現在、米国の教育現場は保守派とリベラル派が激突する“文化闘争”の最前線となっている。保守派は奴隷史や黒人史の教育を禁止し、LGBTQの教育を制限し、さらに図書館での奴隷史やLGBTQ関連書籍の閲覧を禁止したり、書籍の排除を進めたりしている。
さらに両親の教育への関与を強化する動きも出ている。3月23日、連邦議会の下院で共和党が提案する「両親の権利法(Parents Bill of Rights)」が可決された。同法案は保守派の主張を受け入れたもので、その狙いは両親の教育現場での管理と権利を強化し、学校運営の透明化を促進することである。具体的には、学校はカリキュラムをオンラインで公表し、学校図書館で閲覧できる本や資料の選択に両親の意向を反映させ、学校行事で学外から講演者を呼ぶ場合、両親に講演者の所属や経歴を通知する義務を負う事になる。まるで世界の流れと逆行する教育法案が可決されたのだ(『National Review』3月24日、「House Republicans Pass Parents Bill of Rights」)。
こうした動きの背景には、保守派の公教育に対する根強い不信感が存在する。同法は下院で可決されたが、上院では否決される見通しである。
教育の保守化は、保守的な南部や西部の州で着実に進んでいる。その一つが「学校選択革命」と呼ばれる動きである。1970年代、保守派でノーベル経済学賞の受賞者ミルトン・フリードマン教授は「バウチャー制度」の導入を主張し、注目された。その主張のポイントは、州政府は両親に「バウチャー(利用券)」を発行し、両親はバウチャーを使って自由に学校を選択するということである。バウチャーは公立学校や私立学校に関係なく利用することができる。学校を自由に選択できるようにすることで、画一的な公教育を排し、学校間の競争を促進することになる。
そうした保守派の主張は長い間実現することはなかった。だが、現在、保守的な州で着実に「学校選択革命」が進行中である(『Fox News』3月8日、「States pass universal school choice amid parental rights movement」)。Fox Newsの記事は「学校選択と両親の権利に対する広範な要求は、各州政府がコロナ感染拡大の中で学校のロックダウン対策を講じた後に表面化した」と指摘している。
「普遍的学校選択自由法(universal school choice legislation)」を最初に成立させたのは、テキサス州であった。最近ではアーカンソー州、ユタ州、アイオワ州、アリゾナ州、フロリダ州、ウエスト・バージニア州が「学校選択法」を成立させている。フリードマン教授の主張が半世紀たって実現しつつあるといえる。保守派の論者は、こうした動きを「教育の自由を巡る闘争は力を得つつある」と語っている。
ウエスト・バージニア州は2021年に法案を可決し、州の教育資金を両親にバウチャーを通して配分し、両親はバウチャーを私立学校の授業料や家庭教師料、教育セラピー費などの用途に自由に使えるようになった。アリゾナ州でも昨年の夏に法案を可決し、それに伴い「Empowerment Scholarship Account」を設立して、小学校から高校の生徒を対象にバウチャーの配布を始めている。公立学校に進学しない生徒に対して年間7000㌦のバウチャーが渡され、その資金を私立学校やチャータ―・スクールなど他の学校の教育費として使うことができるようになった。両親は「子供たちはもう質の悪い学校に閉じ込められることはない」と歓迎している。
アイオワ州では「Students First Act」が成立し、公立学校に進学しない生徒に資金を提供することができるようになっている。同州では、3年計画で学校選択の自由を認める法案を可決することを計画している。同州のキム・レイノルズ知事は「公立学校は教育制度の基礎であり、大半の家庭は公立学校を選んでいるが、それが唯一の選択肢ではない」と、学校選択の自由を拡大する必要性を説いている。この法案によって、「所得や居住地域に関係なく、子供に最も合った学校に通うことができるようになる」と、同法の狙いを語っている。
アーカンソー州は「Arkansas LEARNS」と呼ばれる法案を可決している。同州のサラ・ハッカビー・サンダース知事は法案の狙いを次のように語っている。「この法案の最大のポイントは両親の教育に関する権限を強化し、教育の権限を両親の手に取り戻すことだ。それによって、カリキュラムの透明性を確保することができるようになる。両親は子供がどこの学校で最も良い教育を受けることができるか、決定できるようになる。私立学校、チャーター・スクール、公立学校、ホームスクールの中から自由に選択できる」と語っている。
具体的に、25年から「Educational Freedom Accounts」を通して、両親が負担する教育費の90%相当のバウチャーを発行する。バウチャーを使って両親は子供にとって最善と思われる学校を自由に選べるようになる。これによって学校間の競争が促進され、公立学校でも適切な教育を提供できないと生徒が集まらず、廃校に追い込まれることになる。
フロリダ州ではこの3月に、家庭の所得に関係なく受給できる州拠出のバウチャー制度を導入する法案が成立している。この法律によって、子供を持つ両親に8000㌦の教育資金が配布される。両親はこのバウチャーを使って、公立学校、私立学校、チャーター・スクール、ホームスクールを問わず、自由に学校を選択できるようになる。
世界の流れと逆行する保守派の主張は論外だが、こうした学校選択を巡る議論は日本でもして良い時期なのかもしれない。