春の選抜大会に出場予定だった高校球児が甲子園で1試合ずつ戦う「2020年甲子園高校野球交流試合」が8月17日、6日間の日程を終えた。一方で、7月1日に岩手を皮切りに始まった都道府県独自の大会は、それぞれの試合方式のもと、神奈川と埼玉を残し、終盤を迎えた。新型コロナウイルスの影響を受けて活動が制約される中、球児たちにとって、与えられた条件で精いっぱいのプレーを見せる「特別な夏」となった。
都道府県の独自大会は地域ごとの新型コロナウイルス感染状況や、授業の進み具合を踏まえ、入念な感染防止対策を講じた上、異なる試合方式で行われている。長期にわたった休校で部活動も休止となった中、練習不足の選手の体調面や授業時間の確保を考慮し、埼玉、栃木、静岡などは試合を短縮する7イニング制を導入。京都や兵庫などはベスト8が決まった時点で大会を終了した。
北海道は例年通り、南北に分かれて支部予選の後、代表校による南北海道大会と北北海道大会を行った。北北海道大会は7月17日から8月11日まで長期にわたる日程。クラーク記念国際高が決勝で旭川龍谷高に10-0で大勝し、優勝したが、その先に甲子園はない。ともに1回戦で、クラーク記念国際高に敗れた白樺学園高と、旭川龍谷高に敗れた帯広農業高が、今春の選抜大会代表校だったため、「2020年甲子園高校野球交流試合」に出場した。帯広農業高の井村塁主将は敗退後、「ありがたいことに、まだチャンスがある」と話し、気持ちを切り替えて臨んだ甲子園では高崎健康福祉大高崎高(群馬)に4-1で快勝した。
北海道の奥尻島にある奥尻高は、南北海道大会支部予選への出場を辞退した。島にある病院は町国民健康保険病院の一つだけ。フェリーなどを使って大会に出場し、チームの誰かが新型コロナウイルスに感染すると、島の医療に大きな影響を与えてしまうとの判断からだった。横山海斗主将は「3年生やチームのみんなと話し合い、決断した」と、島の高齢者らを思いやる決断を振り返った。
岐阜県で選抜大会代表校の県立岐阜商業高は、7月中旬に同校の教員や生徒の間で新型コロナウイルスの集団感染が判明し、7月29日まで休校となり、野球部の活動も休止されたため、県独自の大会の出場辞退を余儀なくされた。約2週間、自宅待機となり、外で体を動かせなかった選手たちは、LINEで連絡を取り合った。実戦から遠ざかったまま甲子園の交流試合を迎え、明豊高(大分)に2-4で惜敗したが、本塁打を放った佐々木泰主将は「小さい時から夢だった甲子園でホームランを打てて、気持ちよかった」と晴れやかだった。
各地の独自大会で目立ったのは、ベンチ入りの選手を増やしたり、試合ごとにメンバーを入れ替えることを可能にしたりする特別ルールの適用だ。コロナ禍で活動を制約された選手たちに、一人でも多く試合に出てもらいたいとする配慮からだった。例年の大会では見られない、背番号が20番台、30番台の選手たちがグラウンドで躍動した。
8月10日から予備日を挟んで6日間の日程で開かれた「2020年甲子園高校野球交流試合」は、新型コロナウイルス感染予防の徹底を前面に掲げた。出場したのは春の選抜大会代表が決まっていた32校。チームの宿泊は試合前日と当日の最大2泊3日を原則とし、関西地区などの近隣校は1泊または日帰りとした。関東から西の出場校は地元から貸し切りバスで来場。移動距離の長い北海道と東北からは公共交通機関を使って関西入りした後、貸し切りバスで移動した。観戦できるのは対戦校の控え部員や教員、選手の家族ら関係者に限られた。
開会式は第1試合で対戦する大分商業高(大分)と花咲徳栄高(埼玉)の控え部員や家族らだけがスタンドからマスク姿で見守る中、両校の選手がマウンド近くに、少し間隔を空けて整列して行われた。他の出場校の選手はバックスクリーンに集合写真が映し出された。
選手宣誓は両校の主将が2人で行い、大分商業高の川瀬堅斗主将は「社会不安のある中で都道府県の独自大会、そして甲子園高校野球交流試合を開催していただけることによって、再び希望を見いだし、諦めずにここまで来ることができました」、花咲徳栄高の井上朋也主将は「いま私たちにできることは、一球をひたむきに追い掛ける全力プレーです」と、部活動が制限され続けた中、甲子園でプレーがかなう喜びを表した。