ストレスのたまる宇宙空間でも、みんなで食事をおいしく味わってほしい――。そんな思いを込めて、日本の農業高校の生徒が、米粉を使った麺で国際的な宇宙食を開発する研究に取り組んでいる。全国の農業高校の中で唯一、先進的な理数教育を展開するスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている、広島県立西条農業高校(澄川利之校長、生徒254人)の食品科学科の生徒を取材した。
園芸科、畜産科、生活科、農業機械科、緑地土木科、生物工学科、食品科学科の7学科があり、農業について幅広く学べる同校では、昨年度から「宇宙農業」に関する課題研究を学校全体で取り組むことになった。昨年度の研究成果では、緑地土木科の生徒による宇宙農業を行うための施設の基礎研究や、農業機械科の生徒によるアームロボットの制作、生活科の生徒による野菜の再生栽培実験など、それぞれの学科の専門性を生かしたユニークな研究が並ぶ。
そうした中で今年度は、食品科学科3年生の印藤(いんとう)利奈さん、木村帆花(ほのか)さん、渡邊琉愛(りな)さんの3人による「おこめん新商品開発グループ」が、地元名産の米粉を使った麺「おこめん」を宇宙食にできないかと考え、現在研究を進めている。
もともとは、昨年度の卒業生が取り組んでいた「おこめん」の商品化という研究を引き継いだのがきっかけだが、うまくフリーズドライ(凍結乾燥)の食品に加工することができれば、さまざまな可能性が広がると期待を寄せる。
「『おこめん』はグルテンフリーなので、アレルギーのある人でも麺を食べることができるし、保存性を高めれば、災害時でも食べられる。今年こそは商品化したい」と意気込む木村さん。現在はお湯を入れたらすぐに食べられるように、戻り時間を短縮する研究に取り組んでいる。
また、将来はパティシエになることを目指している渡邊さんは「フリーズドライの技術について、連携している大学で教えてもらったところ、ケーキもフリーズドライにできると聞いた。フリーズドライに興味が湧いている」という。
6月には、当時、国際宇宙ステーション(ISS)でミッションを行っていた宇宙飛行士の星出彰彦さんとリアルタイム交信も行った。そこでのやり取りから、印藤さんは「今は国によって食事が違うそうだ。『おこめん』ならば、日本人になじみのある米であるのと同時に、外国人も食べやすい麺なので抵抗感がない。いろいろな国の人がいる宇宙での食事を、みんなで一緒に楽しめるようになるのでは」と、研究の方向性に自信を持てたと振り返る。
おこめん新商品開発グループの指導を担当する久保田徹教諭は「最初は先輩の研究を引き継ぐ形で始めたが、宇宙をきっかけに自ら課題を見つけ、仮説を立てて研究している。目標である商品化よりも、生徒が積極的に、自主的に学ぶようになったことの方がうれしい。その主体性を崩さないようにしつつ、方向性がぶれないように指導助言をしている」と生徒の成長を見守る。