学校の教職員にとっても、保護者にとっても煩雑なのが、教材費などを家庭から徴収する集金業務ではないだろうか。そうした悩みを解決するため、保育所や学童保育、学習塾などで今、保護者からの集金業務をキャッシュレス化・自動化するプラットフォーム「enpay(エンペイ)」の活用が始まっている。集金業務のキャッシュレス化で、支払う側・受け取る側の双方の負担を軽減する取り組みに注目した。
紙の封筒に指定された金額を入れ、子どもに預けるが、子どもが提出するのを忘れてしまう。なるべく釣銭が出ないように用意したくても手元に現金がない。保護者ならば保育所や学校の集金に関して、そんな経験が一度や二度はあるだろう。
この集金業務は受け取る側も負担が大きい。提出された封筒を開け、正しい金額が入っているか、誰が提出し、誰がまだ提出していないかを確認するだけでも一苦労だ。計算ミスのないように、紛失などのトラブルが起きないように、毎回神経を使う。
エンペイはそうした集金業務をキャッシュレス化・自動化するプラットフォームで、支払いはクレジットカード決済、コンビニ振込をはじめ、「LINE Pay」や「PayPay」といった電子決済サービスに対応。請求する側も集金から会計処理までの一連の作業が自動化されるため、業務効率が格段に上がる。
「当社で調べたら、保育所や学校などでは、こうした集金業務に毎月約30時間もかけていることが分かった。しかし、これらの業務は本来、教職員がやらなくていい業務だし、自動化した方がミスも減る。エンペイを活用すると、集金業務にかける時間は月30分程度にまで減らすことができる」と、㈱エンペイの森脇潤一代表取締役CEO/Founderは強調する。
現金を保育所や学校などに持参しなくて済むようになることで、「お金の入った集金袋を紛失してしまった」といったトラブルの根本原因をなくせる。また、何らかの事情で現金で支払えないなどの状況を教室に持ち込まないことにもつながる。
「エンペイが目指すのは誰にとっても優しいフィンテック。教育や子育てに関わる人たちが享受できるようなサービスにしていきたい」と森脇CEO。今後、さまざまな保育所や学習塾、学校などの集金業務をエンペイで連携させれば、子どもに対してどれくらいの教育費を支払っているかを把握したり、きょうだいがいる場合でも支払いを一元化したりできるなどの新たな価値も生まれる。
「社会のキャッシュレス化は不可逆な流れで、教育現場で現金を扱うことは今後なくなっていくだろう。キャッシュレスが当たり前になりつつある時代に、今の集金業務の在り方に、保護者も学校も疑問の声を上げてほしい」と森脇CEOは呼び掛ける。
2020年11月にサービスを開始したエンペイは現在、保育所や学童保育、学習塾などで利用が進んでいる。また、公立小学校でも導入事例が生まれている。
「これまでは、集金のあったその日のうちに銀行に入金しなくてはならず、忘れた家庭の分を次の日にまた入金に行くといったことが続いた。毎日や一日置きといった頻度で銀行の窓口が開いている時間帯に外出しなくてはいけなかったが、エンペイを導入してからは、そうした銀行に入金しに行く業務がほとんどなくなった」
そう話すのは、今年度からエンペイを導入することにした埼玉県川口市立前川小学校の小沢篤事務主査だ。同小ではエンペイを導入する以前から、小沢事務主査を中心に、集金業務について校内ルールをつくるなどして、ミスや教職員の負担を減らす取り組みをしてきたが、それにも限界があったという。
一方で、こうした現金持参による集金を回避するため、口座振替に切り替える学校も増えているが、小沢事務主査は口座振替には課題もあると指摘。「現金での集金を何とかしたいとは以前から思っていた。しかし、口座振替だと教員の負担は減るが、学校事務職員による金融機関とのやりとりや、まだ支払っていない保護者への催促といった業務は減らない。さまざまな事情で学校に現金を持ってくる家庭もあるので、結局、現金による集金を完全にはなくせない」と話す。
導入にあたって、保護者には文書での連絡だけでなく、年度当初の保護者懇談会で登録方法の説明などを丁寧に行ったという。「エンペイのいいところはコンビニ振込にも対応していること。クレジットカード決済や電子決済システムに抵抗のある保護者はそれで払うことができる。口座振替にした場合は、学校が各家庭の口座情報を知っておかなければいけないが、その必要がないのもメリットだ。エンペイは学校にとっても保護者にとってもいいシステムだと思う」と小沢事務主査は語る。