個別最適な学びの実現へ 経産省が今後の学びの姿を提言

個別最適な学びの実現へ 経産省が今後の学びの姿を提言
「中間取りまとめ」の最終調整を話し合う教育イノベーション小委員会(YouTubeで取材)
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 「未来の教室」実証事業などを踏まえて、今後の教育の方向性を検討してきた経産省産業構造審議会商務流通情報分科会の「教育イノベーション小委員会」は9月13日、第4回会合をオンラインで開き、約1年間にわたるこれまでの議論を踏まえた「中間取りまとめ」について、大筋で了承した。GIGAスクール構想による1人1台環境を前提に、従来の標準授業時数にとらわれない個別学習計画に基づく支援・伴走や、学習指導要領コードを活用した探究と各教科の教材の紐付けなどを提言。多様な人材を教員として学校に参画しやすくするため、教員資格認定試験の対象拡大や特別免許状の授与の促進などを打ち出した。

 小委員会は、イノベーションを創出する次世代人材を育てる学習環境について、学校教育、民間教育、地域社会、産業界が垣根を超えて取り組めるオープン・イノベーションを土台にし、GIGAスクール構想で個別最適な学びが実現することを前提に、教育施策について提言を行う目的で設置。経産省が推進している「未来の教室」実証事業の成果などを基にした「未来の教室」のイメージを具体化させ、その実現に向けた制度的な課題などを整理。地域や所得の格差にかかわらず、誰もが新しい学習環境にアクセスし、自分に適した学びを選べる仕組みについて検討を重ねてきた。

 「中間取りまとめ」では、デジタル化の進展で、子どもの多様な関心に応えたり、それぞれのペースで学んだりすることが技術的に可能となった一方で、初等中等教育の姿は長年の一斉指導の姿から変化できていないと指摘。「未来の教室」実証事業を踏まえ、「学びの探究化・STEAM化」と「学びの自律化・個別最適化」のサイクルを回していくモデルを提案した。

 その上で、時間・空間や教材の組み合わせの自由度を向上させ、入試・就職などの出口の改革や、多様な教員・伴走者が学校に参画する必要性を論点として提示した。

 時間・空間の組み合わせの自由度向上では、小中学校で各教科の標準授業時数に基づいて管理する考えを超えて、「個別学習計画」を基にして学習成果を確認しながら支援や評価をしていくことや、高校で遠隔授業やオンデマンド教材を活用した授業を行う際の教員配置基準の見直しなどを提言。子どもたちの学習権の保障のためのフリースクールやオンラインによる支援の拡充、子どもたちのさらなる探究心を支えるための場の充実なども盛り込んだ。

 教材の組み合わせの自由度向上では、教育データの利活用を推進し、文科省が取り組んでいる学習指導要領のコード化と歩調を合わせ、経産省が整備した「STEAMライブラリー」のコンテンツを皮切りに、さまざまな探究学習の教材を学習指導要領コードと紐付け、各教科との連携をしやすくするほか、探究学習の評価手法の開発も重要だとし、データ連携によって入試や就職活動で探究学習の成果を反映させるなどの評価軸の多様化を進めていく方向性を示した。

 また、多様な教員・伴走者の学校への参画を促すため、これまでは中学校の免許が取得できなかった「教員資格認定試験」について、中学校にも拡大し、高校の対象科目を増やしたり、特別免許状を市区町村教委が付与できるようにしたりするなどの見直しが必要だとし、教員間の対話を通じて、学校を信頼性の高い組織に変えていくことを打ち出した。

 この日の会合では、「中間取りまとめ案」について委員間でディスカッション。佐藤昌宏デジタルハリウッド大学教授・学長補佐は「データを活用したGIGAスクールの学習基盤を踏まえ、データの標準化をしっかりやりきることと、同時に各プロジェクトが独自に走っているところもあり、中長期的な標準化に視点を向けたビジョンを整理する必要があるのではないか。経産省も民間の標準化の支援に手を差し伸べるべきだ」と述べ、前提となる教育データの標準化の重要性を強調した。

 これに対し苫野一徳熊本大学教育学部准教授は「学習内容の標準化の議論に際して大事にしておく必要があるのは、標準化はどうしても序列化とセットになってしまう可能性があるということ。これだけ標準化すると、どれくらいできたかできないかが序列化され、非常にビビッドに可視化されてしまう懸念がある。その意味で、例えば、全ての子どもの学習権を保障するためのとか、公正を目指したという意味での標準化とすれば、その意義が浮かんでくる」と話し、標準化という言葉が独り歩きしないようにすべきだと助言した。

 また、末冨芳日本大学文理学部教授は「学校に関わる人材を多様化していくとき、人件費の確保やその背景にある国の法制の配置基準の明確化、児童一人一人に寄り添った学びの個別最適化の視点からアップデートしていく必要性は改めて強調してほしい。教員間の対話を通じた信頼性の高い組織への改編というのが、こちらの中間まとめ案の見出しでは学校の生まれ変わりという視点も出ている。ここで書かれていることは、学校のガバナンスの生まれ変わりを支えることでもある」と述べ、学校評価の在り方も変えるべきだとした。

 今村久美カタリバ代表理事は「個別の学習計画も多様な学びの場の選択肢もサードプレイスも、増やしたいと思っていない人は日本中どこにもいないと思っている。ではなぜ増やせないかと言えば、結局それをやる人がいない。地方においては人材がいない。これに尽きる」と問題提起し、行政の枠組みを超えた専門性を持った人材のシェアの仕組みづくりを今後の検討課題に挙げた。

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