教員の養成・採用・研修に関する制度改革について議論を進めている中教審の合同会議は10月24日、答申素案を公表した。9月に示した中間まとめ案をおおむね引き継いだ上で、関係団体に対するヒアリングで寄せられた意見や指摘を踏まえ、教員採用試験の早期化・複線化による学生に対する負担軽減や教員を目指す学生に対する奨学金返還支援といったインセンティブ、教職員のメンタルヘルスに対する支援の必要性などについて書き加えた。さらに、素案全体のまとめとして「おわりに」を追記。学制公布から150年経過しても、教員が「公教育の要」であることは変わりないとした上で、次代の教員育成のために、働き方改革を強力に推進することが不可欠と明記した。
9月9日に公表された中間まとめに対し、校長会や大学、教育委員会といった関係団体へのヒアリングを経て、加筆修正された答申素案では、制度改革による教員、学生の負担面についてさまざまな追記がなされた。
このうち、優れた人材を確保できるような教員採用の在り方については、「民間企業等の就職活動の早期化により、就職活動を不安に思い、少しでも安定した就職先を決めたい学生は、教師を目指していても先に民間企業に就職先を決めてしまう」という指摘を新たに書き加えた上で、教員採用試験の早期化・複線化についても検討する必要があるとした。一方で問題点として中間まとめでも挙げた、他の自治体の教員採用選考試験との重複合格により辞退者が多く発生する可能性については、「国と任命権者、教員養成大学などの大学関係者等が協議しながら、学生の負担等にも留意しつつ検討を進めていくことが必要」と付け加えた。
早急に改善を図る必要があるとされた教員就職率の向上においては、教職志望の高い学生の入学を促進する観点から、各大学は高校生向け教職講座の実施や高校における教師養成コースへの協力などに加え、奨学金の貸与や返還支援、授業料の減免といったインセンティブも検討するよう求めた。
学校における働き方改革の推進については、教職員のメンタルヘルスについて加筆。「児童生徒等や保護者等への対応から悩みを抱える教師もいるとの指摘もあり、教育職員の精神疾患による病気休職者数は5000人を超える水準で推移している」とした上で、各任命権者が、民間企業や専門家などと連携しながら、メンタルヘルスに関する原因分析や効果的な取り組みの研究に努めるとともに、文科省においても必要な支援を講じるべきとした。
また、素案全体のまとめとして、新たに追記された「おわりに」には、学制150年を迎えた教員の位置付けを「公教育の要」と明記。教育基本法9条を踏まえ、教育の直接の担い手である教員は、絶えず研究と人格の修養に努めることが求められるとした。
合わせて、同じ9条の2に規定された「尊重され、待遇の適正が期せられること」に関連し、教員が教育活動に専念できるよう、その待遇の在り方についても言及。近年、長時間労働や採用倍率の低下、教員不足などが取り沙汰されることで、「ブラックな職業」という印象を持つ学生も少なくないと指摘する一方、公立の教員採用試験において、本年度も新卒既卒合わせて延べ12万6千人あまりが受験し、約3万4千人が教員に採用されている理由として「少なくない子供たちや学生、他の職種の経験者等が教職を志すのは、子供たちの人生に影響を与え、成長を実感できるという、他では得がたい経験のできる教師という職業に魅力を感じているから」だとした。
その上で、「自分に寄り添ってくれたり、温かく見守ってくれたりした教師に出会い、『自分もこうなりたい』と強く心打たれた経験」は、子どもたちが教員を目指す第一歩と強調。そのためにも、学校を心理的安全性が確保できる職場にするとともに、学校における働き方改革を強力に推進することが不可欠と記した。
続けて、今回の答申を「教師が創造的で魅力ある仕事であることが再認識され、志望者が増加し、教師自身も志気を高め、誇りを持って働くことができるという将来の実現に向けた提言」と表現。子どもの主体的な学びを支援する伴走者としての教員が一人でも多く教壇に立つことに加え、誰一人取り残されず、一人一人の可能性が最大限に引き出される教育の実現を期待した。
貞廣斎子委員(千葉大学教育学部教授)は働き方改革について、「単に特定の業務を減らしたり、アウトソーシングをしたりするというのではなく、先生方の働きやすさと働きがいを両立するもの」と私見を述べた上で、校長などの管理職に求められる役割として、メンタルヘルスも含めた働きやすさと働き方の両立を明確に記すべきとした。
大字弘一郎臨時委員(東京都世田谷区立下北沢小学校長、全国連合小学校長会長)も「今の学校現場は勤務時間の中で、教材研究をしたり、教材準備をしたり、検証したりという時間が取れないような状況」と指摘。中間まとめから検討すべき項目として挙げている5項目の一つである「教師を支える環境整備」について、現場をまとめる校長として、具体例を記入してほしいと注文した。
素案の修正は、渡邉光一郎部会長(第一生命ホールディングス取締役会長、日本経済団体連合会副会長)に一任され、今後はパブリックコメントや中教審の総会での審議を経て、年内に答申する予定。
教員の養成・採用・研修に関する制度改革についての公表された答申素案における
「おわりに」の内容(原文ママ)
明治5年に我が国最初の全国規模の近代教育法令である「学制」が公布されてから、令和4年9月4日で150年を迎えた。当時の文部省は、学制公布に先立ち 明治5年5月に東京に直轄の師範学校を創設し、同年9月開校した。つまり、計画的な教師の養成が開始されてから、150年を迎えたとも言える。この間、教師の養成や免許に関する制度は大きく変化したが、どの時代においても、教師が公教育の要であることには変わりはない。
教育基本法第9条にもあるように、教師は、「自己の崇高な使命を深く自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努め」ることが求められている。教育の本質は、教師と児童生徒の人格的な触れ合いにあり、単なる知識、技術の伝達にとどまらず、教育を受ける者の人格の完成を目指してその成長を促す営みである。いかなる過程を経て教職に従事することになるかに依らず、教育の直接の担い手である教師には、絶えず研究と人格の修養に努めることが求められる。
同時に、教師の使命と職責の重要性にかんがみ、教師が教育活動に専念できるようにするため、その身分が社会的にも制度的にも「尊重され、待遇の適正が期せられること」が規定されている。また、教師自身に不断の研究と修養を求めることとの表裏一体の関係として、国や地方公共団体等に、「養成と研修の充実が図られること」を求めている。本答申で示し、教育職員免許法及び教育公務員特例法の改正により制度化された「新たな教師の学びの姿」は、時代の変化が大きくなる中にあって、教育基本法に掲げる「研究と修養」を支えるものであり、自律的・主体的に学び続ける教師を 後押しすることを期するものである。
近年、教師の長時間勤務の問題や、教員採用選考試験の倍率の低下、「教師不足」などが一体の問題として取り沙汰され、教職全体がいわゆる「ブラックな職業」であるとの印象を持つ学生も少なくない。一方、毎年約10万人が教員免許状を 新たに取得し、公立の教員採用選考試験では、新卒既卒合わせてのべ12万6千人あまりが受験し、約3万4千人が新たに教師として採用されている。民間団体等の調査によれば、小中高校生の将来なりたい職業で、教師は引き続き上位に位置している。少なくない子供たちや学生、他の職種の経験者等が教職を志すのは、子供たちの人生に影響を与え、成長を実感できるという、他では得がたい経験のできる教師という職業に魅力を感じているから、との見方も可能である。
子供たちにとって、自分に寄り添ってくれたり、温かく見守ってくれたりした教師に出会い、「自分もこうなりたい」と強く心打たれた経験こそが、次代の教師の育成の第一歩である。そうした意味からも、学校における働き方改革を強力に推進する とともに、学校を心理的安全性が確保できる職場にすることが不可欠である。国、地方公共団体、学校関係者が一丸となって取組を進めることを期待する。
中央教育審議会では、平成31(2019)年4月の「新しい時代の初等中等教育の在り方について」(諮問)以降、「令和の日本型学校教育」の在り方を題材に、継続的に議論してきた。令和3年3月の「令和の日本型学校教育」を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」(諮問)及び今回の答申も、この延長線上にある。
今回の答申は、教師が創造的で魅力ある仕事であることが再認識され、志望者が増加し、教師自身も志気を高め、誇りを持って働くことができるという将来の実現に向けた提言である。環境の変化を前向きに受け止め、教職生涯を通じて学び 続け、子供一人一人の学びを最大限に引き出す役割を果たし、子供の主体的な学びを支援する伴走者としての能力も備えている教師が、一人でも多く教壇に立つことを期待する。そして、ひいては時代や社会の変化に対応しつつ、誰一人取り残されず、誰もが自分らしさを大切にしながら学ぶことができ、一人一人の可能性が 最大限に引き出される教育を実現すること期するものである。
今後の教育政策に関する議論は、令和4年2月の「次期教育振興基本計画の策定について(諮問)」を受け、教師に関する事項を含め、教育振興基本計画部会で現在行われている。また、今回提言した内容の具体化は、教員養成部会等に引き継がれることになる。中央教育審議会としては今回の答申作成に向けた議論の蓄積を、今後の検討の場においても大いに活かしてまいりたい。