次期学習指導要領の基本的な考え方について、中教審の教育課程企画特別部会は9月5日、第12回会合を開き、これまでの論点整理の素案を検討した。主体的・対話的で深い学びの実装、多様性の包摂、実現可能性の確保を三位一体で具現化するため、教育課程を柔軟なものにしていく。小学校の「総合的な学習の時間」に情報の領域を加えることや、中学校に「情報・技術科」を創設するなどし、情報活用能力の育成に力を入れる。
この日示された論点整理素案では、次期学習指導要領に向けた今後の検討の基盤となる基本的な考え方として①「主体的・対話的で深い学び」の実装②多様性の包摂③実現可能性の確保――の3つの方向性を提起し、あらゆる方策を活用し、これらの考え方を三位一体で具現化していくとした(=図1)。そのスローガンとして「多様な子供たちの『深い学び』を確かなものに」を掲げている。
野口晃菜委員(UNIVA理事)は「多様性があるからこそ、主体的・対話的で深い学びができるのだと思っている。①と②は相反するものだと、学校現場では捉えられているのではないか。多様性があると学びができないと捉える人が多い。しかし、②なしに①はできない共存関係であることを強調したい。自分と異なる価値観や事情を持つ他者と接して対話をするからこそ、学びが深まっていくということだ」と強調した。
①の「主体的・対話的で深い学び」の実装では、学習指導要領の目標・内容を中核的な概念などに基づき構造化し、表形式で示したり、デジタルを活用したりして、学校現場にとって分かりやすく、使いやすいものにする。
次期学習指導要領はGIGAスクール構想が実現してから初めての学習指導要領の改訂となるが、デジタル学習基盤の効果的な活用や情報活用能力の育成にはまだ課題が残っていることから、小学校の「総合的な学習の時間」に「情報の領域(仮称)」を付加し、中学校技術・家庭科の技術分野を「情報・技術科(仮称)」に再編。高校の情報科も含めて小学校から高校を通じて情報活用能力の育成を抜本的に強化し、各教科等で探究的な学びを支える基盤と位置付ける。
これに伴って標準授業時数が増加する可能性があるが、中教審への諮問では年間の標準総授業時数を現在以上に増加させない方針を明確にしていることから、教育課程企画特別部会や7月に教育課程部会で設置が決まった総評・評価特別部会で教育課程全体を見通した観点から検討を行い、来年春ごろをめどに一定の結論を得るとした。
こうした情報活用能力の向上策について、堀田龍也主査代理(東京学芸大学教職大学院教授、学長特別補佐)は「小学校の(『総合的な学習の時間』の)情報の領域は、特に活用を支えるようなスキルをしっかり身に付けることが重要だと思う。ややもするとICTを子どもに使わせれば、自然と身に付くと思われがちだが、さまざまなノウハウや知識、練習が必要な部分がどうしてもある。そのことを視野に入れた学習内容の設定をしていく必要がある」と話した。
また、青海正委員(東京都大田区立志茂田中学校校長、全日本中学校長会会長)は「情報・技術科となっているが、文字であれば『・』があるので、これまでの技術と情報だと読み取れるが、音声で聞くと『情報技術』と聞こえるため、情報技術を学習する教科だと誤解されるのではないか。現在の技術・家庭科の技術分野のD領域が『情報の技術』となっているので、その学習内容に特化した教科という印象を与えないかとも思った」と懸念を示した。
②の多様性の包摂では、子どもたちが多様化している実態や個性が輝く教育の実現を目指すため、教育課程の柔軟化を推進する。教科の標準時数を一定程度下回ることを可能とし、それによって生じた「調整授業時数」を他の教科や「裁量的な時間」に充てられる「調整授業時数制度」の創設をはじめ、学年区分の取り扱いの柔軟化、不登校児童生徒や特定分野に特異な才能のある児童生徒のための特別の教育課程の創設、高校の単位制度の見直しなどによって、一人一人の個性や特性、背景を踏まえた対応ができるようにする。
これらの取り組みを実現可能なものとしていくために、今後の次期学習指導要領の審議全般にわたって教師への過度な負担が生じにくい持続可能な在り方を意識し、教師と子どもに余白を生み出して豊かな学びにつなげるように検討を重ねていくべきだとした。
また、社会構造が変化し、予測困難な時代に足を踏み入れている中で、しなやかに「自らの人生をかじ取りできる力」が不可欠になっていると強調。社会の多様化とともに分断の可能性も指摘されているからこそ、主体的に社会参画する「民主的な社会の創り手」の育成も喫緊の課題だとした。
そのため、資質・能力の育成と並行して一人一人の「好き」(興味・関心)を育み、「得意」を伸ばしていくことと、当事者意識を持って自分の意見を形成し、多様な他者と対話や合意をしていく取り組みを同時に進めると強調。
「総合的な学習(探究)の時間」では、小学校から高校にかけて徐々にグループから個人の探究へ移行していく。各教科等では確かな知識の習得だけでなく、興味・関心に応じて教材・学習方法を選択していったり、家庭学習の内容を自律的に決められるような段階的な指導を行ったりしていくとした。特別活動では、児童生徒が主体となったルールづくりや学校行事の企画、安易に多数決を用いずに、少数意見にも耳を傾けながら全体の納得解を形成しようとすることの重要性を明文化する(=図2)。
このイメージについて今村久美委員(カタリバ代表理事)は「多様な子どもたちの深い学びを実現するのはとても重要だが、それが個人主義を実現していくための深い学びを学校教育でも実現するのだ、と伝わってしまうとよくない。民主的で持続可能な社会の創り手というところが、同じくらいのレイヤーできちんと伝わるのがとても大切だと思う」と話した。
特別部会では今月中に開かれる次回会合で論点整理を取りまとめる予定で、今後、総則・評価特別部会や各教科などのワーキンググループで具体的な内容を検討。来年夏ごろまでに結論を出し、来年度中に中教審として答申する。
【キーワード】
学習指導要領 全国のどの学校でも一定の教育水準を保てるように、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準。おおむね10年に1度のペースで改訂が行われる。各教科などで学ぶ内容や目標、授業時数の取り扱いなどが決められており、教科書も学習指導要領をベースに作成される。