コロナ禍や物価高による家計の経済的な負担を軽減しようと、学校給食の無償化に乗り出す自治体が相次いでいる。青森市では10月から、市立小中学校で提供される給食を無償とし、東京都葛飾区でも来年度から市立小中学校などの給食費の完全無償化を目指す。家庭における教育費負担問題に詳しい福嶋尚子千葉工業大学教育センター准教授は、こうした取り組みが進むことに対し一定の評価をする一方、自治体間格差が広がってしまう可能性を懸念する。
少子高齢化対策や子育て世帯の支援といった目的で、青森市は今年度の補正予算案で、10月から市立の小学校42校、中学校19校で提供する給食を無償化するため、約5億円を計上した。今年度分については、国の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金を活用するが、市教委の担当者は「来年度以降も継続を目指す」と強調する。
葛飾区でも子育て世帯への支援や教育環境の充実のため、来年度当初予算案に区立の小学校(49校)、中学校(24校)、特別支援学校(1校)に在籍する児童生徒の給食費を完全に無償化する目的で、来年度予算案に必要経費を盛り込むことを決めた。予算規模は約17億円になるとしているが、これまで実施してきた低所得世帯や多子世帯への給食費の補助が約7億円あるため、実質的な増額分は約10億円程度となる見込み。
給食費の無償化を巡っては、文科省が2017年度に給食費を無償にしている自治体を初めて調査した時点では、小学校・中学校共に無償化を実施しているのは全体の4.4%に当たる76自治体で、そのうち71自治体が町村、人口1万人未満の自治体が56自治体を占めていたが、近年は、子育て支援やコロナ禍による家計の負担軽減などを目的に、人口の多い自治体にも広がりつつある。
教育新聞で「それ、本当に必要? 『隠れ教育費』からの問題提起」を連載していた福嶋准教授は「給食は栄養価が高く、材料費のみが家庭負担で、家庭の調理負担も減らすものとして、私費負担の中では無駄が少ない。これを公費で負担することは方向性として望ましい。自治体による給食費無償化の流れが急速に拡大していることは歓迎したい」と、こうした動きを評価する。
その一方で、自治体によっては一部のみを無償とするケースや小学校か中学校のどちらかだけ、暫定的な措置など、無償化の範囲にばらつきがあると指摘。「一部無償や、学校段階を限定することは同じ自治体内で私費負担と公費負担が入り交じることになり、第一歩としては仕方ないのかもしれないが、同じ自治体内の子どもたちの食の権利の保障に差がついてしまっている」と話す。
また、「無償を実施している自治体とそうでない自治体との間の差もある。より優れた無償施策をとっている自治体に、子育て世帯が流れ込む可能性もある」とも述べ、自治体の決断や財政力に依存するのではなく、国も負担する形で全国的な給食費の無償化を進めていく必要があると強調する。