米国の教員が置かれている厳しい現実 全国調査で明らかに

米国の教員が置かれている厳しい現実 全国調査で明らかに
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膨大な校長と教員を対象とする調査

 12月13日、米国・教育省の教育科学研究所が『2020-2021年 全国教師・校長調査』を発表した。調査対象は50州とワシントンDCにある「K-12」と呼ばれる公立と私立の小学校、中学校、高校の教師と校長である。調査対象は大規模で、公立学校9900校の校長と6万8300人の教師、3000の私立学校の校長と8000人の教師。調査の目的は、K-12の学校と教師の置かれている状況を詳細に明らかにすることだ。データは20年10月から21年8月の期間に行われ、その結果が発表された。

 具体的な調査項目は、雇用状況(正規か非正規か)、基本給と諸手当、年齢構成、人種構成、担当教科、成績評価、クラスの児童生徒の数、教師が受けた教育と訓練、学位、教職歴、教師になるために受講した授業、教師の資格、専門分野、教職の最初の年に受けた訓練や支援、週の授業時間、準備のために必要な時間などの労働状況、学校の雰囲気、同僚の態度、クラスに対する学校の対応など、極めて広範な聞き取り調査が行われている。

 この調査を通してK-12の教師が現在置かれている状況が明らかになった。公立学校の教師の人種構成では、80%が白人、9%がヒスパニック系、6%が黒人、2%がアジア系である。私立学校では、83%が白人、8%がヒスパニック系、4%が黒人、2%がアジア系であった。圧倒的に白人教員が多い。

最も女性比率の高い小学校は89%

 性別では公立学校の77%、私立学校の75%が女性教員だった。最も女性教員が多い公立小学校では比率は89%、中学校では72%、高校では74%。他方、私立学校ではいずれも公立学校より女性教師の比率が高く、小学校と中学校では90%、高校では77%だった。教員は女性の職業と言っても良いほど、その比率は高い。日本でも女性教員の比率は上昇しているが、米国ははるか先に行っている。また教員の年齢を見ると、中央値の年齢は公立学校では42歳、私立学校では45歳であった。それほど高齢化しているわけではない。

 教職歴では、公立学校と私立学校ともに平均15年だった。現在の学校での勤務年数に限れば、平均で8年。日本の公立学校のように転勤が頻繁に行われていないようだ。公立学校の教師の51%が修士号、38%が学士号を持っている。私立学校の教師の41%が修士号、45%が学士号を持っている。公立学校の正規教師は学校関連の活動に週52時間、従事しており、授業関連の活動は25時間である。契約では公立学校の教師は週平均38時間労働の契約を結んでいる。私立学校の教師は学校関連の活動に平均52時間、従事している。授業時間は24時間である。また平均39時間勤務の契約を結んでいる。

教員の所得は米国の中央値を下回る

 20-21年では、公立学校の正規教員の基本給は6万1600ドルで、私立学校の4万6400ドルよりも高い。公立学校と私立学校の教員の17%は、所得を得るために学期中でも別の仕事をしている。ちなみに米国の所得の中央値は6万8703ドルで、教員の給料はそれを下回っている。公立学校の教員の40%、私立学校の教員の29%が、所得を得るために勤務先の学校で時間外の課外活動や補習授業を行っている。セカンド・ジョブを持たなければ、子供を大学に進学させることもできない状況にある。ちなみに州立大学にかかる授業料は寮費などの平均費用は4万550ドル、私立大学は5万3430ドルである。一般の教員の年収を越えている。

 公立小学校のクラスの生徒数は平均で19人、中学校と高校は17人。複数の教師で担当するクラスの平均児童生徒数は、小学校が21人、中学校が22人、中学校と高校が一体化した学校では21人。私立学校では、小学校と中学校が一体化した学校の場合のクラスの平均児童生徒数は14人、中学校と高校が一体化した学校の平均生徒数は16人。複数教員で担当する場合、小中学校では14人、中高校では16人だった。

 就職する前に大学院あるいは大学の教授法など授業関連のコース(授業計画、クラス管理テクニック、特殊なニーズ、異なった経済的な背景を持つ生徒指導など)を履修した教員の比率は、公立学校が78%に対して、私立学校は66%にとどまっている。教員が全て教育系の学部を卒業しているわけではない。十分な教育訓練を受けないで教職に就いている例も多い。

授業内容、生徒指導で教員は主体性を持つ

 公立学校の教員の81~85%、私立学校の教員の84~96%は、カリキュラム作成、児童生徒の評価基準の設定に際して、決定権を持っていると思っている。さらに公立学校の教員の71%、私立学校の82%は教室内での規律ルールの設定に関与できると思っている。

 公立学校の教員の96~98%、私立学校の98~99%は、自分で教授法や児童生徒評価法、宿題の量の決定、児童生徒のしつけを自分で決めることができると考えている。公立学校の教員の84~86%、私立学校の95~96%は、教える教材、トピックス、教え方、教科書や他の教材の選択を自分でできると答えている。こうした回答を見る限り、各教員には授業内容の決定や生徒指導ではかなりの主体性が保障されている印象だ。

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