【授業改善で不登校・いじめを克服】 学校風土の見える化

【授業改善で不登校・いじめを克服】 学校風土の見える化
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 文科省が今年3月に示した不登校対策「COCOLOプラン」では、「学校の風土の『見える化』を通して、学校を『みんなが安心して学べる」場所にする」ことが「三つの柱」の一つとして示された。この「風土の見える化」に2019年度からいち早く取り組み、3年で成果を上げたのが東京都国立市立国立第二中学校の黒田宏一校長だ。不登校対策としては異例の「脳科学のエビデンスに基づく授業改善」に取り組んできた黒田校長に、実践の経緯を聞いた。(全3回)

ユニバーサルデザイン化された授業

黒板に単元名や狙いを分かりやすく示すなどUD化された授業
黒板に単元名や狙いを分かりやすく示すなどUD化された授業

 誰もが自分のやるべきことを理解し、アクティブな状態の脳で取り組む授業――。6月15日の3時間目、美術科の長尾菊絵指導教諭が実施する2年生の授業を取材して抱いた印象だ。

 焦点化された教員の指示、授業の流れやルールが明確に把握できるよう工夫された教室環境、スモールステップ化された活動内容など、授業のあらゆる局面がユニバーサルデザイン(UD)化され、生徒が安心して学習に取り組めている様子が見て取れる。

 この日の授業の単元名は「印象に残るシンボルマーク」。黒板には「表現の意図と工夫を感じとろう」という授業の狙いの他に、本時の流れとして「①説明」「②4人組で発表」「③代表者発表」「④まとめ」との文字が書かれている。発表やグループワークの際のルールを黒板の上部に掲示するなど、視覚化の工夫が随所にある。

 授業内容は、前時までに自らが考案・作成したシンボルマークをグループ内で発表し、意見交換するというものだ。長尾指導教諭が「では、4人組の班になってください。よーい、スタート!」と伝えると、生徒は一斉にグループワークの体制になり、互いの発表を聞き合う。生徒たちが作成したマークは、「剣道部」「吹奏楽部」など部活動を表すものや「調理室」「カウンセリングルーム」など校内の場所を表すもの、「大きな声で発表しよう」「牛乳を飲もう」など標語的なものが目立つ。

生徒の考案による、2羽のフクロウをモチーフにした「なごみ」のマーク

 グループワークの後、各班の代表者が教室前方にある大型モニターの前で発表を行った。生徒の一人、小倉楓子さんが考案したのは、大小2羽のフクロウが寄り添う「なごみ」のマーク。「なごみは、生徒が先生に相談するための特別な教室です。羽はこの学校の校章のデザインでもあります。先生と生徒が仲良く話す場所なので、縁起のよいフクロウで表現しようと思いました」と発表する。

 どの生徒の発表も分かりやすく、聞く側の生徒も「発表者の目を見る」「体ごと発表者の方を向く」といったルールに従っている。発表の始まりで前を向いていない生徒がいても、長尾指導教諭が「〇〇さんの目を見て。ニッコリ」と声掛けすると、すぐに姿勢を整えて聞く態勢が整う。

 授業後、生徒の一人に話を聞くと「他の授業もなごやかで、先生は怒鳴ったりしません」とのことだった。その言葉通り、授業は適度な緊張感に包まれながら、穏やかな雰囲気のまま終わった。

「学校風土調査」を起点に改革を推進

――本日取材した授業では、UD化が徹底された様子を見ることができました。授業改善に3年かけて取り組んできたとのことですが、どのような経緯があったのでしょうか。

 18年4月に本校の校長に着任して、全校生徒の前に立って初めてあいさつした際に感じたのは、「生徒の表情や雰囲気が硬い」ということでした。また、約500人の全校生徒のうち40人が不登校という課題にも、早急に取り組まなければならないと感じました。

 教育現場の最重要課題に不登校といじめがありますが、この2つはセットにして考えるべきです。不登校に陥った生徒が実はいじめにあっていたということが、時間の経過とともに判明することが多く、両者は独立したファクターではないからです。

 着任から半年がたち、不登校といじめの改善策を模索していたとき、「学校風土調査」を知りました。浜松市にある公益社団法人「子どもの発達科学研究所」が実施しているもので、学校風土を調査し、その結果に基づいて不登校やいじめの改善に取り組むというものでした。

――「子どもの心に寄り添う」といったあいまいな観点ではなく、明確な調査結果を基にしているのですね。

「学校風土調査」に基づく不登校・いじめ対策について語る黒田校長

 良き学校風土を醸成していくには、根拠を持って理論的に判断する必要があると書かれていて、「まずは一度、この研究所に行ってみよう」と考えました。連絡を取ったところ、この調査を実施した浜松市の学校が研究発表会を開くとのことでした。

 学校風土の研究は、欧米では100年以上前から実施されています。その「日本版」として作られたのが、この研究所の学校風土調査です。「子どもみんなプロジェクト」として文科省から委託を受け、14~19年度に大阪大学など10大学のコンソーシアムと各地の教委が共同開発した調査で、「学校の規律・安心・安全」「学習環境」「生徒同士の関係」「生徒と教員の関係」の4つの側面から学校風土を把握するというものです。生徒に無記名でアンケートに回答してもらって測定します。

――浜松市の発表会に東京から校長が参加ということで、驚かれたのではないですか。

 そうですね。国立市教委に趣旨を伝えたところ出張として認められ、浜松市へ向かいました。研究所の先生にお会いすると「わざわざ東京からありがとうございます」と言ってくださり、「風土調査を一緒にやりませんか」と提案を受けました。

 それが着任した年の11月だったので、3学期から取り組むことにし、翌年度の5月にアンケートを実施しました。その結果を分析して見えてきたことを基に、2年目からは実際に対策や改善策を講じていくことにしたのです。

【プロフィール】

黒田宏一(くろだ・こういち) 1985年、東京都の中学校数学科教員として教員生活をスタート。町田市、稲城市、多摩市の教諭や主幹教諭を経て、2008年に副校長として国立市に着任。12年4月に国立市立小学校に校長として着任。14年4月から中学校長として勤務し、現在に至る。

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