【教員不足】1学期に深刻化、9月までに改善されず 有識者調査

【教員不足】1学期に深刻化、9月までに改善されず 有識者調査
教員不足の実態について報告したプロジェクトチームによる会見
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 学校業務改善アドバイザーの妹尾昌俊氏や日本大学の末冨芳教授らが立ち上げたプロジェクト「#教員不足をなくそう!緊急アクション」は11月7日、夏休み明けの教員不足の実態を把握するために実施したアンケート調査の結果を公開した。公立学校の教職員を対象とした項目では、小学校59.1%、中学校60.7%が今年度7月末時点で「教員不足が起きている」と回答。いずれも始業式時点に比べ増加していた。9月1日時点でも小学校58.8%、中学校54.2%が教員不足と答えており、1学期中に深刻化した教員不足が、9月になっても改善されない傾向が浮き彫りになった。プロジェクトチームは同日、文科省で開いた会見で代替人材が確保できない現状を「野球やサッカーに例えると、ベンチ要員で置いておきたい人たちをスターティングメンバーで起用せざるを得ない状態」と表現。即効性のある応急処置として、中学校免許を保持している社会人の小学校現場での勤務を可能にする措置や学生が教員になった場合に日本学生支援機構の奨学金の返済を免除する仕組みの復活などを提言した。

 教員不足の実態調査は今年9月10~10月6日にかけて、オンラインで実施。教職員426件、保護者22件、児童生徒4件の回答を得た。

 

 教職員に「始業式時点」、「始業式~7月末時点」、「9月1日時点」で教員不足の発生状況を尋ねたところ、教員が不足していると回答した公立学校の教職員は、始業式時点で小学校33.2%、中学校で49.5%、高校で20.6%だった。始業式~7月末時点では、小学校59.1%、中学校60.7%、高校37.9%と始業式時点に比べ、大幅に増加。9月1日時点では小学校58.8%、中学校54.2%、高校28.2%となっており、小中高いずれも1学期中にかけて、教員不足が深刻化し、特に小中では9月になっても改善が進んでいない状況が見てとれる=図表。さらに公立小学校では7月末時点に5.1%だった3人以上の欠員が9月1日時点では7.5%と悪化していた。

 この結果について、妹尾氏は調査自体、教員不足が深刻な環境にいる人ほど回答しやすい可能性があると前置きした上で、「いきなり担任に穴をあけるわけにはいかないと、本当は年度途中に配置したい講師バンクの人材などを年度初めに使い切ってしまう自治体もある。野球やサッカーに例えると、ベンチ要員で置いておきたい人たちをスターティングメンバーで起用せざるを得ない状態。年度途中に探しても、既に民間に就職済みの教員免許保持者もいて、さらに人材が見つかりにくい状態になっている」と分析した。

 教員不足について、自由回答で尋ねたところ、「養護教諭がいないので、保健室を利用できない。生徒が養護教諭に聞いてほしい話もあり、困っている」(大阪府/公立中学校)や、「教頭が各学年の教室に入れない子どもの個別対応をしていたが、産休代替として一つのクラスに入ったことにより、複数名の個別指導ができなくなった」(兵庫県/公立小学校)など、教職員の負担増加だけでなく、児童生徒への影響を懸念する教職員も見られた。

 また、児童生徒や保護者からは「コロナで休む担任がいると、担任を持たないサブの先生だけでは手が回らず、校長や教頭が代わりに授業に入る。普段からサブの先生がもっと増えて余裕があれば良いのにと思う」(愛知県/公立小学校保護者)、「いつも忙しそう。先生がコロコロ変わって、誰が担任なのか分からない感じ」(福岡県/公立中学校生徒)といった声が聞かれた。

 プロジェクトチームは「担任の先生がいない、教科の担当の先生がいないという状況が、子どもたちを不安で悲しい思いにさせ、具体的な不利益を生んでいる。このままでは公教育の土台が崩壊しかねないと危惧している」と訴え、▽「教員免許の授与」と「採用の在り方」(応急処置)▽「働き続けられる環境づくり」(体質改善)▽「教員定数」や「国庫負担(予算)」(根本治療)――の3つの観点から提言を行った。

 応急処置については、教員免許を保有もしくは、取得見込みの学生に向けた対策として、試験実施時期の前倒しや大学推薦枠の拡充などによる教員採用試験の改善や、教員になった場合に日本学生支援機構の奨学金が返還免除となる仕組みの復活。教員免許を保有している社会人に向けては、中学校免許保持者の小学校現場での勤務を可能にする措置や、講師登録、採用前研修などを担う全国的な講師人材バンクの整備、就活サイトなどの民間サービスの活用を進言した。

 働き続けられる環境づくりへの体質改善としては、末冨教授が「育休明けにいきなり担任などの重責を担うことで、育児と両立できずに辞めるケースもある」と指摘。育児や介護をしながらでも、教員として働き続けられる柔軟な勤務形態が必要とし、時短勤務やフレックス制の導入、週3~4日勤務が可能になる勤務環境の整備を求めた。

 根本治療については、基礎定数の改善に加え、義務教育で導入されている必要な教職員を確保するために、正規教員の定数を非正規教員にも充てられる、いわゆる『定数崩し』の仕組みにも言及。「非常勤教員への依存が高まり、授業以外の負担が正規教員に集中する課題がある」として、非正規教員の割合に上限を設定することを改めて提案した。

 こうした教員不足の対応として、永岡桂子文科相は9月 29日に都道府県・政令市の教育長を集めた会議で、▽教員採用選考試験の早期化や複線化を具体化させるために、文科省と教委などによる協議会をできるだけ早く立ち上げる▽正規教員を計画的に採用していくため、各教委の中期的な採用計画に、正規教員の割合を定める目標値を各自治体で設定する--などの取り組みを加速させるよう要請している。また、文科省は11月1日、年度途中で産休・育休に入る教員の代替教員(臨時的任用教員)について、人材を確保しやすい年度当初に前倒しで配置する場合、少人数指導などの加配分を柔軟に活用できるようにする措置を来年度から実施するとして、都道府県・政令市教委に向けて事務連絡を発出した。

 妹尾氏や末冨教授の提言は、こうした文科省や各教委の取り組みをさらに進めるよう促す内容となっている。

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