教員の精神疾患による長期休職者の改善が10年以上見られない中、「教職員のメンタルヘルスプロジェクト」は10月19日、発足後初となるセミナーをオンラインで開いた。「メンタルヘルステクノロジーズ」(東京都港区)の刀禰(とね)真之介社長が、教職員など95人を前に講義。「仕事の量と質が大きく変化している教員がメンタルヘルスの不調に陥らないためには、ストレスから自分自身を守ることが何より重要」と強調し、睡眠の質を上げることや、仕事と家庭以外の「サードプレイス」を持つことの重要性を訴えた。
同プロジェクトは全国の教職員の心の健康を守ることで、子どもたちのよりよい教育環境の提供につなげようと、今年8月に発足。産業医などによる役務提供サービスと従業員の心身の健康に関するクラウド型サービスを提供する「メンタルヘルステクノロジーズ」のほか、中教審の「学校における働き方改革特別部会」で部会長を務めた東京大学の小川正人名誉教授、琉球大学教育学部の西本裕輝教授、NPO法人「共育の杜」の藤川伸治理事長が参加している。
刀禰氏は「脳はパソコンと一緒で、いろいろなデータが集まるとフリーズしてしまう」と述べた上で、スマートフォンなどで途切れることなく情報が入ってくる現代は、脳が疲れた状態で仕事をしていることが多く、精神面に不調を来しやすいと指摘。続けて「子どもや仕事を優先し、皆さんの多くが自己犠牲の形をとっている」と述べ、最優先するのは自分自身を守ることだと訴えた。
ストレスについては、タクシーを例に「地方ではなかなか乗れなくても仕方ないかと思えるが、都市部だとイライラしてしまう」と述べ、「自分が期待している結果とのズレ」によって生じると説明。その上で、ストレスにより起こる変化は人によって違うとし、どのような影響が自分にあるかを把握することが重要とした。
また、精神面のセルフケアにおいて、最も効果的なのは睡眠の質を上げることだと強調。睡眠不足により交感神経が優位になることで、増したイライラが子どもに向かう可能性を指摘した。その上で、副交感神経を優位にし、眠りの質を高めるために、▽30分程度の散歩▽15分程度のストレッチ▽寝る1時間半前に風呂に漬かる――などを推奨した。またスマートフォンについても、交感神経を刺激するブルーライトを避けるために、夜から朝にかけては使用を避けるか、ブルーライトをオフにする機能を使うように勧めた。
加えて、長時間労働が問題になっている教員においては、職場や家族以外のコミュニティーがない人も少なくないとし、職場や家族以外に自分が心地いいと思えるコミュニティー「サードプレイス」を見つけて、意識的に参加することを勧めた。加えて、山に行って叫ぶといった感情の発散を定期的に行うことを助言した。
講義の最後、参加者が「弱みを見せたくない相手のプライドを守りつつ、相談に乗る工夫はあるか」と質問。これに対し、刀禰氏は「自分の弱みを見せることで『できない人』と思われてしまうと考えている人の話を聞くのは難しい」とした上で、「踏み込み過ぎてしまうことで、逆に自分自身が大変になる可能性がある」と指摘。「むやみやたらに大丈夫と聞くよりは、専門家に委ねた方がいい」とアドバイスを送った。
文科省の2020年度「公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、公立学校教員の精神疾患による病気休職者は20年度で5180人。19年に比べて298人減少したものの、10年以上、横ばいの状態が続いている。