国の事業を外部有識者が公開で点検する「秋の年次公開検証(秋のレビュー)」が11月9日、行われ、子供の貧困に関連するテーマとして「子供の貧困・シングルペアレンツ問題」と「子供を見守るためのデータ連携」が取り上げられた。この中で内閣府が進める、貧困状態の子供を支援するためのデータベース構築に向けた取り組みなどが説明されたのに対し、有識者からは「受け皿が教委なのか福祉部局なのか見えない」「学校の入力が漏れた場合のセーフティーネットはどうなのか、子供本位の視点がやや欠けているのではないか」などと改善を求める声が相次いだ。取りまとめでは「教育と福祉の連携を促進して困っている子供や保護者にプッシュ型で支援を届ける事例を作り、行政のデータ連携の壁を乗り越えるべきだ」と指摘するとともに、デジタル庁の側面支援を求めた。
「子供を見守るためのデータ連携」をテーマとした議論では、内閣府が研究会を立ち上げて作業を進めている「貧困状態の子供の支援のための教育・福祉等データベース」の構築について説明。支援が必要な貧困状態にある子供を広く把握してプッシュ型で学習支援などにつなげるため、フォーマットのひな型を今年度末までに作成する方針や、現在、データベースに入れるべき項目について議論を詰めていることを明らかにした。
これについて外部有識者からは「誰が入力して誰が分析するのか、具体的な運用をイメージしづらい」「学校の入力が漏れた場合のセーフティーネットはどうなのか。受け皿も教委なのか福祉部局なのか今一つ見えず、子供本位の視点が欠けているのではないか」などといった指摘が相次いだ。
これを踏まえて取りまとめ評価者の高島宗一郎福岡市長は「データベースに関わる共通インフラ構築を推進していることは大変評価できるが、3府省はデータを収集連携する上でのボトルネックの解消に向けてさらに連携して取り組むべき」と指摘。貧困状態の子供の支援に向けて、「教育と福祉の一層の連携を促進して、困っている子供や保護者にプッシュ型で支援を届けるぬくもりのある行政の成功事例を作り、行政のデータ連携の壁を乗り越えて推進すべきだ」と各府省に対応を求めた。
また、「子供の貧困・シングルペアレンツ問題」を巡っては、昨年秋のレビューで「ワンストップ化」や「プッシュ型」の支援の実現を促すとともに、デジタルデータを活用した共通インフラ構築の検討やマンパワーの拡充などを求めたことを踏まえて、こうした課題への対応について、内閣府や厚労省、文科省の担当者が説明した。
このうち文科省の担当者は、高校の就学支援金の申請手続きをマイナポータルと連携して簡素化することや、教育相談体制の充実に向けて、来年度に向けて全国のスクールカウンセラーの配置時間を週1回4時間から週1回8時間に、スクールソーシャルワーカーの配置時間を週1回3時間から週2回3時間に拡充する取り組みなどについて述べた。
これについて、子供の貧困問題などに取り組む有識者からは「手続きの簡素化も必要だが制度自体が分かりにくく、どの支援制度を使えるか分からないまま窓口に行って心が折れる状況もある。事前にどんな制度が使えるかオンラインで簡易診断できる仕組みなどを作るべきだ」という意見や、「児童扶養手当の申請書などを自治体から取り寄せると光熱費の領収書の添付が求められる例など、人権侵害じゃないかと思われるものもあった。各省庁が共通して簡素化しないと、デジタル化に移行できないのではないか」といった疑問が示された。
これに対して厚労省の担当者は「申請者の立場に立った見直しが必要だと考えている。SNSで事前の情報提供をして、窓口に来る段階では制度を理解していただくなど、少しずつ取り組みを進めている」と説明した。
こうした議論を踏まえて、取りまとめ評価者の鈴木亘学習院大学経済学部教授は「文科省と厚労省は、申請に使えるツールの見直し拡充を深め、支援を受ける側と支援を行う側双方の事務負担や心理的ハードルを下げる措置を講じて、支援メニューの活用を促す取り組みを進めるべきだ」と指摘。その上で、「各地方公共団体の福祉部局と教育部局の連携強化や一体的体制の構築など、教育部局が把握した情報をいち早く福祉部局に共有し、潜在的に支援を必要としている親への支援につなげる方策などの検討を進めるべき」と対応を求めた。