次期教育振興基本計画(2023~27年度)の策定作業を進めている中教審部会は11月4日、第9回会合をオンラインで開き、次期計画の具体的な目標などについて議論を深めた。
具体的な目標案が16項目(前回17項目)に整理されたほか、過度なラベリングにつながりかねないなどの指摘があった「日本型ウェルビーイング」という表記を、「日本発の」「日本社会に根差した」とするなどの文言の修正が行われた。また、「教育DXの推進」と「指導体制・ICT環境の整備」など、関連の深い目標を近い位置に配置するなどの変更もあった。委員からは、各目標・施策のメッセージ性や整合性などについて、さまざまな観点から意見が出された。
次期計画案の中で重要な概念となっているウェルビーイングの向上については、「目標2:豊かな心の育成」の中で、基本施策として「日本社会に根差したウェルビーイングの概念整理を踏まえた上で、幸福感や自己肯定感、他者とのつながりなどの主観的なウェルビーイングの状況を把握し、学校教育活動全体を通じて子供たちのウェルビーイングの向上を図る」という形で示された。
これに対し委員からは「日本発の、あるいは日本社会に根差したウェルビーイングと修正されたことは大いに評価したい。協調的なウェルビーイングを求める心性は、これから大いに世界に発信していくべきで、われわれ自身も自覚していくことが必要」(吉田信解臨時委員=埼玉県本庄市長、全国市長会社会文教委員長)、「子供だけでなく、少なくとも教職員のウェルビーイングについても指標を設けるべき」(岩本悠臨時委員=地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官)などの声が寄せられた。
また、次期計画案全体に対してもさまざまな意見があった。内田由紀子委員(京都大学人と社会の未来研究院教授)は「文科省が指標を公表するとなると当然、学校の反応として、自分たちが評価されるのではないかと言う懸念がどうしても出てきて、その懸念によって負担が増すということがある。これは何のために使うのか、つまり個別の学校や地域を評価して査定するためではなく、あくまでいろいろな形で政策を評価し、本当の意味でウェルビーイングを実現するために使うのだということを、具体的に明記しておかなければならない」と指摘した。
また吉見俊哉臨時委員(東京大学大学院情報学環教授)は「基本方針で上がっているウェルビーイング、グローバル化、地域と家庭、DXというキーワードについて、これらがどう関係して折り合いをつけていくのか。グローバル化と、ローカルな地域と家庭は一見矛盾する。誰も取り残さないということと、DXの中でグローバルに向かっていくことも矛盾する面を含む。これをどう、全体的にきれいに割り切れる分母を見つけていくかがとても重要になる。最終的には不易流行、温故知新というところに行くのだと思っているが、いくつかの媒介変数が必要。個人的には段階論的な考え方から、パラレルな形への転換が必要だと思っている」と語った。
渡邉光一郎部会長(第一生命ホールディングス株式会社取締役会長、日本経済団体連合会副会長)は「今回出ている施策全てに指標を入れるということではなく、その中で何が重要なのか、それについてはしっかりとした測定指標を入れて、(16項目ある目標の中に)アクセントを付けていき、関連した施策を整理していくのが現実的ではないか。ウェルビーイングについても、位置付けが(他の目標の)上位にあるのではないかという指摘があったが、場合によっては前文を設け、その中で位置付けを明確にするなどの工夫があろうかと思う」と結んだ。次回以降、各目標・基本施策に対応する測定指標などについて議論を進める。
目標1:確かな学力の育成、幅広い知識と教養・専門的能力・職業実践力の育成
目標2:豊かな心の育成
目標3:健やかな体の育成、スポーツを通じた豊かな心身の育成
目標4:多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂
目標5:主体的に社会の形成に参画する態度の育成・規範意識の醸成
目標6:グローバル社会における人材育成
目標7:イノベーションを担う人材育成
目標8:リカレント教育(学び直し)をはじめとする生涯学習の推進
目標9:学校・家庭・地域の連携・協働の推進による地域の教育力の向上
目標10:地域コミュニティーの基盤を支える社会教育の推進
目標11:教育DXの推進・デジタル人材の育成
目標12:指導体制・ICT環境の整備、教育研究基盤の強化
目標13:経済的状況、地理的条件によらない質の高い学びの確保
目標14:NPO・企業・地域団体等との連携・協働
目標15:安全・安心で質の高い教育研究環境の整備・児童生徒等の安全確保
目標16:各ステークホルダーとの対話を通じた計画策定・フォローアップ