水戸市の茨城県立水戸特別支援学校(宮山敬子校長、生徒181人)で10月20日、高等部の生徒が人型ロボット「OriHime(オリヒメ)」を使って職場体験学習を行った。学校と同市にある茨城県立図書館をオンラインでつなぎ実習。生徒は校内から遠隔でロボットを操作しながら、イベント案内のアナウンスに挑戦したほか、来場者と交流した。
OriHimeは㈱オリィ研究所が開発した分身ロボット。カメラ、マイク、スピーカーが搭載されていることに加えて、インターネットを通した遠隔操作で、声や身ぶりによるリアクションをすることもできるため、移動の制約があっても、あたかもその場にいるようなコミュニケーションが取れる。
ベッドや車いすの上からでも操作可能なOriHimeは障害者の教育や就労の場に広がりつつあり、神奈川県平塚市のひらつか障がい者福祉ショップ「ありがとう」では、自宅から遠隔操作で接客業務を行っているほか、東京都では昨年度から予算を組み、病弱教育を行う特別支援学校5校に無償で貸与している。
この日は、学校と茨城県立図書館をオンラインでつないで、高等部1年生の生徒5人が案内業務に挑戦した。マイクを使った駐車券発行口の誘導やイベント告知のアナウンスに加え、タブレットを使ってタイミングよくOriHimeを操作し、図書館から出る際は手を振ったり、うまくいかなかったときは落ち込むアクションをしたりするなど、茶目っ気たっぷりに来場者をもてなした。同校の小池くるみさんは「アナウンスに合わせた動きを、タブレットで操作するのが難しかった。最初は緊張したけれど、楽しくできた」と振り返る。
同校ではOriHimeを2学期の期間限定で導入。費用は学校創立60周年記念事業のためにPTAで貯蓄していた資金で賄った。これまでも新型コロナに感染もしくは濃厚接触者となり、登校できない生徒が授業を受けるために利用。タブレットと異なり、自分が見たいところを見られるだけでなく、「グループによる学習で、気後れしてしまったり、発言を整理したりすることで、なかなか発言できなかった生徒が、OriHimeを使えば、自分の言いたいことが言えるようになった」とコミュニケーションでの利点もあると同校の教員は話す。
同校は肢体不自由の児童生徒が通う学校だが、医療的ケアが必要など、重複障害の児童生徒が増加しているといい、全体の約2割に当たる32人が、学校に通うのが困難なため、自宅や福祉施設で授業を受ける「訪問教育」を利用している。
宮山校長は「生徒たちにとっては不便なことや出来ないことで、諦めることが多いと思う。だけど困難やバリアを、一気に飛び越えられるツールがある。実習を通して、人と交流をし、社会とつながることで自信をつけてほしい」と語る。