【給特法】見直し・廃止の選択肢を議論 自民特命委がヒアリング

【給特法】見直し・廃止の選択肢を議論 自民特命委がヒアリング
特命委員会の冒頭にあいさつする萩生田自民党政調会長
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 教員のなり手不足や処遇改善について抜本的な改革案の作成を目指している自民党の令和の教育人材確保に関する特命委員会は12月14日、第2回会合を開き、小川正人東大・放送大名誉教授と戸ヶ崎勤埼玉県戸田市教育長の有識者2人からヒアリングを行った。小川氏は、給特法の廃止と見直しについてそれぞれの論点や課題を整理。教員の時間外勤務に対しては「(割増時間手当などの)金銭的措置だけでなく、振替休暇や勤務時間インターバル制などの健康確保の措置も組み合わせて考えていくことがふさわしい」と指摘した。戸ヶ崎氏は「給特法こそが学校の長時間労働の元凶とする見方には疑問がある」とした上で、給特法には教職員の健康と福祉への配慮規定などが含まれていることを挙げながら「給特法の見直しは必要だが、給特法や人材確保法の『精神』は残す必要があるのではないか」との問題意識を説明した上で、考えられる政策とそれぞれの論点を挙げた。

 会合の冒頭、委員長を務める萩生田光一政調会長は「この特命委員会は、教師はわが国の未来を拓く子供たちを育てるという崇高な使命を有するかけがえのない職業であるという基本的な認識の下、一人一人の子供たちへの教育の質を高めるために教師に優れた人材を確保することを目的として新たに設置した。教師の養成・採用、また現職の段階を通じて必要な改革案を提案していく」と、特命委の目的を説明。「本日は現職の教師がやりがいを持って働くことができる環境の整備について議論をいただく」とあいさつした。

 ヒアリングではまず、小川氏が中教審副会長・学校の働き方改革特別部会長として、2019年に中教審が出した学校の働き方改革に関する答申の取りまとめにあたった経験を踏まえて報告した。

 小川氏は「中教審特別部会では、給特法見直しの論議もあったが、見直しの方向性などで合意が得られなかったこともあり今後の課題とし、基本的に現行の給特法下で改善と取り組みの基本方針をまとめた」と当時の議論を説明。教員の勤務時間管理や給特法に定められた超勤4項目以外の勤務時間を在校等時間として上限を設定した「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(現・指針)を定めた経緯を振り返った。

 次に、現行の給特法が抱える論点と課題を挙げ、見直しを巡る選択肢を整理した。それによると、「給特法の廃止による時間外勤務手当化」という選択肢については、長所やメリットとして▽勤務時間管理を労使で合意し可視化できる▽時間外勤務の長短などに対し時間外勤務手当でメリハリをつけられる▽割増賃金を支払わせることで時間外勤務を抑制する機能がある--とした。一方、論点や課題には▽時間外勤務の実態に見合った時間外勤務手当の財源をどう確保するか▽給与予算の性格上、時間外勤務手当の財源はあらかじめ一定基準で措置されるが、その基準を超える時間外勤務が発生した場合、誰がどう負担するか。服務監督権者の市町村が負担するのか▽給特法の制定根拠とされてきた教職の「特殊性」の議論をどう整理するか▽36協定と学校の労務管理の在り方--を列挙した。

 「給特法を維持しつつ必要な見直しを図る」という選択肢については、説明が求められる論点として▽(現在、時間外勤務手当が出されている)国立大学附属学校や私立学校の教員と公立学校の教員との扱いの違いをどう説明するのか▽給特法が教職調整額を定めた論拠として教師の仕事の時間管理の難しさが挙げられてきたが、指針の要請として在校等時間の適切な把握がすでに行われているのだから、教師の仕事の時間管理は可能であり、給特法や教職調整額の論拠は乏しくなったとの指摘もある。これにどう説明するのか--を挙げた。

 また、「教職調整額の増額」という選択肢については▽増額の幅とその論拠をどうするのか▽超勤4項目以外の業務にも拡大して勤務実態に見合った調整額の増額を図るのか--といった論点を説明。学校現場の納得感を得られるかどうかが重要だとの見方を示し、「超勤命令できる業務項目を今の4項目から増やして、その分の調整額を増やすというアプローチは、過重な業務負担を追認する形での調整額増額と受け止められ支持は得られないのではないか」と指摘。一方で、「所定の勤務時間を超える在校等時間がどの程度かによって、学校現場の納得感は違ってくるのではないか。所定の勤務時間を超える在校等時間が業務の削減や適正化、定数改善などで一定程度抑えられれば、教職調整額の増額で対応しても説得性がある。学校現場の納得感も高まるように思われる」とも説明し、働き方改革の進展と組み合わせることで教職調整額の増額で対応するという選択肢も学校現場の支持を得られるとの見方を示した。

 その上で、小川氏は、教職員の時間外勤務について、時間外勤務手当などの金銭的措置だけでなく、振替休暇などの健康確保も検討課題として重要だと強調。具体的な教職員の健康確保措置として、▽勤務時間インターバル制度の公立学校への義務的導入▽所定勤務時間を超えた時間外勤務について、金銭的措置ではなく振替休暇で措置する仕組み--などの検討を求めた。

 続いて報告した戸ヶ崎氏は、教員の処遇に関する問題意識について「給特法こそが学校の長時間労働の元凶とする見方、あるいは、給特法を改正さえすれば教師の業務が適正化に向かうという考えには疑問がある。給特法第6条第2項には、『教育職員の健康と福祉を害することとならないよう勤務の実情について十分な配慮がされなければならない』とあるように、決して『定額働かせ放題』とする法律ではない」と指摘。同時に「給特法が制定されたのは昭和46(1971)年で、当時と現在では教師の置かれた状況は大きく異なっている。人材確保法により教師の給与について一般の公務員より優遇措置が講じられるべきとの狙いがあったが、その優遇幅がほとんどなくなっていることを踏まえれば、給特法の見直しは必要だが、給特法や人材確保法の『精神』は残す必要があるのではないか」と説明した。

 その上で、教員の給与の在り方について、戸ヶ崎氏は考えられる方策とそれぞれの論点を列挙。給特法で現在、4%となっている「教職調整額の増額」という方策については「多少の増加では、調整額が数%上がったからその分働けという流れを心配するなど『定額働かせ放題』の不満は解消されない」と否定的な見解を示した。

 次に「教職調整額の時間外勤務手当化・超勤4項目の廃止や項目増加」という方策を挙げ、これには「個別の業務を超過勤務として認めるかどうかで、管理職が訴訟などのトラブルを新たに抱え込んだり、事前承認の事務量が新たに発生したりすることになり、現場が混乱する」「仕事の効率化を積極的に進めている教師ほど給与が減少するなど、働き方改革へのブレーキとなるおそれがある」「超勤4項目を廃止し、36協定を要するとすることは、働き方の改善につながらないおそれがある」と指摘し、やはり否定的な見方をとった。

 では、望ましい方策は何か。これについて、戸ヶ崎氏は「手当の新設などメリハリある給与の改善」を挙げた。「教師の大多数を占める教諭の給料については、メリハリの乏しい構造となっている。学級担任手当などといった手当を新設し、職務に応じてメリハリのある教員給与にしてはどうか」と提起。新設する手当の具体的なイメージとして▽学級担任手当▽特別支援教育コーディネーターへの手当▽道徳教育推進教師への手当▽研修主事への手当▽情報教育主任への手当--を挙げ、管理職手当や特別支援教育に従事する教員だけが対象となっている給料調整額の改善も求めた。

 戸ヶ崎氏は「教職は『崇高な仕事』であるというプライドは維持しつつ、優秀な人材が確保され、一層やりがいのある職務内容で、適切に評価され士気が高まり、誇りを持ち、安心して教育活動に専念できるようにすべきだ」と指摘。「『令和の時代の教員給与改善』として『個に応じたメリハリある処遇改善』がなされることを期待してやまない」と述べて、報告を終えた。

 終了後に記者説明を行った田野瀬太道・特命委員会事務局長(元文科副大臣)は「本日のヒアリングは、問題を整理するためのもので、結論の方向性を出すものではない」と説明した。特命委員会では、来年の3月まで有識者などへのヒアリングを行った上で、5月ごろまでに議論を取りまとめ、結論を6月ごろに政府が閣議決定する「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)に反映させたいとしている。

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