのは幻想である」と指摘している。すなわちエリート私立高校の校長は、エリート大学の選考担当者に直接影響を与えることができるのである。具体的には、高校の校長は選考担当者に直接電話して、情報交換などを行い、自らの高校の応募者を有利にするようなことも行っているという。

 さらにエリート私立高校では、共通願書の内容を有利にするために課外活動やスポーツ活動などをカリキュラムに組み込んで、“豊かな経験”を積めるようにし、「共通願書の課外活動の内容を良くする」ように作られている。それによって「完璧な受験生」を作り上げるのだ。エリート私立高校はホームページにエリート大学合格者の数を誇ったように掲載し、富裕層にアピールしている。

授業料が高い理由

 だが、私立高校に入学するには高い授業料を支払わなければならない。同記事によると、平均的な高校の授業料は年間1万6040ドルだが、エリート私立高校の授業料は5万ドルを超える。「1960年代以降、授業料は高騰しており、中産階級では子供を私立高校に入学させるのは難しくなっている」。大学にとってもエリート私立高校の受験生を受け入れる別のメリットも存在する。それは家庭が裕福であるため、授業料の支払いに問題がなく、奨学金を与える必要もないからだ。さらにエリート私立高校を卒業した学生は学力的に優れており、大学の知名度を上げる上でも重要な存在である。

 では実際に私立高校では、どの程度の費用がかかるのであろうか。全私立高校の年間の平均授業料は1万2350ドル、中央値は1万6600ドルである。通常、授業料に書籍代や制服代などの費用が加わり、平均値でも1万6000ドル以上の経費がかかる。子供を私立高校に通わせるには、日本の私立大学並みの費用が必要なのだ。

 エリート私立高校は全寮制が多い。私立高校の約6%が全寮制だ。そこでかかる費用はさらに多い。授業が5日制の全寮制の私立高校では平均授業料は3万3140ドルである。高校ランキングでトップのマサチューセッツ州にあるPhillips Academy Andoverの場合、授業料は5万1380ドルと極めて高額である。これに寮費を入れると、合計で6万6290ドルになる。米国の有名大学に通う経費とほとんど変わらない。ただ同校では授業科目数は300を超え、選択コースは150以上設けられているなど、授業内容は豊富である。さらに独立研究や海外研修などのプログラムも組み込まれている。高額の授業料ではあるが、同校の生徒の46%は奨学金を受け取っており、その額は4万2400ドルになる。金持ちの子供から高額の授業料を徴収し、家庭は貧しいが優秀な学生に潤沢な奨学金を与えているのである。これは私立大学でもみられる。高額の授業料には、もう一つの目的が存在しているといえる。

 米国社会の格差の最大の要因の一つに教育格差がある。日本でも同様の現象が見られる。こうした傾向は今後、さらに拡大していくだろう。所得格差が教育格差に結び付き、それがさらに所得格差を拡大するという悪循環が起こっている。日米とも、高校教育の在り方が問われているのは間違いない。

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