教育新聞が9月30日~10月6日に購読会員や過去のアンケート回答者の公立学校の教員に対して実施したアンケートでは、学校の働き方改革や「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)の在り方について、さまざまな意見が自由回答で寄せられた。今回は、アンケート回答者の中から個別インタビューに応じてくれた教員の声を基に、学校現場のリアルを浮き彫りにする。多くの教員の語りから浮かび上がってきたのは、変わりにくい教員や学校の構造的な問題だ。
個別インタビューはアンケートの回答内容を踏まえ、「取材可」と答えていた複数の回答者にメールで打診。取材協力の意思表示を返信してくれた教員に対し、オンラインや電話で話を聞いた。記事に登場するのは、小学校の教員2人、中学校の教員3人、高校の教員5人(=表)。個人が特定されることを避けるため、記事の中では仮名を用いる。
アンケートでは通常期・繁忙期それぞれについて、月当たりの時間外勤務時間や持ち帰り仕事の頻度を尋ねたが、今回インタビューに応じてくれた教員の回答状況をみると、時間外勤務を原則しないようにしている教員から、過労死ラインを超えて働いていることが常態化している教員まで、かなりの違いがあった。
宮野教諭は現在、育児を優先したいという思いから、定時で帰る働き方をしている。以前に体調を崩したことがきっかけで、長時間働き続けることに疑問を持つようになったという宮野教諭。しかし、校務分掌などの仕事を決しておろそかにしているわけではなく、授業の空き時間に集中して進めたり、他の教員のフォローに回ったりすることもある。今は何とかこの働き方を続けられているが「一寸先は闇だ」と不安も感じている。その理由は、深刻になりつつある教員不足だ。
「病休などが出ても代わりの先生がすぐにやってこない。そうなると誰かに負荷がかかる。若手もベテランも手いっぱいな状態だ。仕事は増える一方で減ることがない。このままでは出口が見えない」
同じく中学校の教員をしている園田教諭は、通常期でも月当たりの時間外勤務時間が80時間を超えていると答えていた一人。改正給特法で定められた指針では、こうした長時間勤務が続いている教員に、医師の面談指導を実施するよう教育委員会に求めているが、「今度、医師の面談を受けるように言われているが、それすらも『業務がまた増えた』と思ってしまう。面談したところで何も変わらないのではないかと思っている」と園田教諭はその効果に首をかしげている。
中学校や高校の教員にとって、長時間労働の大きな原因の一つになっているのが部活動だ。
「以前の勤務校で男子バスケットボール部の顧問をしていたころは、1カ月近く休みがないことも珍しくなかったし、ひと月の時間外勤務が150時間を超えることも普通だった」と振り返る遠山教諭は、できれば来年度以降、部活動の顧問を拒否したいと考えている。国が推進する休日の部活動の地域移行についても、具体的な話が何も伝わってこないと嘆く。「教員になったときから、部活動までやることに対して、ずっとおかしいと思っていた。どれも『子どものため』なのかもしれないけれど、それをやり過ぎて困っているのが今の学校。それなら変わらないといけないのに、みんな『こんなもんだと割り切っている』から変わらないままだ」と指摘する。
音楽の教員で吹奏楽部の顧問でもある中井教諭は「どうしても部活動があると午後7時くらいまで生徒が残っているので帰れない。そこから残った仕事をして、8時か9時に帰ることもある。勤務校はまだマシな方だと思うが、運動部などはガイドライン通りではないところもある」と、高校の部活動の実情を打ち明ける。加えて、中井教諭の負担になっているのが教科研究会の事務局の仕事だ。
「音楽の教員は多くの高校で1人しかいないから、事務局の仕事を複数の教員で分担することができない。今は資料を電子化するなどして多少楽になったが、以前は印刷や郵送だけで1日作業だった」と中井教諭。高校は今年度から新学習指導要領がスタートしたが、それに対応した教材研究や授業準備をする時間がないと話す。
こうした学校の状況に、若い世代の教員はどう感じているのだろうか。
初任者である久保教諭の「モヤモヤ」は部活動だ。しかし、担当する運動部(男子)はそこまで強いわけではなく、活動も緩い。活動スケジュールや練習内容は久保教諭の都合や部員の意向を聞いて調整しているが、しばしば女子を教えている教員から「練習試合を組むけど、男子もどうか」と誘われ、これがなかなか断りにくいという。
「女子の方の顧問は、いわゆる部活動を教えたくて先生になったタイプ。部活動が長時間労働を招いていることに問題意識を持っている若い教員とは意識のギャップが大きくて、正直『引いてしまう』。忙しいと分かっていて教員になったけれど、その忙しさが部活動でいいのだろうか」と疑問を投げ掛ける。
後藤教諭は、ICTが得意という理由から校内の学習者用端末に関する環境整備の担当者になってしまった。気が付けば、教科指導以外の時間は、ほぼICT関連の仕事で占められるようになった。管理職は気さくに声を掛けてくれるし、生徒も落ち着いていて働きやすい職場だが、それでも「なぜこんな責任の重い仕事をしているのだろうか」と自問自答を続けている。
子育て世代でもある権田教諭は、子どもが生まれたことをきっかけに育児休暇を取得することにした。なるべく授業に影響が出ないような時期を選んだが、それでも時間割の調整などが必要になった。「教員の世界でも、女性は配慮してもらいやすいけれど、男性はまだ言い出しにくい。それでも、保護者に事情を説明したら『先生だからこそ、そういう面を子どもに見せてほしい』と背中を押された」と権田教諭。「長時間労働が当たり前で、育児もできない、介護もできないような職場では、どの世代も集まらない。本気でやらないと教員のなり手が本当にいなくなってしまう」と危機感を募らせる。
学校の働き方改革が叫ばれて久しいにもかかわらず、なぜ教員の働き方は変わりにくいのだろうか。
「正確な勤務時間を把握するメリットが、教員には感じられないのでは」と指摘するのは沼田教諭。勤務校では教員用のパソコンの起動と終了時刻で自動的に勤務時間が記録されるようになっているが、実際の教員の仕事はパソコンを開く前から始まっていることもあるし、閉じてからも仕事をしていることもある。記録は後で修正することもできるが「いろいろなことに追われているので、面倒くさい。結果的に、実際の勤務時間と記録がずれていく。本当は休憩時間も取らないといけないけれど、実際は休憩時間に普通に会議をやっている」と、勤務時間を正確に把握する意義が教員に見いだせないために、なし崩しになっていると話す。
同じく小学校に勤務する桜井教諭は、ICTの導入による効率化がうまく進んでいない「残念な」状況を挙げる。「せっかくICTが入ったのに、ネットワークにつながっていないとか、ファイルの体裁がみんなばらばらだとか、そういうことがあると、結局これまでとほとんど手間は変わらない。そういう無駄や仕事がどんどん生じている状況に対して、『ビルド&ビルド&やる気のスクラップ』になっている」と肩を落とす。
沼田教諭と桜井教諭が求めるのは、教員だけでなくさまざまな外部人材を学校現場に増やすことだ。
「みんな一生懸命に働いて、何とかそれで回っている。でも、何とかならなくなったらどうするのか。今は他の人に丸投げするよりは自分でやった方がいいと、先生があれもこれもやってしまっている。思い切って他の人に委ねることも必要だ」(沼田教諭)
「できればICT支援員を常駐させて仕事を見直したいし、スクール・サポート・スタッフも2学年に1人くらいいるとかなり違う。スクールソーシャルワーカーだって、今は週に1日しか学校に来ないから子どもたちにもなじみがない存在だけれど、普段からいれば子どもも相談しやすい」(桜井教諭)
一方で、教員の組織文化の問題を指摘する意見もあった。
子育てのためにできるだけ早く帰宅しようと仕事の効率化を意識するようになったという権田教諭は「何をするでもなく学校に残っている教員もいる。それなら自分の代わりに部活動を見てくれないかと思う。手を止めたままずっと雑談したり、長いこと席を外したり、もしかしたら、家庭を持つ前の自分もそうだったのかもしれない」と自戒も含めて教員間の仕事量のギャップや意識の差を指摘する。
同じく高校教員の稲垣教諭は、教員の仕事が「タコつぼ型」になっており、お互いがお互いの仕事について口を出さない文化があると説明。担当した仕事で「生徒にとって必要」と判断すれば際限なく仕事を増やすことができてしまうが、他の仕事でも同様のことが起きているため、学校全体でみると仕事がものすごく増えているにもかかわらず、気が付きにくい構造があるとみる。「これでは仕事ができる人にしわ寄せが行くし、できる人ほど他の人に教えるのはプラスのコストになると考えがちで、自分がやった方が早いとなる。結果的に、どんどんやって来る仕事をこなすことになり、数年先に自分が異動した後のことを考えて、引き継ぎや、普段から複数で分担することにまでは意識が向かわない」と、稲垣教諭は個人に依存しやすい学校の体質を挙げる。
最後に、学校の働き方改革や給特法の見直しについて、それぞれどんな意見を持っているかを尋ねた。
「民間に就職した友人と話をすると、残業代が話題になる。自分は教職調整額のたった4%だと考えると、つい損していると思えてしまう。プライベートの時間が減るのは嫌だが、それでも残業がお金に代わるなら、あった方がいい」(久保教諭)や「現状では個人の業務量が把握できず、給与に評価があまり反映されているわけでもない。働いた分が報酬として返ってくるならば、多少働く時間が長くなっても納得はする」(中井教諭)という声もある一方で、「たくさん働いている人に残業代を出せば済むという問題ではない。むしろ、そこまで働かなくても、みんなが定時で帰ることが成り立つシステムにしないといけない。もっと学級規模を小さくして、複数で担任を持ったり、フレックスのような働き方を取り入れたりしていくべきだ」(沼田教諭)という意見もあるなど、教員の働き方に問題意識を持っている教員の間でも、給特法をどうすべきかについては多様だ。
また、教師や学校の仕事をもう一度定義し直した上で議論すべきだという意見もあった。
稲垣教諭は「給特法を廃止して他の仕事と同じ枠組みにすることが必ずしもいいとは思えない。まずは、現状際限なくできてしまう教師の仕事を整理しないと、結論は出ないのでは」と慎重な見方を示す。宮野教諭も「お金が目当てで働いているわけではない。見直しをした方がいいと思うが、教員の仕事は他の仕事と進み具合が違うから、何を基準にすればいいかは答えが出ない。ただ、学校の仕事はここまでとどこかではっきりとした線引きをしないと、これから先、学生は教職に就きたいと思わない」と強調する。
これからのために、自分たちの働き方をどうしていくべきか。教員は当事者として、学校現場でもっと議論や行動を起こしてもいいのかもしれない。
遠山教諭は次のような言葉で学校現場に向けて警鐘を鳴らす。
「自分たちで変えようとしなければ変わらない。このままでは学校教育が崩壊してしまう」