英国政府は悪化する不登校問題に直面している。英国議会の教育委員会は1月12日に「不登校問題」に関する調査を開始すると発表した(委員会のリリース「MPs launch new inquiry into persistent absence and support for disadvantaged pupils」)。同リリースによれば、「2021年秋学期の全生徒の23.5%が長期不登校(授業の10%以上を欠席)、1.4%が深刻な不登校(severely absent=クラスの50%以上が欠席)である。2018・19年度は、それぞれ10.9%と0.8%であった」と重大さを説明している。同委は「出席率を改善するために学校内外で生徒と家族を支援する良い方法を模索する」とし、具体的な内容として「朝食クラブ」「無料の食事」「放課後や休日の生徒活動」が良い影響をもたらすかどうか検討する方針を明らかにしている。
同委のロビン・ウォーカー委員長は「不登校は子どもの教育と将来に深刻な影響をもたらす。なぜ不登校が増加しているのか、その理由を調べることが必要だ。私たちはコロナ感染期間中に悪化した不登校増加の傾向を逆転させる必要がある」と語っている。
英国教育省の統計(School Census)によると、長期不登校と深刻な不登校の比率は18・19年度が10.9%と0.7%であったが、20・21年度には13.0%と1.3%、22・23年度には24.2%と1.7%に上昇している。不登校の増加は単にコロナ禍によるものではなく、それ以前から深刻な問題であった。
民間の教育支援団体の「Action Tutoring」は「22年秋学期の長期不登校者数は24.2%、170万人以上いた。1年前の23.5%から増加している。コロナ禍前は92万2566人であった。社会正義センターの調査では、深刻な不登校児童の数は危機的水準にとどまっており、特に『無償給食(Free School Meals)』の対象となっている貧困層の児童の状況はさらに悪化している」と、状況の厳しさを紹介している。
BBC Newsも不登校児童の増加を報道している(2月23日、「Pupil absences remain above pre-Covid levels」)。同記事は「感染症などの病気は全体の要因の一部にすぎない」と指摘し、教育団体「Association of School and College Leaders」のジェフ・バートン理事長の「子どものストレスや不安感がより重要な要因だ。学校は不登校を解決するために全力を尽くしているが、予算削減などで地方政府から十分な支援を得ていない」という言葉を紹介。不登校に陥っている子どもに対する、カウンセリングなどの精神面での支援が必要だと訴えている。
英国では、子どもを学校に行かせない保護者に罰金刑が課せられる制度がある。だがBBC Newsは、罰金制度は逆に状況を悪化させていると指摘している(5月16日、「School-absence fines make problem worse, MPs told」)。
The Guardian紙は、不登校の原因がコロナ禍から貧困に移っていると、原因の変化を指摘している(6月28日、「From Covid to poverty: why pupil absence in England is rising」)。不登校問題に関して、同記事は「不登校増加の要因は複数あり、複雑だ」と指摘している。第1の理由は、子どもの不安と精神的な問題。7歳から16歳のうち18%は精神的な問題を抱えている。2017年には約12%であり、大きく増加している。生徒を精神的に支援する仕組みが不十分なことも加わり、不登校が増えていると指摘している。
第2が貧困の問題。家計が苦しくなっており、保護者に余裕がなくなっている。子どもが家事を強いられているケースも多くみられる。貧困家庭の子どもには学校で無料の食事が提供される。ただ20年から21年の間に無料の食事が提供される子どもの不登校率は、3.7%から7.8%に増加している。
第3は住宅問題。民間団体のSchool-Home Support(SHS)の調査では、住宅の安全性の欠如や劣悪な状況が不登校増加に結び付いているという。またDVで避難所に身を隠している家族の子どもたちは、学校が遠くなったり、通学に費用がかかったりするために学校に行かなくなっているケースも見られる。
不登校を減らす対策はあるのか。The Guardian紙は、どのような支援が必要か分析している(6月29日、「Bus fare or food? The support workers trying to fix England’s school absence crisis」)。同記事は不登校の12歳の少女の例を報告している。慈善団体Butter UKは、少女に通学のためのバイクや勉強用のラップトップを提供した。さらに少女が新しい気持ちで登校できるように、「転校先を探す支援」も行った。それによって「少女は学校に行かなくても学校と結び付く」ことができ、少女の登校率は高まったという。
SHSは支援が必要な家族に対して、家計問題から福祉に関する助言、バスの通学パスの提供、食事計画、住宅問題への対処、学校の制服の提供、制服を洗うための洗濯機の提供、自動車での送り迎えといった、ありとあらゆる支援を行っている。ただ、「あまりにも多くの不登校の生徒がいるので、支援の手が及ばない」というボランティアの声を紹介している。
すでに指摘したが、不登校問題の要因は複雑で、さまざまな要因が絡まっている。それを解決するには、中央政府、地方政府が本気になり、十分な予算を組む必要がある。だが英国政府の取り組みは、後手に回っている印象である。