視覚障害者の「地図」体験 ダイアログ・イン・ザ・ダーク

暗闇の中でのコミュニケーションを体験するエンターテインメント「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」(DID)。この案内人(アテンドスタッフ)を務める視覚障害者による子供向けオンラインスタディーの無料体験会が8月8日、WEB会議ツール「Zoom」を使って行われた。視覚障害者が頭に描いている「地図」を、健常者である参加者と共有することで、見えない感覚を理解するとともに、五感を動かすことを意識するという狙い。障害に対する理解に加えて多様性の大切さも学べるユニークな試みだ。

「目を使わないから知っていることがある」と檜山晃さん

「こんにちは。僕らは画面が見えないから、なにかあったら声を出して教えてね」

この日の体験会に参加したのは、5~16歳までの子供たち8人。視覚障害者である檜山晃さんと木下路徳さんが進行役となり、軽妙にやり取りをしながら、自己紹介などを通じて初対面の子供たちの気持ちをほぐしていく。「五感の探検」と名付けられたゲーム形式のメイン課題は、多くを視覚に頼っている日常生活を別の感覚で捉え直す試みだ。

まずは木下さんが自分の通勤経路について説明する。家を出てから会社に着くまでの間に、何を感じているのか。大通りの車の音や、橋を渡る時の風の匂い、歩道にはみ出した葉っぱの感触などを順番に説明していく。視覚障害者が道順をどうやって覚えるか、何を道しるべにしているか。

独特の「地図」についてメモを取っていた子供たちは、2つのグループに分かれると、家から自分の好きな場所までの道を、目に見えるもの以外の事柄で説明することにチャレンジ。「すごく風が強い場所がある」「急な坂道なので歩いたら分かると思う」「公園に近づいたら道がジャリジャリする」など、それぞれの感覚で教え合った。

1時間半ほどのプログラムで、子供たちの様子が目に見えて変化していった。最初は画面上で挙手するが、当然気付いてもらえない。司会役もあえて口を出さない。コミュニケーションの方法を自ら学んでほしいからだ。そのうちに、名前を言って発言するようになる。経過時間を知らせて木下さんたちをサポートしようとする。

最後の意見交換では、みんなの発言が止まらず、大幅に時間オーバー。課題の発表後、「難しかった」「目を使わないのに慣れていない」などと感想を述べた子供たちに、檜山さんは「今日、みんないろいろなことに気付いたはずなので、これからも探してみて。こんなのもあったと見つけたら、きっとうれしくなるよ」

DIDは、視覚障害者に案内されながら、暗闇の中でさまざまなシーンを体験し、チームとしての対話を楽しむソーシャル・エンターテインメント。日本では1999年以降、各地で開催され23万人以上が体験している。

檜山さんは最古参のアテンドスタッフだ。対話は毎回ゼロからの試行錯誤で、参加者が自発性を発揮してくれると小さな達成感を覚えるという。「一人一人と言葉のキャッチボールができると、視覚障害に対する理解というだけでなく、目が見えない檜山という個人を理解してくれるところまでいける。特に人との違いを意識し始める時期の子供たちは、差異をうまく受け止める体験ができれば、違いがあるのは悪いことではないと素直に理解してくれます」と話す。

オンラインスタディには5~16歳の子供たちが参加

コロナ禍によって教育の現場にもさまざまな制約が課されている。檜山さんと話していると、不都合を解消しようとすることだけが対策ではないかもしれない、と思えてくる。

「コミュニケーションに多少の不都合があるほうが、問題が浮き彫りになりやすい。それを超えていくためにどうやって助け合うか。『ポジティブな違和感』を大切にしたいと思っています。いつでも誰でも先生になれるし、教わる側にもなれる」

主催する(一社)ダイアローグ・ジャパン・ソサエティは、コロナ禍による臨時休校を受けて「できることをしよう」と、3月初めにオンラインスタディーの試みをスタート。N高校やNPO法人カタリバなどと共にプログラムを実施してきた。今後も希望があれば無料体験会を実施する予定だという。

また、8月23日にはさまざまなプログラムを体験できる常設のダイアログ・ミュージアム「対話の森」が東京都港区にオープンする。問い合わせは03-6231-1633。

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