中教審の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」の下に設置された「高等学校教育の在り方ワーキンググループ」の初会合が11月14日、オンラインで開かれた。成人年齢が18歳に引き下げられたほか、通信制高校を中心に入学動機や学習経験などさまざまな背景を持つ生徒が在籍するなど、高校教育を取り巻く環境が大きく変化する中、共通性の確保と多様性への対応という2つの論点について、課題と対応を検討。来年2月をめどに論点を整理する。
初会合では文科省が冒頭、▽「共通性」と「多様性」を観点にした高等学校教育の在り方▽全日制・定時制・通信制や少子化地域での高等学校制度の望ましい在り方について▽「スクールミッション」「スクールポリシー」を体現し、「社会に開かれた教育課程」「探究的な学び」を実現するための校内外の体制▽文理横断的な教育、産業界と一体となった実践的な教育の推進――などを検討事項に挙げた。
その後、荒瀬克己主査が「4月から成人年齢が18歳に引き下げられたことで、これまでは大きな子どもと見なしていたが、小さな大人を育てるという意識の変革が必要。気持ちを変えるだけでなく、どういった学びを高校教育で準備し、生徒たちに用意していくのか、しっかりと考えなければいけない」とあいさつした。
この日は委員が自由に意見交換。中でも通信制高校の話題が多く上がった。長塚篤夫委員は(順天中学校・高等学校長、日本私立中学高等学校連合会常任理事)は「これからのAI時代には、AIにはできない創造性や社会性が重要視される」と述べ、不登校を理由に通信制に通う生徒たちにとっては社会性を身に付けることが重要とした。その上で、オンラインで最低限の学習をすれば高卒資格を得られるというだけにとどまらず、他者との交わりなど、社会性につながる通信制高校の在り方が必要だと語った。
塩瀬隆之委員(京都大学総合博物館研究部情報発信系准教授)は、子どもの序列意識は周囲の大人が持っている序列意識が転写されたものと私見を述べた上で、「通信制に変えることは消極的な選択肢という大人が持っている古い価値観が、通信制を子どもが望んで選ばないものにしている」と指摘。大人の価値観を刷新する情報発信が必要と強調した。
篠原朋子委員(学校法人NHK学園理事長)は、学力の共通性について言及。通信制では生徒の背景によって、中学校や小学校段階からの学び直す時間を設ける必要があるとし、「高校卒業時の確かな学力はどのようなレベルを求め、どのように育むか現実的な議論が必要」とした。
このほか、職業科の高校について、冨塚昌子委員(千葉県教育委員会教育長)が「入学志願者が非常に減っていて懸念している状況。地域産業の維持をしていく上で、担い手を生み出していけるのか地域から心配の声が上がっている」と説明。普通科の環境になじめず、通信制に転学する生徒も多い中で、可能性を広げためにも、中学の進路指導において、職業学科を含めた幅広い選択肢を指導することを求めた。
また、外国にルーツ持つ子どもについては、今村久美委員(認定 NPO法人カタリバ代表理事)が、都内では定時制に多くなっているとした上で、「言語のサポートや宗教の知識がないまま配属されており、教員がやる気を持っていても、どうしていいか分からない現状」と指摘。外国にルーツを持つ子どもは国内の労働力不足を鑑み、今後も増えることを念頭に、部会で議論するべきと述べた。
同委員会の委員は次の通り(五十音順、敬称略)。
▽青木栄一(東北大学大学院教育学研究科教授)▽荒瀬克己(独立行政法人教職員支援機構理事長)▽石崎規生(東京都立桜修館中等教育学校長、全国高等学校長協会会長)▽今村久美(認定 NPO法人カタリバ代表理事)▽岩本悠(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事、島根県教育魅力化特命官)▽岡本尚也(一般社団法人 Glocal Academy 代表理事)▽沖山栄一(東京都立世田谷泉高等学校長、全国定時制通信制高等学校長会理事長)▽鍛治田千文(YMCA 学院高等学校校長、大阪YMCA 国際専門学校校長、学校法人大阪YMCA理事)▽塩瀬隆之(京都大学総合博物館研究部情報発信系准教授)▽篠原朋子(学校法人NHK学園理事長)▽清水雅己(埼玉県立大宮工業高等学校長)▽田村知子(大阪教育大学連合教職実践研究科教授)▽冨塚昌子(千葉県教育委員会教育長)▽長塚篤夫(順天中学校・高等学校長、日本私立中学高等学校連合会常任理事)▽濱田久美子(高知県教育センター企画監、元高知県立山田高等学校長)