禁止から容認へ 米国で急速に変わるChatGPTに対する評価

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当初、多くの公立学校は使用を禁止

 米国ではChatGPTなどのAIチャットボックスを教育現場でどう規制するのか、あるいはどう活用するのかを巡って賛否両論の議論が展開されている。最大の問題は、子どもがAIチャットボックスを使って課題に簡単に答える事態が想定されることだ。一部の学校ではそうした事態に対応するために、使用を禁止する動きや、クラスの運営を見直し、レポート作成の課題に出すのではなく、口頭による試験やグループ作業、課題を手書きで提出させるなどの試みも行われている。初等中等学校では児童生徒がChatGPTを使って不正をする状況は想像しにくいが、大学ではすでに起こっている。テキサスA&M大学ではChatGPTを使ってレポートを作成する不正行為があったとして受講生の成績を「不可」にする措置が取られた。

 昨年11月にChatGPTが公開された後、多くの学校の反応は否定的であった。例えばニューヨーク市教委やシアトル市教委、ボルティモア郡教委、オークランド市教委などが相次いでChatGPTの使用を禁止した。シアトル市教委はChatGPTだけでなく、Rytr.meやArticleForge.com、Writesonic.com、AIWriter.com、WordAi.com、Jasper.aiのサイトの使用も禁止した。同教委の担当者は「子どもにはオリジナルな考え方やオリジナルな作業が求められている。私たちが懸念しているのは、こうしたサイトを利用することで、子どもがオリジナルに欠ける内容を作成することだ」と、チャットボックスの使用を禁止する理由を説明している。ただ「この決定は最終的なものではなく、今後、全国で単にサイトの使用を禁止するだけでなく、どうしたら効率的に利用できるか議論が進めば再検討する余地はある」としている。

 デンバー市教委も対策を検討している。地区の教育責任者は「最先端のハイテクの誤った使い方を阻止するためにどのような対策を講じるのか、効果的な教育ツールとしてAIをどう利用するか検討している」と語っている。同地区の英語の教師は「正直、どうAIチャットボックスを使ったら良いのか分からない。ただ、それが作文の作成の計算機のようなものになって欲しいと思っている」と、あくまで補助的なツールにとどまることを期待する気持ちを語っている。同教委では、まだ最終結論に達していない。

 ただ学校が禁止しても、教師や生徒は自由に使っている現実もある(『Computerworld』、4月25日、「Schools look to ban ChatGPT, students use it anyway」)。学校の懸念にもかかわらず、現実は急速に動いている。否定的な反応だけではなく、最近ではAI技術の進歩に対応して積極的に利用する必要性があるという主張も聞かれる。

ニューヨーク市は一転して使用禁止を解除

 1月にChatGPTなどのAIチャットボックスの利用を禁止したニューヨーク市教委は、5月に方針を転換し、ChatGPTの使用禁止を撤回する決定を行った(NBC News、5月10日、「New York City public schools remove ChatGPT ban」)。デビット・バンク教育委員長は「当初の禁止はChatGPTが不正に利用されるのではないかという教師の懸念を受けて決定されたが、過剰な懸念や恐れが、AIの持つ生徒や教師を支援する潜在的な可能性を見落す結果となった。現実は、生徒はAIが極めて重要になっている世界に参加しており、そうした世界で働いていくことになる」と語っている。現実の世界ですでにAIが極めて重要になっているのに、学校で利用を禁止するのは合理的でないという判断である。

 さらにバンク委員長は「われわれはIT産業の指導者と議論を繰り返し、学校、教育者、生徒の潜在力や将来の可能性に資するプラットフォームのあるべき姿について議論を行ってきた。またすでにAIの将来性と倫理について教えている信頼できる専門家にも相談してきた。当初の懸念は当然であったが、新しい技術の力とリスクに関する慎重な検証が行われている」と、AIに対する積極的な関わりの重要性を指摘している。

 このニューヨーク市の決定に対してマンハッタン自治区長のマーク・レヴァイン氏は「完全に正しい決定だ。私たちは若者にやがて来る新しい世界に準備させる必要がある」と歓迎する声明を出している。

世論調査の結果に見る利用状況と評価

 個別の事例は別にして、全体として教師や子どもはChatGPTに対してどんな反応を示しているのか。3月に行われた『USA TODAY』とImpact Researchの共同世論調査では、回答した教師の51%の教師がすでにChatGPTを利用していると答えている。そのうちの10%は毎日、40%が週に1回程度利用している。30%の教師は「授業準備」のために、別の30%の教師は「授業の創造的なアイデア」を得るために、21%が授業の「バックグラウンドの知識」を得るために利用していると答えている。小学校よりも、中学校と高校の教員の方が頻繁にChatGPTを利用しているという結果も出ている。

 児童生徒はどうか。12歳から17歳の33%が授業のためにChatGPTを利用していると答えている。68%が役に立ったと答え、75%が学ぶスピードが早くなったと、極めて肯定的な評価を与えている。またChatGPTを使っている教師の88%、児童生徒の79%は、ChatGPTを積極的に評価している。これに対して使ったことがない教師の44%は「まったく影響はない」と答え、10%は「マイナスの影響がある」と答えている。実際に使った経験があるかどうかで、評価が大きく分かれている。同調査では「ChatGPTを教育プロセスに組み込み、ChatGPTの潜在力を十分に発揮させる方法を見つける必要がある」と結論付けている。

 米国は予想以上に速いスピードでChatGPTが普及している。Walton Family FoundationのK12教育プログラム担当部長のロミー・ドラッカー氏は「コロナ禍で失われた学習機会を取り戻すために、児童生徒の教育方法と学習力を強化する必要性があった。より優れた教育ツールとリソースが必要となっており、そうした事情から教師が迅速にChatGPTを利用するようになったのが理由だ」と語っている。

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