高大接続改革を背景に、ポートフォリオの活用やICTを使った試験が想定され、1人1台端末をかなえる学習環境の整備が急務とされている。一方で、生徒全員分の端末の用意には多くの費用と時間を要するなど課題も多く、私物のスマートフォンやタブレット端末を活用するBYOD(Bring Your Own Device)が注目を集めている。
公立・私立を問わず中高で導入が検討される中、神奈川県ではいち早く2019年度から県立高校・中等教育学校全144校で無線LANとインターネット回線を設置。スマホを持たない生徒への貸し出し用タブレットを配備するなど、BYODを可能にする環境を整えた。同県「BYODモデル事業」指定を18年度に受けた県立生田高校と県立秦野高校の各担当者に、導入までの経緯と成果、課題を聞いた。
BYOD導入で最も懸念されたのは、両校とも「授業中にスマホで遊ばないか」といった授業規律の乱れや、SNS上のトラブルの増加だった。そこでいずれも、まずは運用ルールを策定することとした。
生田高校のルールは▽毎日スマホを持参する▽充電は自宅でする▽端末は自己管理▽ウイルス対策は各自で行う▽ユーザーIDとパスワードは絶対に他人に教えない――などだ。その他、黒板の撮影は認めるが、動画配信やSNSでの授業に関する発信は禁止。他人のIDの不正利用やハッキング行為、悪口の投稿も厳禁とした。教務部、生徒指導部、各教科の代表者が話し合って決めたものだ。
秦野高校は「自主自律」の校風を重んじ、教員と生徒で構成する「ICT委員会」でルールを定め、総じて通常の生徒指導の範囲内で運用することとした。例えば多くの学校で禁止しているSNSでの発信については、「調べ学習でアンケート調査をしたり、生の声を集めたりするのに活用したい」という生徒の意見を受けて、「生徒による取捨選択」の案を採用。動画配信も、危険な実験など安全に関わる行為のみ禁止とした。
両校ともこれまでに問題は起きていないといい、「BYODの導入で情報モラルの意識が高まったのではないか」と分析する。
導入後の変化について、生田高校の小原美枝総括教諭は「授業が対話型になり、他者と協働して考えたり、ICTを活用して問題を解決したりする『21世紀型スキル』を限られた時間で効率的に高められるようになった」と語る。授業支援アプリを入れたスマホから考えや意見を教員の端末に提出したり、生徒同士で瞬時に共有したりする活動はもはや当たり前だと話す。
個人やグループで発展的な課題に取り組ませる機会も増え、生徒の発言意欲が高まり、主体的な学習につながっているともいう。
加えて秦野高校の水上慶太教諭は「入試対策が進んだ」とその成果を示す。週ごとに問題を配信して自主学習を促しているほか、数学などでは、定期テストでしか見られなかった記述式の解答を普段から添削しており、記述の力が伸びたと話す。
スマホからの提出物と教務手帳を連動させてポートフォリオ化を図ったり、いじめアンケートや授業アンケートにスマホを活用したりすることで、校務の効率化もできていると語る。
現状と課題について、生田高校の小原総括教諭は教員が①ICT機器を活用し、学び合いの場面を設定できる②ICT機器を活用し、教材などを提示できる③ICT機器の活用をしない・できない――に分かれていると分析。③の教員を変えることは難しいだろうとみている。「②の教員を①へ育成できるよう、研修などを実施していきたい」としている。
秦野高校では導入当初、生徒から「使わなくてもいい場面でスマホを使わせている」との指摘が上がっていたという。そこで2年目からは、スマホを活用すべきかそうでないかの見極めを各教員が意識して行うようになり、ステップアップにつながったとしている。水上教諭は「今後の課題は教科横断型授業での活用だ」として、各教科で連携して試行錯誤を重ねていきたいと意気込みを語った。