千葉県の柏市立柏高校で2018年12月に吹奏楽部員が自死した問題で、3月に同市の報告書がまとまったことを受け、太田和美市長は9月5日、文科省を訪れ、高校生の活動実態に即した部活動ガイドラインの見直しなどを求める要望書を永岡桂子文科相に提出した。要望書では、中学生を主な対象としているガイドラインが高校生の活動実態に合っていないと指摘。提出後、取材に応じた太田市長は、永岡文科相が高校の部活動時間について、「地域によって決めて構わない」と応じ、ガイドラインにとらわれない活動時間の設定を容認する姿勢を示したと明かした。
吹奏楽部員が自死した問題に関して、同市の調査検証委が3月に公表した報告書では、提言として、平日で約5時間半、休日で約11時間行われていたと認定した部活動の過密スケジュールの緩和や、養護教諭とスクールカウンセラーの連携強化などのほかに、全国で部活動のガイドラインが順守されているか確認できる体制づくりが盛り込まれている。
適切な休養日の設定や指導といった部活動の望ましい運営方法の指標として、スポーツ庁は「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」、文化庁は「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」をそれぞれ18年に策定した。しかし、主な対象範囲は義務教育である中学校としており、高校に関してはともに、「中学校教育の基礎の上に、心身の発達及び進路に応じて、多様な教育が行われている点に留意する」と明記した上で、「本ガイドラインを原則として適用」としている。
日本スポーツ協会が昨年に全国600の中学校と400の高校を対象に調査した「学校運動部活動指導者の実態に関する調査」によると、ガイドラインで求める週2回以上の休養日(平日、休日1日ずつ)を設けている学校は中学校で81%になる一方、高校は41%にとどまっている。加えて、平日2時間、休日3時間の活動上限を超えていない学校は中学校の58%に比べ、高校はわずか26%だった。
要望書では、「発達段階の異なる中学校と高校が同じ基準を用いており、実態に即していないことから、全国的にガイドラインの形骸化を招くことが懸念される。具体的な数字を示している以上、実態と乖離(かいり)したガイドラインの存在は指標としての適切さを欠いている」と指摘。加えて、「心身の発達および進路に応じて、多様な教育が行われている点に留意するよう示されていることから、地域差や学校差が生じやすい制度となっている」とした。
その上で、「高校の発達段階や活動状況を十分に認識した上で、速やかに部活動に係る問題を対処してほしい」とし、永岡文科相に▽生徒の発達段階や活動状況の実態に即したガイドラインに見直しを図ること▽高校を主な対象としたガイドラインを今年度中に発出すること――を求めた。
要望書提出後、取材に応じた太田市長は、永岡文科相が「全国画一的にすることは文科省としては難しい。ガイドラインが全てではない。高校生は自主性を重んじ、地域で対応していくのが一番望ましい」と応じたことを明かした。
柏市では現在、高校の部活動の活動方針の見直しを進めており、これまで「生徒の体力、安全性を十分考慮して、適切なものとする」としていた1日の活動時間について、具体的な数字を盛り込むことを検討している。太田市長は「柔軟に対応していいということであれば、私どもの調査やアドバイザリーボードなどの意見も聞きながら、実情に応じた中での改革案を出していきたいと思っている」と述べた。
また同市の報告書ではこの他に、「複数の事項が原因となった可能性があるが、そのどれが直接の原因となったかは特定できなかった」とした上で、「文化部ガイドライン等の基準からかけ離れた長時間の練習の継続により、思考力、集中力等が低下しており、精神的な余裕を失っていた」と指摘。さらに、「吹奏楽部の活動に満足に参加できない状況が自己肯定感の低下を招いた結果、人生的な展望を見失って、最終的には自殺に至ったもの」と結論付けている。併せて、「月間スケジュールを市教委に提出」「いじめ・生活アンケートの毎月実施」といった改善案を提言している。