【社会問題×教育】課題設定できない子供たち

学校や一般向けに、社会問題の現場に訪れる「スタディツアー」を企画・運営している一般社団法人リディラバ代表の安部敏樹氏。自身は17歳のときに漫画『ドラゴン桜』を読み、偏差値30台から東京大学に合格。その後、19歳でマグロ漁師となり、21歳でリディラバを立ち上げ、29歳で「フォーブスが選ぶアジアの若手社会起業家」に選ばれるなど、波乱万丈な人生を歩んできた。東大で「社会起業」をテーマとした講義や、教員向けの講義も行うなど、その活躍は多岐にわたる。インタビューの2回目は、安部氏が今の学生を見て感じる学校教育の問題点について聞いた。(全3回)

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自分が体験したことからしか課題は生まれない
——現状に満たされている今の子供たちは、そもそも問題意識や課題意識が低いと言われています。問題意識を持たせるためには、どうすればよいのでしょうか。

僕は東京大学の学生にも授業していたのですが、東大でさえ、問題意識や課題意識のない学生が多いと感じています。

これまで詰め込み型の教育を受けてきた学生らは、過去から推察して考えたり、言われたことに対しては速く正しく反応できたりします。正解のある問題には強い。しかし、例えば難しい方程式を正確に解けたところで、機械の処理能力・革新的なアルゴリズム・あらゆるタイプのデータセットがそろってくる現代においては、多くの分野で人間よりも機械の方が正確に速く解ける。そうなると正しい答えを求める能力は、それだけでは意味をなさない。

つまり、知識・技能があっても、未来に対する課題意識がないと意味がありません。主体的に「こうしていこうよ」と言えない子が、今の世の中にはあまりにも多すぎます。

リディラバの「スタディツアー」でなぜ、社会問題の現場に訪れるかというと、今の子供たちには問題意識を持てるような原体験が少ないからです。問題意識や課題意識というものは、自分が体験したことからしか出てきません。

今の子供たちには問題意識を持てるような原体験がないと話す

脳の構造上においても、体験に伴う記憶はそうでないものに対して10倍近く記憶に残るし、それだけ他人を説得する言葉にもなる。

現状と理想の乖離(かいり)から問題意識を持ち、それを他者と共有していく上では、説得力が必要です。そうなったときに、「教科書に載っていた」という子供と、「現場に行って見てきた」という子供では、後者の方が圧倒的に説得力があります。

さらに言えば、原体験がないと当事者意識も持てません。原体験には感情もくっついてくるし、それが学びの推進力にもなっていく。つまり、子供たちが問題意識を持つためには、原体験をさせることが必要なのです。

今の学校教育はみんな同じ均一な体験しかしていない
——今の学校教育の中で、原体験が少ないと思う理由について教えてください。

東大の講義で、自分たちで課題を設定してチームでそれをビジネスモデルに変えるという授業をやっていたのですが、みんな「教育の課題」を挙げるんです。

今の教育システムにおいては「勝ち組」ともいえる東大の学生が、「教育システムに問題がある」「教育は今のままでいいのか?」と思っている。そこには、学生らの原体験が大きく影響しているわけです。

現代の高校生や大学生は、家と学校の往復しかしていません。だから、何か課題を挙げろと言われても、学校か家庭の課題しか出てこない。もちろん、塾や課外活動には参加していますが、そちらは楽しくやれているから、相対的に学校や家庭に課題を感じるのです。

でも、社会全体で見れば、みんなが教育の課題ばかり考えていては駄目ですよね。世の中にはもっと他にも多様な課題があるわけです。

こうなってしまっているのは、子供たちがみんな学校で均一な体験しかしてきていないからです。自分で何かを選んで体験し、そこから課題を設定して人を巻き込んでプロジェクトにしていく。そんな経験をほとんど積めていないんです。

課題を感じやすい場所に連れ出すべきと提言

これからの学校教育では、課題を感じやすい場所に子供たちを連れ出し、対話や議論を重ねながら一つのプロジェクトを立ち上げていくような経験を、できるだけたくさんさせるべきです。さらに言えば、多様なテーマで取り組ませる必要もあります。

しかし、現状の学校教育は、教科学習に多くの時間が取られてしまっています。そのため、学校が社会問題の現場との関係性をゼロから作っていくのは、時間的な余裕を考えても難しいと思います。

そうした状況がある中で、僕たちがその機能を担えたらいいと思っています。社会問題をテーマとした「スタディツアー」や、探究活動の教材開発にも取り組んでいますが、僕たちは旅行会社になりたいわけでも、教材会社になりたいわけでもありません。

理想と現実との乖離(かいり)に問題意識を持ち、その解決に向けて主体的に関わっていこうとする人材、若い力をもっとたくさんつくりたいと思っているんです。

僕らが学校教育でできることはまだまだあります。子供たちを現場に連れていくことで、そこにある問題を「解決したい」と思う子が増えることは、社会問題が解決する可能性を高めることにもつながります。

何より、現場に行った子供たちが、「自分たちができることって意外とあるぞ」とか、「社会に主体的に関われそうだ」と思えることに、意味があると思うんです。

社会問題の現場には「諦めていない大人」がいる
——プログラムを1回経験しただけでも、子供たちには変化が生まれるのでしょうか。

めちゃくちゃ変わります。事前学習などを通じて、長時間にわたって関わると、より大きく変わります。

プログラムを経験すると、社会問題に主体的に関わろうとするようになる子は多いですし、進路を変える子もいます。こうした子供たちの変化には、とても大きなポテンシャルを感じています。

社会問題の現場を訪ねるもう一つの意義は、「諦めていない大人」と出会えることです。今の子供たちの周りには、何かを「諦めてしまった大人」がたくさんいますよね。「どうせ世の中は変わらない」と思っている大人がたくさんいる。

でも、社会問題の現場に行くと、「いや、これは絶対無理でしょう」というような問題に向かって、「変えられてきている!」「ここから変えるんです!」と、諦めずに何十年も取り組んできている大人たちがいます。その中には、ポジティブな変化を生み出していたり、社会が動いていることを感じさせてくれたりする大人もたくさんいるわけです。

社会問題の現場に行くと、子供たちの生きるスタンスが変わるという

そういう大人に出会うと、子供たちは生きるスタンスが変わります。ただ現状を受け入れるだけではなく、「自分で変えていけばいいんだ」と思えるようになるんです。

子供はその瞬間、瞬間で変わり得るし、未来に可能性を感じたら、そこへちゃんと向かってくれます。でも、受験や就職活動など、大人が作った「出口」がそれまでの子供の学びのプロセスに最適化されていないと、結局、「諦めてしまった大人」のようになっていきます。

その意味では、子供だけでなく、大人も変えなくてはいけないと思っています。実際、私たちはさまざまな企業の研修など、大人を対象とした事業も展開しています。

大人を変えるのは、子供を変えるよりもちょっと難しい。時間もかかるし、覚悟も必要です。でも、僕はたくさんの大人が変わっていくプロセスも見てきているから、大人が変わらないとは思っていません。

それに、大人が変わると、事業構造や組織構造、社会構造が変わる可能性があります。もちろん、時間もかかりますが、大人が変わるというのはとても重要なことなんです。

(先を生きる取材班)


【プロフィール】

安部敏樹(あべ・としき) 1987年生まれ。株式会社Ridilover、一般社団法人リディラバ代表理事。東京大学在学中に社会問題の現場を学ぶスタディツアーを提供するリディラバを立ち上げる。総務省起業家甲子園日本一、学生起業家選手権優秀賞、KDDI∞ラボ第5期最優秀賞、第2回若者旅行を応援する取組表彰において観光庁長官賞(最優秀賞)受賞など受賞歴多数。リディラバでは、社会問題を構造化する社会問題専門の購読型メディア「Ridilover Journal」も配信中。著書に『日本につけるクスリ』(竹中平蔵氏との共著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『いつかリーダーになる君たちへ』(日経BP社)。

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