中教審の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の下に設置された、「義務教育の在り方ワーキンググループ」が10月17日、初会合を開いた。不登校の児童生徒が過去最多となるほか、家庭環境や特異な才能など多様な背景を持つ子供たちの学びにも焦点が当たりつつある現状を踏まえ、義務教育の意義や、学びの多様性について検討し、来年2月をめどに論点整理を行う。
初会合で文科省が示した当面の検討事項は、「①義務教育の意義」と「②学びの多様性」の2点。「①義務教育の意義」では、「豊かな人生を切り拓き、持続可能な社会の創り手となる子供たちに必要な資質・能力の育成において学校が果たす役割」「不登校児童生徒や特別な支援を必要とする子供、特異な才能のある子供を含め、全ての子供たちの可能性を引き出す学びの実現」などを挙げた。
また「②学びの多様性」では、「1人1台端末の活用を含めた多様で柔軟な学びの在り方」や、「全国の学校や教室においてこのような学びを実現するための課題・方策」「多様性と包摂性を両立し、グラデーションのある学校教育の実現」「へき地等の小規模校や、不登校特例校などにおける遠隔授業の活用・推進」「学校教育になじめないでいる子供に対する学校内外のさまざまな学びの場の充実」などを示した。
初回は、各委員がそれぞれ自由に意見を述べた。荒瀬克己委員(教職員支援機構理事長)は「学校教育をどうしていくかと考えるとき、教育にお金をかけないと、これからの日本の社会や、日本の国土に住む人のウェルビーイングはどうなっていくのかを、しっかりと考えなければならない。そういうことも一方でアピールしながら、教師が、あるいは学校に関わる人たちがどういうことを知らなければいけないのかを議論していくという、両面が必要ではないか」と強調した。
柏木智子委員(立命館大学産業社会学部教授)は「多様性を保障することは本当に重要なことだと思うが、ただ、多様性の名のもとで個人の放置、個が浮遊する社会にならないために、学校の役割として、社会の分断を防ぐことを考えることが大事ではないか。それは格差を是正する、あるいは誰もが希望と信頼を持って社会を形成することへの寄与という点で、公正な民主主義社会を形成することへの、学校の貢献だと考えられる」と語った。
子供の学びに向き合うための、教師の働き方改革に関する意見も複数寄せられた。秋田喜代美主査代理(学習院大学文学部教授、東京大学名誉教授)は教師の働き方について、「(教師)全員が朝からずっと同じ時間で、プラス残業(をする)というような働き方ではなく、海外ではいろいろな時間の組み方をしているところもあり、今後はワークシェア的な発想も柔軟に考えていくことが、教師が生涯、教師として働き続けるための在り方として重要なところではないか」と指摘した。
こうした意見を受け、奈須正裕主査(上智大学総合人間科学部教授)は「学校はうまく行っているのか、ということを再度、多角的に捉え直す必要があると思った。私自身は、日本の義務教育は悪くはないが、絶好調でもないと思う。かつては絶好調だと信じられていた時代があり、その成功体験に身を委ねて、そのまま慣性で居続けているようなところがありはしないか。社会や生き方そのものが大きく変わってくる中で、学校は何ができるのか、何をすべきなのか、そのためのリソースはあるのか、限られたリソースをどう組み合わせれば何とかやれるのか、場合によっては何かを断念するのかということも考えなければいけない」と述べた。
同会議の委員は次の通り(五十音順、敬称略)。
▽秋田喜代美(学習院大学文学部教授、東京大学名誉教授)▽荒瀬克己(教職員支援機構理事長)▽今村久美(カタリバ代表理事)▽鍵本芳明(岡山県教育委員会教育長)▽柏木智子(立命館大学産業社会学部教授)▽黒沢正明(東京都八王子市立高尾山学園校長)▽小柳和代(高松市教育委員会教育長)▽貞廣斎子(千葉大学教育学部教授)▽戸ヶ﨑勤(埼玉県戸田市教育委員会教育長)▽中谷一志(広島県廿日市市立宮園小学校長)▽奈須正裕(上智大学総合人間科学部教授)▽野田正人(立命館大学大学院人間科学研究科特任教授)▽堀田龍也(東北大学大学院情報科学研究科教授、東京学芸大学大学院教育学研究科教授)▽水谷年孝(愛知県春日井市立高森台中学校長)▽若江眞紀(キャリアリンク代表取締役)