教科書会社「大日本図書」(東京都文京区)の営業担当幹部らが7月、茨城県五霞町の倉持伸樹教育長と同県内で会食し、飲食代を全額支払っていたことが9月30日までに分かった。教科書協会の自主ルール「教科書発行者行動規範」では各自治体の教育長は「採択関係者」にあたり、接待や金品の提供など一切の利益供与を禁じている。大日本図書は教育新聞の取材に対し、「教科書採択自体の公平性に疑念を生じさせる事態。心よりおわび申し上げる」と述べた。
大日本図書によると、会食は7月1日に県内の料亭で行われ、同社からは役員を務める東日本支社長と、県内の営業担当社員2人が出席。倉持教育長ら2人に対し、会社側が1人に約9500円の飲食代を支払い、約1600円の菓子も渡したという。
倉持教育長は3月に町外の中学校長を退職。教育長には今年4月に就任した。大日本図書が当該者に聞き取りを行ったところ、会食の目的は倉持氏の校長退職に対する慰労だったといい、教科書採択も含め、利益供与は一切なかったという。
五霞町教育委員会によると、五霞町では現在、小中の計6教科で大日本図書の教科書を使用。小学校の「算数」「理科」「生活」「体育」が2019年度、中学校の「数学」と「理科」が20年度に採択された。
教科書の採択を巡っては、2015~16年度にかけて、教科書会社10社が教員など延べ約4000人に対し、部外者への開示が禁止されている検定中の教科書を見せた上で、謝礼として金品を渡すという不適切行為が発覚。これを受けて一般社団法人教科書協会は自主ルールとして16年9月に「教科書発行者行動規範」を策定した。
禁止される行為の具体例として、「採択関係者に対する金銭や物品の提供,饗応その他の利益の供与(交通費・宿泊費,飲食費等に名を借りて社会通念上相当とされる範囲を超えて供与されるもの及び中元・歳暮等による物品の贈答を含む」と記載。採択関係者については、「採択権者である教育委員会の関係者(国立学校・私立学校においては学校長)のほか、教科用図書選定審議会もしくは採択地区協議会の委員または調査員等として採択に至るまでの一連の手続に関与する者に加えて、実際にこれらの職に就いているか否かにかかわらず校長・教員等の全ての学校関係者を含む」としている。
大日本図書は30日、ホームページに謝罪文を掲載。藤川広社長は「このような事案が発生したことについては誠に遺憾であり、徹底した社内調査と再発防止が必要であると考えています。また、上記の事実を把握したことから、速やかに、教科書協会と文部科学省への報告を行いました。関係する全ての皆さまに多大なご迷惑をお掛けすることとなり、心よりおわび申し上げます」とした。
同社では毎年1~2回、全社員約130人に対して、行動規範の順守を徹底するため研修を行っているが、教育新聞の取材に対し、「コンプライアンスに対する意識が甘かったと言わざるを得ない」と述べた。同社は今後、弁護士など第三者を含めた調査委員会を立ち上げ、発生の経緯や原因を究明した上で、再発防止策を講じるとしている。
また、五霞町の染谷森雄町長は30日、同町役場で記者会見を開いた。会食があったことを教育長が認めたとした上で、「不適切な行為があったことに対しては極めて遺憾であり、厳正に対処する。今後、再発防止に向け、綱紀の粛正に努めてまいりたい」と述べ、陳謝した。
この問題を受けて、永岡桂子文科相は同日の閣議後会見で、「教科書は全ての児童生徒が必ず使用するもので、その採択には高い公平性と透明性が求められる。極めて遺憾」と強調した上で、「今後の調査の動向を注視しながら、厳正に対処してまいりたい」と述べた。