国の予算執行の無駄や事業の効果を公開で検証する政府の「秋の行政事業レビュー」が11月9日行われ、文科省の学校と地域の連携強化を目指す「学校を核とした地域力強化プラン」が取り上げられた。出席した評価者からは当該事業の在り方や事業の達成度を測る指標など、さまざまな角度から質問が相次いだ。議論の取りまとめとして、「初期アウトカムは短期間に効果が発現され、かつ効果が測定可能な指標を設定し、最終アウトカムは事業の効果を適切に測る成果目標を設定するべき」などと要望があった。
評価者は伊藤由希子・津田塾大学総合政策学部教授、漆紫穂子・品川女子学院理事長、土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授、永久寿夫・名古屋商科大学経済学部教授が務めた。
この日議題に上った事業は、少子高齢化や地域のつながりの希薄化で子供を取り巻く地域力が衰退し、また学校における働き方改革への対応、いじめ・不登校、児童虐待の増大、学校や家庭の抱える課題も複雑化・困難化している中、学校・家庭・地域の連携・協働体制を構築し、地域の多様な関係者の参画による地域の特色を生かした教育活動を支援するというもの。具体的には学校に協力する地域学校協働活動推進員やボランティアに対する謝金、地域住民に対する研修経費などを国が補助している。
主な論点となったのは、事業目的の「学校・家庭・地域の連携・協働体制の構築」について、「体制構築」は政策目標達成の手段であり事業目的として適切なものか、事業の実現経路やアウトカムに係る指標が適切に設定されているかなど。
事前の指摘を踏まえ文科省では、成果目標・指標を改善。測定指標としては、初期アウトカムとして、地域学校協働本部がカバーしている公立学校の数、コミュニティ・スクールや地域学校協働活動に参画した地域住民などの人数、コミュニティ・スクールを導入している公立学校の数、中期アウトカムとして各自治体が子供を巡る課題に応じた目標を設定し、 その目標を達成した自治体の割合、学校に対する地域や保護者の理解が深まったと認識している学校の割合、最終アウトカムとして地域の子供の成長に貢献している実感がある住民の割合を掲げた。
伊藤教授からは「事業によるメリットを可視化してほしい。来年度の要求は今年度の74億円から109億円と1.5倍になっており、その内訳はほぼ人件費となっている。増やす必要があるならば、これまでやってきたことのメリット、つまり地域学校協働本部や学校運営協議会のスタッフが具体的にどういう活動をどれぐらいやっているのかという、アウトプットをもう少し出していただきたい。今までやってきたことで、デメリットもあるけれどもメリットの方が上回っているということを示してほしい」と要望があった。
これに対して、文科省側からは「実証研究を行っており、特に今回の予算要求のメインである地域学校協働活動推進員については、配置されている学校の方が配置していない学校と比べて特色ある学校作りが進んだとか、地域と連携した取り組みが組織的に行えるようになった、また教職員が子供と向き合う時間が増えたと回答している割合が非常に高いということが例としてあるので、このあたりはしっかり打ち出したい。一方でデメリットについては、自治体によっては地域住民の参画が十分でない取り組みも見られる。その是正のため今年度からは、地域住民の参画が十分でない取り組みについては国庫補助の対象となる日数を引き下げるよう、実施要領の改正を行った。事業を実施していく中でさまざまな地域ごとの課題解決の方法があるので、こうした失敗例をどう解決したかも含めて横展開を図っていきたい」と答えた。
また漆理事長からは「推進員がどんな人なのかというのが大切だ。これは教員にとってはすごい負担、コストになるケースも多い。どういう人たちがどれぐらい供給できるのか教えていただきたい。また最終的な指標が、導入している学校数や推進員の数になっているが、子供にとってどういう成長があったのかというところを指標にしていただけるとありがたい」と発言があった。
これに対して文科省からは「推進員は現状としてPTA関係の方、退職された先生、町づくり関係の団体などさまざまな方がいる。自治体の中で確保が難しいといったような声があった場合には、最初少なかったがこういう形でうまく配置することができたという自治体のノウハウを横展開で図っていきたい。さらに事業の目的が子供たちの学び育ちということなので、推進員の配置による効果測定についても子供の視点も踏まえながら、どういうことができるか考えたい」と述べた。
こうしたやりとりを受け、最後に土居教授が評価者を代表して取りまとめを公表。「この事業は地域学校協働本部の設置運営費を支援するものではなく、地域学校協働活動に関わる各取り組みを支援するものであることから、アウトプットとして支援した地域学校協働活動の活動数も指標として設定するべき」「初期アウトカムは短期間に効果が発現され、かつ効果が測定可能な指標を設定するべき」「最終アウトカムは本事業の効果を適切に測る成果目標を設定するべき」「文科省は本事業全体の効果検証のために必要となるデータを整理した上、地方自治体から当該データを収集できるよう、要綱に提供してもらうデータを列挙するなどデータ収集の仕組みを構築するべき」など、文科省に要望した。