学習指導要領の改訂が今年度で完了し、定着に向けた取り組みが進められる中、今後の教育課程や学習指導、学習評価などの在り方を議論する有識者検討会の初会合が12月22日、オンラインを交えて開かれた。この日は新しい学習指導要領の下での、学校における教育課程、学習指導の実施状況について、委員が意見交換。PDCAサイクルの在り方に対する指摘や、GIGAスクールにおける悩みなどが出された。
今後の社会変化を見据えて学校が果たす役割や、全ての子供たちの可能性を引き出すための多様な学びの在り方などが義務教育や高校教育のワーキンググループで議論される中、同検討会では▽学習指導要領の実施状況について▽これからの子供たちが学ぶ学校像および生き抜く社会像について▽今後の教育課程、学習指導および学習評価等の在り方について――などを検討する。
荒瀬克己委員(教職員支援機構理事長)は現行の学習指導要領を「よく出来ている」と評価。その上で、「学習評価は児童生徒に対する応援でなければならない。気付きを生んで学習の改善が図れるような評価になっているか。教員側から言えば、授業の改善につながるような評価になっているかを考える必要がある」と述べ、個別最適な学びという理念の下、授業改善を図るためには、児童生徒一人一人の興味や関心について教員が理解する必要があるとした。
戸ヶ﨑勤委員(埼玉県戸田市教育委員会教育長)は「チョーク&トークの教員主導型の授業は数年前に比べ、ずいぶん少なくなった印象」と述べた一方、教員自身が学習指導要領の求める「主体的・対話的で深い学び」を理解出来ていない可能性を指摘。これにより、ICTの活用が「主体的という名の放置と対話もどきの雑談」になることや、探究的な学びが「教員主導の予定調和的な授業」になることで、教育の質が低下する恐れがあるとくぎを刺した。
貞広斎子委員(千葉大学教育学部教授)は、教育課程の評価改善を行うプロセスであるPDCAサイクルについて言及。PDCAサイクルを作り込み過ぎることは、子どもたちが思ってもいないような発達を遂げるかもしれない「偶然性」を排除することにつながると指摘した上で、「これまでのそれなりにうまくいっていた日本教育の成功体験を断ち切って、何度もブラッシュアップしないといけない」と述べ、学校長や教育委員会が失敗を許容し、新しい物事をやってもいいという思考を持つことが重要だとした。
市川伸一委員(東京大学名誉教授、帝京大学中学校・高等学校校長)はGIGAスクールおける1人1台端末についての悩みを吐露。「小学校高学年から中学生を見る限り、手書きよりも文字入力ができる子はそうはいない。例えば授業の振り返りを、昔は5分あれば10行くらい書いてくる子はたくさんいたが、入力となると1行2行書くので精いっぱい」と学習の質が劣化している場面があると打ち明けた。
同会議の委員は次の通り(敬称略)。
▽秋田喜代美(学習院大学文学部教授)▽天笠茂(千葉大学名誉教授)▽荒瀬克己(教職員支援機構理事長)▽石井英真(京都大学大学院教育学研究科准教授)▽市川伸一(東京大学名誉教授、帝京大学中学校・高等学校校長)▽貞広斎子(千葉大学教育学部教授)▽戸ヶ﨑勤(埼玉県戸田市教育委員会教育長)▽高橋純(東京学芸大学教育学部教授)▽奈須正裕(上智大学総合人間科学部教授)▽冨士原紀絵(お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系教授)