英国は教育省主導で進む ChatGPTなどの利用を巡る議論

英国は教育省主導で進む ChatGPTなどの利用を巡る議論
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米国とは異なる議論

 前回の本欄で、米国の教育界でのChatGPTを巡る状況を紹介した。今回は英国の状況を紹介する。米英の状況には大きな違いが見られる。米国では各教育委員会がそれぞれ独自の方針を打ち出している。ChatGPTあるいは生成AIを非常に厳しく規制している教委もあるが、逆に前向きに利用をする方針を打ち出している教委もある。また、ニューヨーク市教委のように当初は厳しい規制を課していが、状況の推移に応じて、積極的な利用方針に転換したところもある。

 英国では米国のように中等教育の段階で規制か、利用かを巡る議論はあまり行われてないように思える。少なくともメディアの報道を見る限り、議論は主に大学教育の現場で行われている。情報関係の専門サイト『iNews』は「Top UK Universities Ban ChatGPT」という記事を掲載している(3月27日付)。同記事は「英国のトップクラスの大学はChatGPTとAIプログラムの使用を禁止すると発表した。これは大学が、学生がレポートを書くためにAIソフトを利用することを懸念したためである。ChatGPTが昨年11月に導入されて以来、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、マンチェスター大学、エディンバラ大学を含むラッセル・グループに属する24大学のうち8大学が、AIソフトの利用を禁止することを正式に発表した」と報じている。

 ケンブリッジ大学の担当者は「学生は自分自身が書いたレポートの著者でなくてはならない。ChatGPTなどのAIプラットフォームを使って作成したコンテンツは学生のオリジナルなレポートではない。従って、大学の規律手続きに従って学問的な不正行為とみなす」と、禁止の理由を説明している。

 またBBCも2月28日にサイトに掲載した「Universities warn against using ChatGPT for assignments」と題する記事の中で、「ブリストル大学は、承認されていないChatGPTの利用は、大学の評価規則ではカンニングの一種だと考えられる」と、大学の消極的な姿勢を紹介している。

 ただ明確な方針を打ち出していない大学も多く存在している。グラスゴー大学のように「授業の中で、こうしたモデルの使い方に関して学生にどうアドバイスすべきか検討している」と慎重な姿勢を見せている大学も多く存在し、大学全体の方向性はまだ決まっていないようだ。

積極的な利用を促すキーガン教育長官

 大学が「盗用問題」に神経質になるのは十分に理解できる。ただ、中等教育の現場は大学教育の現場とは異なっている。「独創性」を重視する大学と、「教育効果」を重視する中等教育では、当然、対応の仕方は違ってくる。ただ、英国の議論を見てみると、米国のようなボトムアップの議論はほとんど見られない。むしろ目立ったのは教育省の前向きな姿勢である。

 ジリアン・キーガン教育長官は3月に教育会議の席上、「AIは教師と生徒にとって日々の作業を変えてしまう力を持っている。AIは過去に見られた計算機の導入やグーグルの普及などのイノベーションと同様に扱うべきである」と、前向きな発言を行っている(『iNews』3月29日、「Schools should welcome ChatGPT and AI even with cheating, says Education Secretary Gillian Keegan」)。同長官は続けて、「教師は非常に多くの時間を管理業務や授業計画、採点に使っている。まだChatGPTなどのツールは揺籃(ようらん)期にあるが、学校は教師の時間を奪っている仕事を代わって行うために、AIの採用を急いで準備すべきである。AIを使えば生徒に良い成果をもたらすことになる」と語っている。要するに中等教育の現場では、AIは学校運営を合理化する上で重要であると指摘している。

 こうした教育長官の発言は、長官個人の考えにとどまるものではない。教育省はAIの積極的な利用を模索している。6月14日、キーガン長官はAIを評価する審議会を設立する方針を明らかにしている(教育省ホーム・ページ「New drive to better understand the role of AI in education」)。その狙いを、同長官は「技術がもたらす恩恵を理解し、リスクを回避するためにはもっと研究する必要がある」と説明している。

 その政策に基づいて、政府は学校、大学など教育の専門家から意見と経験の聞き取りを行うとしている。教育省はこの政策を「the Call to Evidence(証拠集め)」と呼んでおり、今年8月23日までに、さまざまな調査やインタビューを行う方針を明らかにしている。

 さらに教育省は3月29日に、AI規制に関する「A pro-innovative approach to AI regulation」と題する報告書を発表し、AI規制に対する取り組みの基本方針も明らかにしている。同省は「Generative artificial intelligence in education」という声明も出しており、その中で生成AIに対する方針を示し、「国民はAIコンテンツを作成するために、現在、こうした技術を使うことができる。これが教育部門にとって機会と同時に挑戦となっている。学校、短大、大学は悪用を防ぐために理性的な対応策を講じる必要がある。不確実な将来に備える最善の道は、現在の世界を構築する上で最も影響力のある知識に基づく強力な基盤を作り上げることである」と指摘している。

 また、こうした動きは教育省に限らない。さまざまな研究機関でも独自のガイドラインを設定し、AIの普及を後押ししており、米国とは違った形でAI利用を巡る議論を政府主導で行っている。

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