グローバル・ティーチャー賞トップ10 正頭教諭に聞く

世界各国の教育関係者らが集まり、毎年開かれる教育の祭典「Global Education & Skills Forum」。今年も3月23、24日にアラブ首長国連邦のドバイで開かれ、最終ステージでは、教育界のノーベル賞ともいわれる「グローバル・ティーチャー賞2019」が発表される。同賞のトップ10には、日本人ではただ1人、立命館小学校(京都府)の正頭(しょうとう)英和教諭(36)が選出されている。

同賞は英国の非営利教育団体「バーキー財団」が、2014年に創設。教育分野で優れた功績のあった教員を表彰する賞で、優勝賞金は100万ドル(約1億1千万円)。今回は世界150カ国、3万件以上のエントリーがあり、同教諭はその中からトップ10に選ばれた。正頭教諭のユニークな指導法や教育に対する課題意識などが評価されたもので、日本人では3人目、小学校教諭としては国内初のノミネートだ。


■国際的な賞でトップ10に

18年にトップ50に選ばれた滋賀県立米原高校の堀尾美央教諭と、「マイクロソフト認定教育イノベーター」としての活動を通じて知り合い、同賞への応募を勧められたという正頭教諭。「トップ50に入ったときにはうれしいと感じたが、トップ10に入れるとは思わず、ただただ驚いた」と話す。

グローバル・ティーチャー賞トップ10に選ばれた正頭英和教諭

正頭教諭が17年度から着手したのは、英語の授業にゲームのマインクラフトを取り入れたPBL(Problem Based Learning)学習。英語教育だけではなく、カリキュラム・マネジメント(カリマネ)やプログラミング教育の観点からも先進的な取り組みで、同校の後藤文男校長は「正頭教諭がもつ『何か新しいものを生み出そう』というエネルギー、いい意味での野心があって初めて成し得たことだ」と評価する。

同校は「真の国際人を育てる」を教育の柱の一つとし、外国語教育にとりわけ強く力を入れている。1年生から週2~4時間で教員2人体制の授業を実施しているほか、海外研修、留学生との交流、ネーティブ教員によるオールイングリッシュでのロボット作りなど、独自の指導を展開。

後藤校長は同校の最大の教育目標について「学んだ子供たちが、世界を変えていくことだ」と語る。

■マインクラフト導入の理由

正頭教諭は小学校の教育改革のキーワードを「カリマネ」「プログラミング教育」「英語教育」の三つだとした上で、「私はこの三つをバラバラに捉えるのではなく、未来を生きる子供の力を育むという意味で一つにして実践すべきだと考えた」といい、それが「マインクラフトで京都の街を世界に紹介しよう」というプロジェクトだと話す。

マインクラフトとは、全てが立方体のブロックでできている世界で、森や湖のような自然、城などの建造物をインターネット上に作り上げるゲームのこと。正頭教諭が休み時間に児童と会話していた際、「京都を訪れる外国人観光客のために何かできないか」という話題になり、1人が「マインクラフトを使って京都の街を作って、世界に発信しよう」と発案したことから、プロジェクトが誕生したという。

京都の街を紹介するには、まず児童自身が詳しく知らなければならない。歴史学習や現地調査に結び付き、社会科と連携することになった。また、「皆で一つの世界を作り出すためには、大きさや位置、完成イメージにずれが出ないよう、共通の設計図を作ることが必要だ」という意見が児童の中から出た。「真の国際人を育てる」という教育目標の実現に向けて、自然とカリマネが導き出された形だ。

■必然性のある学びを

さらに児童が気付いたのは「マインクラフトで作り出した世界を案内する観光ガイドが必要だ」ということ。「24時間態勢で誰かが待機できるか」という問いから「ロボットを置こう」という結論に達し、児童が自ら動きやセリフをプログラムしたロボットに対応させることになったという。

正頭教諭は今のプログラミング教育について、「体験型が中心で、学びにはなっていないものもあるのではないか」と指摘。「目的を設定してロボットを動かす必然性をもたせなければ、最初は楽しくて引き付けられても、慣れてしまったら次の学びに結び付かない」といい、ロボットにガイドの役割をもたせた今回の取り組みが、プログラミング教育の分野にも一石を投じるのではないかと話す。

「マインクラフト」を活用した授業の様子

また、英語教育においても必然性をもたせることが重要だと述べ、プロジェクトでは米国のレントン小学校と連携し、マインクラフトを活用しながら京都の街を英語で紹介する活動を長期間にわたって展開していると説明。

「Skypeでの交流もしているが、自己紹介がうまくなるだけで、意見を伝えたり相手の考えを理解したりする学習にはならない。今回のプロジェクトでは英語を駆使する必要性が生まれたので、児童が懸命にアウトプットをするようになった」と話す。

「この授業は英語なのか、図工なのか、社会なのか、総合的な学習の時間なのかと、疑問が生まれるかもしれない。私は、これこそがまさにカリマネだと思う」と語る。

加えて正頭教諭は今後の学びについて、「ICTの普及により自宅でできる学習が増えた。これからの学校は、学校でしかできない学びの場でなければならない」と強調。「日本人の特性の一つに『自分の意図を相手に察してもらう』というものがあるが、海外では通用しない。世界に出ていく英語力を養うにはただしゃべらせても意味がなく、情報を明確に、かつ論理的に伝えることができるようになる必要がある」と述べ、今回のプロジェクトでは児童が互いに正確な情報をやり取りする活動を重ねたことでコミュニケーション能力が洗練されたと話す。

■「アイデア次第で教員の理想を実現」

正頭教諭は同校でICT教育のリーダーとして、今回のプロジェクトを成功に導いた。後藤校長は「彼の視野の広さは抜きんでている。日本だけではなく世界の教育の動きを的確に把握し、何を取り入れるべきかいつも考えている」と話す。

視野の広さの背景に、正頭教諭が小・中・高校の全校種で勤務したという経歴がある。大学に入るまでは教員になろうとは考えていなかったが、在学中に出会った大学教員の影響で志すようになり、大学院で外国語教育を専攻して教員免許も取得したという。

建学の精神「培根達支」を刻んだ石碑の前に立つ後藤文男校長

最初に赴任したのは立命館高校。後に中学校へ異動し、小中連携の一環で小学校教諭になった。後藤校長は正頭教諭が高校に赴任した当時、初任者研修を担当していたといい、「初任者とは思えないほどたくさんの疑問を投げ掛けられ、驚いた。常に課題を見いだし、おざなりにせず解決策を探る姿勢が、今の正頭教諭をつくり上げたのではないか」と語る。

トップ10入りについて正頭教諭は「これまで指導してくださった先生方のおかげ」と感謝を述べ、「これからは自分が他の先生方の支えになりたい」と話す。

「教育に懸ける理想はあっても、最初の一歩が踏み出せずにいる教員は多いと思う。具体的な内容は多様だと思うが、その多くはパソコンとインターネットがあればかなえることができる」といい、「ICTには想定外のトラブルがあり、振り回されることも多いが、アイデア次第で教員の理想を実現することにつながる。その橋渡しがしたい」と展望を語った。

(小松亜由子)