スウェーデンの大学では、学生の意見を大学教育に反映させることを重視していて、教育の質向上を目的とした学生による自治組織(学生団体)が数多く存在する。実際に、学生の声がどのように形作られ、大学に伝えられているのか。ウプサラ大学の学生団体の幹部学生にインタビューした。
ウプサラ大学で歴史学を学ぶヴェンデラ・ヨンセルさんは、ウプサラ歴史学部学生会に所属している。同学生会では学部に意見を提出したり、自主的な勉強会や教授などを招いたレクチャーを開催したり、新入生に勉強の仕方を教えるメンターシッププログラムなどを行っている。学生会はこれらの活動を通じて大学教育の質の向上を目指している。
ヨンセルさんは教育審議会のリーダーを務めていて、学期に1度開催されるディスカッションフォーラムを取り仕切っている。同フォーラムは大学の活動を監査したり、大学へ意見提出を行ったりする場だ。教育審議会は約1年半前に設立された新しい組織で、フォーラムは過去2回開催されている。似たような審議会は他にも存在していたが、ウプサラ歴史学部学生会でも、より直接的に教育に影響を与える活動がしたいという思いから設置することになった。
実際にどのような意見が反映されているのか。印象的な例をヨンセルさんが語ってくれた。コロナ渦で、大学の多くの試験が自宅でのオンライン受験になった際、不正防止のためにパソコンのカメラをオンにすることがしばしば求められた。これを多くの学生がプライバシーの侵害であると訴えた結果、それぞれの学部で対策が講じられた。ヨンセルさんの学部では、カメラをオフにして、試験中に自由に資料を参照することができるようになった代わりに、より思考力を必要とする哲学的で高度な試験内容に変更された。
学生が自らの成績に不満を持った際にも、学生団体に相談することができる。学生団体は事情を聞いた後、主張が正当だと判断した場合には大学側に報告し改善を求める。一方、学生から理不尽な意見が出た場合には、学生団体で話し合われ棄却されるため、大学に届くことはない。
スウェーデンではプリスクール(幼保一体化された施設)の段階から、成長に合わせて子どもの意見を聞くことが大切にされている。小学校からは学校評議会が作られ、少しずつ意見や議論のレベルも上がっていく。その土台があるので、大学になると、自律的で強い影響力を持つ団体を組織できるようになるのだろう、とヨンセルさんは語った。権利を主張するだけではなく、自らの学びに責任を持ち、より良いものにしたいという感覚が自然に身に付くのだという。
スウェーデンの高等教育法では、学生はコースや学習プログラムに影響力を行使する権利があると明記されている。また、大学などには、コースやプログラムを開発する際に学生から監査を受けたり、民主的な学生団体の設置を許可したりすることが義務付けられている。
ヨンセルさんは、学生からの意見を受け取った大学側は、実際に改善策を講じるか、納得できる理由を常に提供していると思う、と語った。高等教育法では、教育の質保証のための手続きは高等教育機関の職員と学生双方にとって重要であるとされている。
スウェーデンは、国連の子どもの権利条約をいち早く批准し、法整備した国の一つだ。幼い時から、学校と学生(生徒)が手を取り合って教育を向上させていく仕組みが作られている。