【解説】次期学習指導要領の基本方針② 柔軟な教育課程

【解説】次期学習指導要領の基本方針② 柔軟な教育課程
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 次期学習指導要領の方向性を議論してきた、中教審の教育課程企画特別部会が9月5日の第12回会合で検討した論点整理素案は、教育課程の柔軟化に向けて、さまざまな方策を打ち出している。論点整理素案のポイントの後半では、調整授業時数制度や新たな特別の教育課程、高校での単位の柔軟化などを解説する。こうした施策は各学校の裁量を広げることになる一方で、効果的にこれらの仕組みを生かしていくには、学校ごとのカリキュラム・マネジメントの力が問われることになりそうだ。

余白を生み出す「調整授業時数制度」

 論点整理素案では次期学習指導要領に向けた今後の検討の基盤となる考え方として、①「主体的・対話的で深い学び」の実装②多様性の包摂③実現可能性の確保――の3点を挙げている。教育課程の柔軟化は、主に多様性の包摂に関わる施策だと言える。特に不登校児童生徒や外国にルーツのある児童生徒の増加をはじめ、学校現場は多様化しており、それぞれの個性や特性、背景に応じた教育を柔軟に展開していく必要がある。

 一方で、教育課程の現行制度では、年度当初の教育段階で標準授業時数を確保することが前提となっており、教育課程特例校や授業時数特例校などの制度を使えば、学校独自の教科を設定(教育課程特例校)したり、標準授業時数を下回った教育課程(授業時数特例校)を組んだりするなどの創意工夫ができるが、手続きに時間がかかる。

 年間の最低授業週数は35週とされているものの上限はないため、40週などで計画してもよいものの、学校現場では標準授業時数の1015単位時間を35週で割って、週当たり授業時数を29コマにして時間割を組む考えが根強い。学習指導要領に記載されている学習内容の学年区分は、児童生徒の理解度に応じて柔軟に指導することや、学年を横断したカリキュラム・マネジメントをすることを妨げている側面もある。

 こうした問題意識から、論点整理素案ではさまざまな施策を提案している。

 中でも大きいのは「調整授業時数制度」だ。この制度では、一部の教科の標準時数を一定程度減らすことができる。これによって生み出された調整授業時数で、別の教科の時数を増やしたり、学校が独自に開設する教科などに充てたりすることができる。調整授業時数を「裁量的な時間」として、児童生徒の学習支援や授業改善につながる教職員の組織的な研究・研修に使うことも想定されている(=図1)。

【図1】「調整授業時数制度」の仕組み
【図1】「調整授業時数制度」の仕組み

 また、論点整理素案では、学習指導要領における学習内容の学年区分の一定の記載は必要であるとしたものの、児童生徒の実態に応じて、必要な場合には学年区分にとらわれずに教育課程を編成・実施できることを明確にすべきだとした。

 論点整理素案では、小学校は45分、中学校は50分としている単位授業時間や年間最低授業週数にも言及。すでに現行制度でも、例えば小学校で40分授業を実施することは可能で、単位授業時間を柔軟に設定することは調整授業時数を生み出す有効な手段ともなり得るが、あくまで教育課程の目的や狙いを実現するためのカリキュラム・マネジメントの手法であり、単位授業時間の短縮自体が目的ではないことに留意すべきだとくぎを刺した。年間最低授業週数も授業時数の平準化を促す方向で示し方を検討すべきだとし、実際に論点整理素案では週当たり授業時数を減らす工夫として、年間の授業週数を40週にして、週当たり授業時数を28コマにした例を示している。

特別の教育課程の新設・拡充

【図2】柔軟な教育課程の実現に向けた2階建てのイメージ
【図2】柔軟な教育課程の実現に向けた2階建てのイメージ

 こうした学校として編成する教育課程の柔軟化に加えて、個々の児童生徒に対する特別の教育課程も新設・拡充する。論点整理素案は2階建てのイメージを提示している(=図2)。

 特に注目されるのは、不登校児童生徒と特異な才能のある児童生徒に対応した特別の教育課程の新設だ。

 増加する不登校児童生徒への学びの保障については、学校の内外に教育支援センターを設置したり、学校単位で特別の教育課程を編成・実施できる「学びの多様化学校」を開校したりする動きが広がっているが、十分とは言えない状況がある。

 そこで、不登校児童生徒の実態に合わせた学びを学校として保障するために、不登校児童生徒を対象とした特別の教育課程を編成できるようにする。内容や授業時数は必要な範囲で柔軟に設定し、教育支援センターなどとも連携しながら個別の指導計画を作成することも検討する。

 特異な才能のある児童生徒の特別の教育課程は、教科によっては特に優れた資質・能力を持ち、その分野に強い興味・関心があるものの、通常の教育課程では十分な支援が困難だと学校や教育委員会が認めた児童生徒を対象にする。特異な才能のある児童生徒は認知・発達の特性から学習や生活の困難を抱えているケースもあることから、外部機関と連携して個別の指導計画を作成し、在籍校での指導だけでなく、発達段階に応じた学習環境や体制整備などの一定の要件を満たした大学や研究機関で指導を受け、在籍校での学習とみなすことも想定している。

 学習評価は指導要録上に位置付ける方針だが、特性に応じた高度な内容に関する部分以外は、基本的に通常の教育課程で他の児童生徒と一緒に学ぶ。特異な才能のある児童生徒の実態や支援ニーズの把握がまだ十分ではないこともあり、当面は対象を一定の範囲に限定し、運用状況を踏まえて拡充すべきかどうかを検討する方針だ。

 これ以外にも、日本語指導が必要な児童生徒や通級指導が必要な児童生徒を対象にした特別の教育課程も拡充する。

 日本語指導が必要な児童生徒の特別の教育課程では、日本語だけでなく母語の力も活用して、「知識及び技能」と「思考力、判断力、表現力等」の一体的な育成が目的であることを明確化。「資質・能力の育成のための新たな日本語指導」(仮称)を位置付け、考え方や指導方法などを国として示していく。

 通級による指導では、従来の障害による困難の改善・克服を目的とした指導に加えて、特に必要な場合には各教科の指導を行えるようにする。各教科の指導では、目標・内容の一部について、障害の状態を考慮したものに替えたり、取り扱わないようにしたりすることを認める。週8単位時間までを標準としている通級による指導の授業時間数や、修得単位数の上限も見直す。

高校は単位を柔軟化

 高校の教育課程も柔軟化する。高校は、現行制度では卒業に必要な単位数が74単位となっているが、週当たり時数の標準は30コマとなっており、実際には3年間で90単位以上を履修しているのが一般的だ。卒業単位に入れられる学校設定科目は最大で20単位までとなっており、学校独自のダイナミックな教育活動や、生徒の実態に応じた教科・科目を展開するには制約があった。高校も生徒が多様化しており、さまざまなニーズに対応していく必要に迫られている。

 そこで、必履修を含めた教科・科目を柔軟に組み替えられるようにし、標準単位数の弾力的な運用などができるようにする(=図3)。

【図3】高校における柔軟な教育課程の方向性
【図3】高校における柔軟な教育課程の方向性

 高校の科目では、必履修となっている基礎科目を学んだ後に選択科目を履修するなど、履修順が決められている場合が多い。これを各高校の判断で複数科目の統合や組み替えをしたり、単位数を柔軟に割り当てられたりといったことができるようにする。各教科等で決められている標準単位数は原則として減単ができないが、3単位以上の科目では可能だ。例えば、理科で2単位の必履修科目となっている「化学基礎」と、その上の4単位の選択科目となっている「化学」を統合して複数学年で学ぶような形にした上で、1単位分を減らして5単位で行うといったことが考えられる。

 さらに、標準単位数を学習量は変えずに74単位から148単位に分割し、学期ごとに単位認定を容易にして、きめ細かな単位の増減ができるようにする。3単位の「数学Ⅰ」を例にすると、減単しようとすれば3分の1刻みの調整しかできないが、単位が細分化されて6単位になると、6分の1刻みで減らすことができ、5単位にするといったことが可能になる。

 また、週当たり時数の標準は今後示さない方向で検討される。

 この他にも、卒業までに必要な単位数に含められる学校設定教科・科目の上限を増やすことや、生徒の能力に応じて科目の履修を免除できる仕組みも創設する。これは例えば、すでに民間検定試験などでCEFRのB2相当の英語力が認められている生徒に対し、基礎科目である「英語コミュニケーションⅠ」の履修を免除し、「英語コミュニケーションⅡ」や学校設定科目を履修できるようにすることなどが考えられる。

 これらの取り組みによって、全日制、定時制、通信制の相互乗り入れや単位制高校への移行、高校同士の単位互換などが進むとみられる。

 

【キーワード】

カリキュラム・マネジメント 児童生徒や学校、地域の実態を適切に把握した上で、教育の目的や目標の達成に必要な教育内容を、教科等横断的な視点で組み立てたり、必要なリソースを確保したりするなどして、教育課程に基づいて組織的かつ計画的に各学校の教育活動の質を向上させていくこと。

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