東京都教委いじめ問題対策委員会はこのほど、都内の公立学校におけるいじめ防止の取り組み状況の検証と対策推進の方策についての答申をまとめた。都教委ではいじめ防止対策推進法の制定を受けた条例を基に「いじめ総合対策」を策定。これまで4期にわたって対策委でいじめ防止の取り組みの検証などを行ってきた。今回の答申では多くの学校種で教職員のいじめ認知への意識の向上がみられたことを評価し、対策を一層推進するための方向性として7方策を提言した。
「いじめ総合対策」では、いじめ防止の取り組みを検証する6視点を示している。それらは「軽微ないじめも見逃さない」「教員一人で抱え込まず、学校一丸となって取り組む」「相談しやすい環境の中で、いじめから子供を守り通す」「子供たち自身が、いじめについて考え行動できるようにする」「保護者の理解と協力を得て、いじめの解決を図る」「社会全体の力を結集し、いじめに対峙する」。答申ではこれらのポイントごとに取り組みの成果と課題を示した。
「軽微ないじめも見逃さない」では、約9割の学校が「いじめ」の定義を理解した上で、確実にいじめを認知していると捉えており、特に小・中学校において見逃しがちないじめの認知が浸透していると評価。一方で、いじめを認知していない学校は、いじめの認知の仕方や解消の捉え方について、教職員で話し合いを重ね、認識を共有することが必要としている。
「教員一人で抱え込まず、学校一丸となって取り組む」では、全ての学校で、「学校いじめ防止基本方針」の点検・見直しを実施しているほか、9割を超える学校で「学校いじめ対策委員会」への報告、組織的対応を徹底していたことが分かった。その上で、全ての教職員が基本方針や対策委員会についての理解を深めるとともに、日常的にいじめ問題について話し合えるような同僚性を高めることが必要とした。
「相談しやすい環境の中で、いじめから子供を守り通す」では、いじめられた児童生徒の相談状況は、全校種において学級担任が一番多く、またスクールカウンセラーなどを積極的に活用した教育相談体制が全体で100%近くとられていた。今後は教職員が子供のSOSを受け止め支援する力を高めるとともに、家庭や関係機関と連携し、「子供が安心して相談できる環境」を充実させることが必要と指摘。
「子供たち自身が、いじめについて考え行動できるようにする」では全ての学校で、道徳や学級活動の時間にいじめに関わる問題を取り上げており、子供が主体的に行動しようとする意識や態度の育成に努めていた。一方で、いじめに関する授業を「年3回以上計画し実施」している学校は7割程度にとどまっており、年間を通じて日常の授業で体系的に行うことが課題であるとした。
「保護者の理解と協力を得て、いじめの解決を図る」でも全ての学校で、「学校いじめ防止基本方針」をホームページに公表するなど、保護者や地域住民に周知し、理解を得る取り組みを推進していると評価。課題としては全ての教職員が「学校いじめ防止基本方針」の内容を分かりやすい言葉で説明できるようにし、学校と保護者の受け止めの間にずれがないかを確認することを挙げた。
「社会全体の力を結集し、いじめに対峙する」では、約8割の学校で重大性が高い事案への対応について全教職員が理解していると答えており、関係機関との連携の在り方への理解が浸透していることをうかがわせた。その上で、全ての教職員が学校サポートチームの役割や機能を理解するとともに、日常から地域住民や関係機関との関係を築き連携を強化することが必要とした。
これらの検証を踏まえ、答申ではいじめ防止対策を推進するため取り組む事項として、「発達の段階に応じたいじめ防止等の具体的取り組みに係る検討」「教員が元気になるような研修等、学びの場の創出」「特別の教科道徳の授業、特別活動の質の向上」「SOSの出し方に関する教育の見直し」「いじめ問題に関する現状や課題等の把握」「専門家の力を活用したいじめ防止対策の推進」「いじめ防止対策推進法第28条第1項に規定する重大事態に関する事例研究の実施」の7方策を示した。
このうち、「いじめ問題に関する現状や課題等の把握」では、教職員が深い児童生徒理解に立ち、「日常から積極的な対話や注意深い観察を行う」「把握した子供の実態や指導・支援した経過などを記録する」「教員一人一人の気付きを全教職員で共有する」 などの取り組みの徹底を提言。
「専門家の力を活用したいじめ防止対策の推進」では、いじめの早期解決に向けて、 初期の段階から、弁護士や精神科医、心理士などのサポートを受けられるような相談体制の構築について検討を行い、その際には弁護士などを活用した相談体制の整備について先進的に取り組んでいる自治体の事例を調査するとともに、 保護者などが安心して相談できる仕組みや、 弁護士、精神科医、心理士がチームとして関わることの有効性について専門家の助言を得ていくことを求めている。