特異な才能ある子への支援 審議まとめ素案に多くの意見

特異な才能ある子への支援 審議まとめ素案に多くの意見
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 文科省の「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」は9月8日、第13回会合をオンラインで開き、7月に公表した「審議のまとめ(素案)」に関する意見募集の結果を紹介した。教員や保護者だけでなく、児童生徒などからも意見が寄せられ、全体で280件に上った。その中では、児童生徒のニーズに向き合うことだけでなく、教員のサポートや負担軽減が必要だと訴える声もあった。今回の会合では教育委員会関連団体からのヒアリングも行われ、支援を巡る学校現場の負担感や、支援の対象となる児童生徒を見いだすための基準が、改めて議論の的となった。

「たくさんの先生に知ってほしい」 子供からも意見

 意見募集に寄せられたコメントの中では、特異な才能のある児童生徒への支援の在り方について「同じことを同じペースでやることを平等と考え、そこからはみ出た子を別の扱いにするのではなく、個々それぞれに違っていることが平等または公正であるという、平等感、公平感の転換も盛り込んでいただきたい」「低学年の子供では、才能面よりも問題行動が目立ち叱責(しっせき)を受けたり、逆に無理に環境に適応しようとしたりして、気持ちを抑え込んだりするケースが多くある。この時期から自己肯定感を育める環境に置くなど、早期に適切な支援の下で自己理解を進めていくことが大切」といった指摘があった。

 また、教職員へのサポートについては「児童生徒の対応などについて相談できる場や窓口が必要」「教員の研修の充実の一環、研修を相互的に補完するものとして、『こんな時、どうする?』『どうしている?』といった情報交換ができる場があるといい」「先生をまず孤立させないように臨床心理士や神経科、理学療法士などの専門的な人材がフォローできる体制が必要」といった指摘が寄せられた。

 同時に、教員の負担軽減が必要だとして「教師の日頃の仕事量を減らす改革が必要。教師の忙しさを改善して、子供一人一人に向き合う時と心の余裕が必要。教師が忙し過ぎる。おそらく教師も新しい教育を学びたいし、子供一人一人にあった対応をしたいと思っている」と訴える声もあった。

意見募集に子供たちから寄せられた声
意見募集に子供たちから寄せられた声

 意見募集では子供たちからの声も寄せられた。小学生からは「飛び級とか大掛かりなことはやらなくてもいいから、授業の最初にテストをして分かっている人は、授業中にパソコンなどで、自分で勉強を進めていければいいと思う。僕は、理科が大好きだけど、学校の授業は簡単過ぎてつまらなく、ボーっとしていると真面目にやっていないと言われ、怒られる」「学校の先生が喜ばないのは分かっているので、好きな話をしない」「計算方法が違うといわれ、勉強もつまらなく不登校になった。現在は相談室で一人、自分の持ち込み勉強会をしている。毎日毎日、一人で勉強も寂しい」「全ての学校に周知してほしい。たくさんの先生に知ってほしい」といった切実な意見が上がった。

 また、ある中学生は「僕の在籍する公立中学では、昨年度から学級経営で多様性への理解が進められるとともに、学習内容で合わなさを感じた時には、一時的に一人で学習することができるよう、工夫が講じられた。それでもそこで感じる課題は、孤立によって自己嫌悪を感じてしまうこと。理解のある教員が数人と限られること。また、教員はこのような生徒に接したことがないため理解しようと努力はしてくれるが、手だてや支援の方法が分からない」と記した。

 藤田晃之委員(筑波大学人間系教授)は「子供たちの声は、全てを語っていると思う。こういう子供たちを前にして、『きっと困っているのだろうな』と先生は思っていることも疑いがない。(有識者会議では)先生たちの負担を増やそうとしているのではなく、子供たちの声を聞こうとしているということにフォーカスを当てたい」とコメントした。

「特異な才能」の基準巡り議論続く

 今回の会合では、審議まとめ素案に対する教育委員会関係団体へのヒアリングも行われたが、そこでは主に学校現場の負担が増えることへの懸念や、支援の対象となる児童生徒をどのように見いだすかという基準に対しての戸惑いの声が挙げられた。

 学校現場の負担については「学校が十分な理解ができていない現段階において、特別な支援を要する子供たちの指導・支援に苦慮している現状もあり、これ以上、学校の負担感を増やさないよう配慮することが重要。学校が学校外の機関にアクセスし、指導・支援のノウハウを共有しながら進めることが求められるとともに、学校外からの情報提供の機会も広く提供されることを期待したい」(全国都市教育長協議会)などの意見があった。

 また、対象となる児童生徒を見いだすための基準については「(有識者会議が提言する)実証研究を円滑に進めるには、『特異な才能のある児童生徒』を判断するための指標が必要」(全国都道府県教育委員会連合会)、「『対象となる児童生徒の特異な才能』を明確化し、実際に指導に関わる教育現場の教師の負担が過大にならないようにする必要がある」(全国市町村教育委員会連合会)など、懸念を示す声があった。

 これに対し市川伸一委員(東京大学名誉教授、帝京大学中学校・高等学校校長補佐)は「明確な基準を作るのは危ない面もある。まず基準を作るのも大変だ。個々の子供に応じて、特定の基準で線引きするのではなく、その子の困り感、地域のいろいろな環境や条件を考慮した上で対応策を考えていくことになる」と指摘した。

 また根津朋実委員(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)は「何かの目的のために外的な基準を設けるということ、その基準を誰かが児童生徒に当てはめるということと、当の児童生徒が自発的に学ぶ場を選べることは、本来、全部違う次元の話だ。本当は一つずつ丁寧に見ていかなければいけない敏感な問題で、何らかの基準で一体化して、流れ作業のように扱おうとすることには慎重であるべきだ」と語った。

 一方で中島さち子委員(steAm代表取締役)は「基準を決めず、『皆さんにお任せします』とすると結局、アクションが何も起こらず、現状が変わらない」と懸念。「(対象となる児童生徒の)見い出し方を先生に一任されていると、先生も負担だ。国が一律の基準を出し、それで判定することが望ましくないことには大いに賛同するが、一律ではなく、多種多様なアセスメントのツールや研修を見せていくことは必要ではないか」と語った。

 また福本理恵委員(SPACE代表取締役)は「項目を挙げながら、日常的な本人の状態、感じている状態をチェックしていくという問診形式は、学校の中でも入れていくことができるのではないか。専門家領域だけにとどまらない文言を入れながら『困り感があったらこの問診を受けてみてね』と学校や保護者が提示したり、その結果を見て、どの支援先につなげるかを体系化したりすることが、現場に即した基準を作るときの対応策になり得る」と提言した。

 こうした議論を踏まえ、岩永雅也座長(放送大学学長)は「『あなたが才能児と思う子供に、あなたが思う通りの教育をしてください』というあいまいな仕事を依頼されたら、とてもではないが引き受けきれない、ということだと思う。やはり基準、指標の問題は避けて通れない」と、教育委員会関係団体の懸念に理解を示した。

 同時に「有識者会議は、結論として、基準を出すことを目的としていない。どうしたらその基準を作れるか、どういう方向で考えたら基準が使えるようになるのか、という示唆を得られればと考えている。そういう意味では、実証研究の中で多軸的な才能アセスメントツール、より良い研修ツールの開発や、有効な問診形式の在り方を検討し、それを通じて具体的な基準や指標を見いだしていくという方向が、一つの解だと考えている」と結んだ。

 文科省は8月末に公表した来年度予算の概算要求で、「特定分野に特異な才能のある児童生徒への支援の推進」として1億1300万円を要求。こうした児童生徒の支援のための研修パッケージ開発や、実践事例の蓄積に向けた実証研究などを盛り込んでいる。

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