初のデジタルテキストで使いやすさを重視 生徒指導提要改訂版

初のデジタルテキストで使いやすさを重視 生徒指導提要改訂版
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 文科省は12月6日、生徒指導や教育相談の基本書となる「生徒指導提要」の改訂版を公表した。小中学校の不登校児童生徒数が24万人を超え、いじめ重大事態の件数や児童生徒の自殺が増加傾向にある中、改訂版では、事案が発生してから目の前の問題に対応する課題解決型の生徒指導ではなく、日常の生徒指導を基盤とする「発達支持的生徒指導」と組織的・計画的な「課題未然防止教育」を重視した「積極的な生徒指導」の充実を図った。いじめ防止対策推進法の整備など社会環境の変化に応じ、いじめや不登校などの個別課題について必要な対応を反映。さまざまな専門家や関係機関が関わりながら学校教育の課題解決を図る「チーム学校」の考え方や、多様な背景を持つ児童生徒への対応なども盛り込んだ。さらに、今年6月の「こども基本法」の成立を受け、校則などを例に挙げながら、子どもの権利の理解に基づいた対応を教職員に求めていることも大きな特徴となっている。

 生徒指導提要の改訂は12年ぶり。文科省の協力者会議は昨年の7月から改訂に向けた議論を重ねており、公表された改訂版は表紙や索引を含めると計300ページとなった。分厚い冊子に思えるが、今回の改訂では、使いやすさを考慮して初めてデジタルテキストとして作成されており、目次やしおりをクリックすると各ページに飛んだり、関係する法令や通知、ガイドラインなどの名称にリンクが貼られ、外部サイトで該当する法令などを確認したりできる。また、専門用語は青字で記載され、付記された数字をクリックすると脚注に飛び、用語解説を確認できる。デジタルテキストなので、語句検索によって調べたい語句が使われているページを探し出すことができるし、巻末の索引には各用語が一覧で記載されワンクリックで関連ページに飛ぶこともできる。

 改訂版は、第Ⅰ部の総論「生徒指導の基本的な進め方」(1~3章)と、第Ⅱ部の各論「個別の課題に対する生徒指導」(4~13章)による2部構成となっている。

 第Ⅰ部の総論では、生徒指導の定義について「社会の中で自分らしく生きることができる存在へと児童生徒が、自発的・主体的に成長や発達する過程を支える教育活動のことである」と説明。生徒指導の目的は「児童生徒一人一人の個性の発見とよさや可能性の伸長と社会的資質・能力の発達を支えると同時に、自己の幸福追求と社会に受け入れられる自己実現を支える」と記述した。

 次に生徒指導の実践上の視点として、▽自己存在感を感受できるような配慮▽共感的な人間関係の育成▽自己決定の場の提供▽安全・安心な風土の醸成--の4つを説明。これまでの教育相談は「どちらかといえば事後の個別対応に重点が置かれていた」が、不登校、いじめ、暴力行為、子供の貧困、児童虐待などについては「事案が発生してからのみではなく、未然防止、早期発見、早期支援・対応、さらには、事案が発生した時点から事案の改善・回復、再発防止まで一貫した支援に重点をおいたチーム支援体制を築くことが重要」と指摘した。

 生徒指導の構造についても、詳細な説明を試みている。まず、生徒指導を「先手型の常態的・先行的(プロアクティブ)生徒指導」と「事後対応型の即応的・継続的(リアクティブ)生徒指導」の2軸に整理。それを児童生徒の観点からみると、前者には「全ての児童生徒の発達を支える発達支持的生徒指導」と「全ての児童生徒を対象とした課題の未然防止教育」があり、後者には「課題の前兆行動が見られる一部の児童生徒を対象とした課題の早期発見と対応を含む課題予防的生徒指導」と「深刻な課題を抱えている特定の児童生徒への指導・援助を行う困難課題対応的生徒指導」があり、生徒指導はこれら4層で構成される重層的支援構造を持っていると解説した=図参照

 その上で、「全ての児童生徒の発達を支える発達支持的生徒指導」と「生徒指導上の諸課題の未然防止や再発防止」が互いにつながる「円環的な関係にある」と説明。「これからの生徒指導においては、特に常態的・先行的(プロアクティブ)な生徒指導の創意工夫が一層必要になると考えられる」と結論付け、積極的な生徒指導の充実を図る必要性を強調した。

 生徒指導の留意点としては、児童の権利に関する条約とこども基本法に触れながら、児童生徒の権利の理解を挙げた。

 これに関連して、校則の運用・見直しについて「児童生徒が自分事としてその意味を理解して自主的に校則を守るように指導していくことが重要」と指摘。校則の内容を学校のホームページで公開したり、制定の背景を示したりすることが適切とした。校則は「最終的には校長により適切に判断される事柄」としつつも、児童会・生徒会や保護者会などで校則を確認したり議論したりする機会を設けるなど「絶えず積極的に見直しを行っていくことが必要」と明記した。

 チーム学校による生徒指導体制では、「担任一人ではできないことも、他の教職員や多職種の専門家、関係機関がチームを組み、(中略)異なる専門性に基づく発想が重ね合わさることで、新たな支援策が生み出される」と、チーム学校の考え方を生徒指導に反映させていく重要性を指摘した。

 第Ⅱ部の各論では、▽いじめ▽暴力行為▽少年非行▽児童虐待▽自殺▽中途退学▽不登校▽インターネット・携帯電話に関わる問題▽性に関する課題▽多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導――について、関連法規・基本方針、学校の組織体制と計画、未然防止・早期発見・早期対応、関係機関などとの連携体制を解説している。

 例えば、インターネットに関わる問題や、性的マイノリティーをはじめとする性に関する課題、発達障害や精神障害など多様な背景を持つ児童生徒への対応など、社会の変化に応じた生徒指導の在り方について書き込んでいる。

 改訂版は文科省のホームページで公表されており、デジタルテキストの活用ガイドも合わせて参照できる。

「生徒指導提要」改訂版における各論の概要

第Ⅱ部各論「個別の課題に対する生徒指導」

第4章 いじめ

  • 留意点
     積極的にいじめの認知を進めつつ、教職員一人一人のいじめ防止のための生徒指導力の向上を図る。次の段階として、①各学校の「いじめ防止基本方針」の具体的展開に向けた見直しと共有②学校内外の連携を基盤に実効的に機能する学校いじめ対策組織の構築③事案発生後の困難課題対応的生徒指導から、全ての児童生徒を対象とする発達支持的生徒指導及び課題予防的生徒指導へのシフト④いじめを生まない環境づくりと児童生徒がいじめをしない態度や能力を身に付けるような働きかけ--を行うことが求められる。

第5章 暴力行為

  • 暴力行為の防止につながる発達支持的生徒指導
     暴力行為に関する生徒指導を行う前提としてまず大切なのは、模倣されるような暴力行為のない、暴力行為を許容しない雰囲気づくり。教職員が体罰をしないことはもとより、児童生徒の暴力行為については、警察等の関係機関と連携した対応をためらわないことを、学校の方針として明確にし、その方針を学校内だけではなく、家庭や地域とも共有する必要がある。その際に重要なのは、指導の方針が、児童生徒を排除するためのものではなく、安全で安心な学びの場を確保するためのものであることを丁寧に説明すること。

第6章 少年非行

  • 留意点
     非行に対しては、市町村と児童相談所、児童福祉施設、警察や少年補導センターと家庭裁判所、少年鑑別所、少年院や保護観察所など、さまざまな関係機関が持つ権限を意識し、効果的な連携を活用した取り組みが求められる。学校としては、児童生徒理解と保護者との協働を前提に、生徒指導を行う。

第7章 児童虐待

  • 留意点
     児童虐待を発見する上で日々児童生徒と接する教職員の役割は極めて大きく、少しでも虐待と疑われるような点に気付いたときには、速やかに児童相談所又は市区町村(虐待対応担当課)に通告し、福祉や医療、司法などの関係機関と適切に連携して対応することが必要。児童虐待と関係が深い要保護児童、要支援児童、特定妊婦、ヤングケアラーなどについても留意し、児童虐待の未然防止の取り組みも求められる。

第8章 自殺

  • 留意点
     生徒指導の観点から自殺予防を捉えると、全ての児童生徒を対象に、安全・安心な学校環境を整え、「未来を生きぬく力を」を身に付けるように働きかける「命の教育」などは発達支持的生徒指導として、「SOSの出し方に関する教育を包含した自殺予防教育」は課題未然防止教育として位置付けることができる。自殺予防教育の目標は、児童生徒が、自他の「心の危機に気付く力」と「相談する力(援助希求的態度)」を身に付けることの二点。自殺の危険が高まった児童生徒に早期に気付き、関わる課題早期発見対応と、専門家とも連携し、危機介入により水際で自殺を防ぐ、あるいは自殺発生(未遂・既遂)後の心のケアを行う困難課題対応的生徒指導から、学校における自殺予防は成り立っている。

第9章 中途退学

  • 留意点
     中途退学を余儀なくされる状態を未然に防ぐためには、生徒指導、キャリア教育・進路指導が連携し、小・中学校の段階も含め、生活、学業、進路のそれぞれの側面で社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けるように働きかけることが大切。

第10章 不登校

  • 留意点
     不登校児童生徒への支援は、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉え、社会的に自立する方向を目指すことが求められる。児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益、社会的自立へのリスクが存在することにも留意する必要がある。不登校の原因・背景は多岐にわたることを踏まえながら、多職種の専門家や関係機関とともにチーム学校としての体制を整備しておくことが重要。

第11章 インターネット・携帯電話に関わる問題

  • 留意点
     インターネットには、匿名性、拡散性などの特徴があり、児童生徒へ指導や啓発を行う際には、こうした特質を十分に把握しながら進めることが肝要。また、インターネットの問題は、トラブルが起きてしまうと完全に解決することが極めて難しいため、未然防止を含めて、対策を講じるための体制を事前に整えておくことが必要。ただし、学校だけで対策することは難しく、それぞれの関係機関等と連携しながら、「チーム学校」として対策を進めることが必要。

第12章 性に関する課題

  • 留意点
     性に関する課題への対応においては、関連する法律などの理解や人権に配慮した丁寧な関わり、児童生徒が安心して過ごせる環境や相談しやすい体制の整備、それらを支える「チーム学校」として組織づくりを進めることが求められる。

第13章 多様な背景を持つ児童生徒への生徒指導

  • 留意点
     発達障害、精神疾患、健康、家庭や生活背景などは、その一つ一つが直接に学習指導や生徒指導上の課題となる場合もある。特に近年、それぞれの課題とその影響がクローズアップされ、関連する法律や通知なども整備される中で、生徒指導においてもそのことを理解した上で取り組むことが強く求められるようになってきている。課題が見えにくい場合も多いため、アセスメントを通じて、適確に気付きと対応を行うよう努める必要がある。
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