奈良女子大学教授
最終回では、不登校の当事者やその子と一番身近に向き合っておられる大人の方に一言申し上げておきたい。 「不登校というだけで問題と見なさない」という見方が広がりつつある今、当事者の子どもたちには「自分は駄目な人間だ」とか「自分は生きている意味がない」なんて考えないでほしい。
わが子が学校に行かないと、子ども本人も苦しいが、その子どもと向き合う保護者の気持ちもさまざまに揺れ動く。「このまま学校に行かずに、社会的引きこもりになってしまうのではないか…」「不登校の原因は、自分の子育ての仕方に問題があったのではないか…」「他の子どもは元気に登校しているのに、どうしてわが子は行けないのだろう…」等々、不安や怒り、そして心配など、保護者も負の感情を抱えることが多い。
2020年2月末、学校現場はコロナ禍により突如、一斉休校に突入した。その後、緊急事態宣言が出され、分散登校が始まる6月まで、子どもたちは自粛生活を強いられることになった。 ところが当時、学校現場からは「不登校だった子どもが、オンライン授業には参加できていた」という報告が多く聞かれた。
文部科学省は2005年に学校教育法施行規則を改正し、不登校児童生徒を対象に特別な教育課程編成ができる「不登校特例校」を創設した。不登校の経験がある児童生徒が在籍し、学習指導要領に縛られない教育活動が可能とされ、23年8月現在、全国に24校ある。しかし、「名称がマイナスの印象を与える」などの意見もあり、全国に新名称を呼び掛け、23年8月からは「学びの多様化学校」という呼称に変更された。
文部科学省「令和4年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、不登校児童生徒のうち、学校内外の専門機関等で相談・指導等を受けていない小・中学生の割合は38.2%と報告されている。つまり、不登校の3人に1人以上は、学校内でも学校外でも専門的な支援を受けていないことになる。
不登校の子どもたちは、どんな支援を求めているのであろうか。文部科学省「令和2(2020)年度不登校児童生徒の実態調査」によると、例えば「休みたいと感じ始めてから実際に休み始めるまでの間に、どのようなことがあれば休まなかったと思うか」の質問に対し、中学2年生の不登校経験者の回答で一番多かったのは「学校の友達からの声かけ」(17.4%)であり、「個別で勉強を教えてもらえること」(9.1%)が続く。
不登校が日本社会で話題になって以来、60年以上の歳月が流れた。その間、不登校の呼称は「学校恐怖症」「登校拒否」、そして「不登校」へと変遷を遂げてきた。数の増加とともに、中身もどんどんと質的多様化を極め、不登校に至る要因もさまざまである。
不登校そのものの多様化が進む中、それまでの不登校に対する捉え方を大きく転換したのが、2016年に公布された「教育機会確保法」である。この法により、不登校はどの児童生徒にも起こり得るものとして捉え、不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮すること、当該児童生徒の意思を十分に尊重しつつ対応することとされ、不登校の児童生徒や保護者を追い詰めることのないよう配慮するという点が前面に出されることになった。
第1回で紹介した文部科学省の「令和2年度不登校児童生徒の実態調査」で、「最初に(学校に)行きづらいと感じ始めたきっかけ」を尋ねたところ、小学生で25.5%、中学生でも22.9%の子どもたちが「きっかけが何か自分でもよく分からない」と回答している。実際に、スクールカウンセラーとして不登校の子どもたちと面談していても、自分が学校に行けない理由をはっきり言葉にしてくれるケースは決して多くはない。
今回から10回シリーズで不登校のことをまとめる機会をいただいた。不登校をどう捉え、どのように支援していけばよいか、いろいろな角度から考えていきたい。初回は、なぜ不登校になるのか、不登校のきっかけについて考えてみたい。これについては、文部科学省が毎年行っている「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の一部として、学校に対して問い掛けている。
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