医学を中高生のSTEAM教育に 順天堂大が研究会を立ち上げ

医学を中高生のSTEAM教育に 順天堂大が研究会を立ち上げ
順天堂大学医学部にSTEAM教育研究会を立ち上げた小倉加奈子・練馬病院病理診断科長(左)と發知(ほっち)詩織・同病院臨床検査科長
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 医学に興味のある中高生を対象に、現役医師と共に医学や医療を学んだり、教材を開発したりするSTEAM教育研究会「MEdit Lab」が12月9日までに、順天堂大学内に発足した。すでに経産省「未来の教室」のSTEAMライブラリーに教材を提供しているほか、公式ウェブサイトとLINE公式アカウントの運営をスタートさせている。代表を務める病理医の小倉加奈子同学先任准教授・練馬病院病理診断科長は「医学にはもともとSTEAMの発想ととてもよく似ているところがある。『リベラル・アーツとしての医学』を学ぶ、さまざまな実験を重ねていきたい」と話している。

 現役の病理医として医療現場の第一線に立つ小倉氏が中高生向けの教育活動に取り組もうと考えたきっかけは、病理医の人材不足に危機感を持ったためだった。小倉氏は「病理医はがん治療などの医療現場で絶対に必要な存在なのに、医師を志す学生の中でも希望者が少ない。この人材不足を解消するには、病理診断に対する社会の認知度を上げなくてはならない。そのためには、将来、医学を志す中高生にアプローチするのがいいと考えた」と話す。しかし、あちこちの中学校や高校に連絡を取ってみても、次々と断られたという。

 たどり着いたのが、中学受験を控えた息子の学校説明会で好印象を受けた広尾学園中学校・高校(東京都港区)。同校でSTEAM教育を実践する木村健太教諭の協力を得て、中高生向けのセミナーを開いた。

 「乳がんの病理診断を扱ったときは、現役の医師と生徒たちが検査結果から診断を下し、ディスカッションしながら治療方針を考える授業を行った。患者さんの経済状況や家庭環境まで考慮して治療方針を決めるのは、研修医レベルの内容になる。それでも、生徒たちは見事についてきてくれた」。授業時間が終わっても学び続けようとする生徒たちの姿をみて、小倉氏は現役医師が関わるSTEAM教育の実践に手応えを感じたという。

 小倉氏によると、広尾学園では、今年度から順天堂大学医学部とのコラボレーションによる授業を年間計画に組み入れている。このほか、金蘭千里中学校・高等学校(大阪府吹田市)などでも、同様の取り組みが進んでいる。

 これらの授業実践を踏まえた動画教材も作成した。松岡正剛氏が提唱した情報編集の技法「編集工学」を生かし、医学(Medicine)と編集(Edit)を組み合わせた造語「MEdit Lab」を掲げ、中高生が学校で勉強している科目と重ねながら医学を学ぶための教材を目指した。20編を超える動画教材が経産省「未来の教室」が運営するSTEAMライブラリーに登録されており、無償で活用することができる。

 こうした活動の延長として、今年11月、順天堂大学医学部内にSTEAM教育研究会「MEdit Lab」を立ち上げた。大学医学部で、中高生を対象としたSTEAM教育に取り組む研究会を設置するのは、先例がないという。MEdit Labのコンセプトとして、▽医学や医療を学ぶコミュニティー▽発信サイト▽STEAM教材開発研究所▽新しい学びを構築するための編集工学の実験室▽生徒も先生も一緒に連携していく学びの場--の5つを挙げている。

 公式ウェブサイトから、STEAM教育研究会の活動が分かるほか、現役医師たちが中高生向けに書き下ろしているコラムや、経産省「未来の教室」のSTEAMライブラリーに登録されている動画教材にもアクセスできる。LINE公式アカウントに友だち登録すれば、コラムなどの更新情報を受け取れる。

 小倉氏は「医学はもともとリベラル・アーツの一部だった。第一線の現役医師と対話を続けながら一緒に学ぶことで、生徒たちが得るものは多いと思う」と話している。公式ウェブサイトには問い合わせ欄があり、コラボレーションによる授業の相談にも応じたい、としている。

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