安全で安心な学校環境の整備、組織的な取り組みを充実させるため、文科省は新たに「学校安全の推進に関する有識者会議」を設置し、12月23日に初会合がオンラインで開かれた。この日は、2016年に策定された「学校事故対応に関する指針」で死亡事故などの重大事故が発生した後に求められる調査について、当初想定された取り組みが行われていない状況などが議論された。
学校の安全対策に関しては、22年3月に閣議決定された「第3次学校安全の推進に関する計画」(3次計画)で22年度から26年度における基本的方向性と具体的な方策を示しており、安心安全な学校環境の整備とともに、安全教育を通じ児童生徒にいかなる状況下でも自らの命を守り抜き、自ら適切に判断し主体的に行動する態度の育成を図ることが重要とされた。
また「学校事故対応に関する指針」においては、学校現場で重大事故・事件が発生した際の情報公開や、原因の調査に対する学校や学校の設置者の対応、事故対応の在り方に係る危機管理マニュアルの見直し・充実、事故対応にあたっての体制整備、事故発生の防止と事故後の適切な対応などについてまとめられた。
しかし、指針で示された事故原因の調査について3次計画の中で、実際に事故の発生後の被害者やその家族へ配慮した支援が十分に取られていないと考えられる事案や、児童生徒の死亡事故に関する国への報告がなされていない事案も見られることなど、指針が想定していた取り組みが進んでいない状況にあると指摘された。
そのため、事故対応指針に沿った児童生徒の死亡事故の発生に関する国への報告について、引き続き徹底を求めるとともに、学校管理下において発生した事故の検証や再発防止に関する実効性を高めるため、事故対応指針の改訂やその他の必要な措置について、早期に検討を開始するとされた。
この問題について桐淵博委員(日本AED財団理事、元さいたま市教育長)は「指針の内容をもう少し分かりやすくすると同時に、運用の周知徹底が課題だ。重大事故を防ぐ上で必要なので再度、都道府県や政令市、市町村、教委、学校の設置者宛てにきちんと指針に沿った対応をするよう通知する必要がある。また重大事故があった場合にこの指針に沿った対応がなされてない場合、事情を聞くために行政機関が努力するということも必要ではないか。一般の教職員でも指針を知らない人が多いので、教職員研修の中でこうした内容を標準化し、教員養成段階でも事故防止については必須科目として教えていくシステムを作っていくことで、いずれ効果が現れるのではないか」と指針の周知徹底を求めた。
藤田大輔委員(大阪教育大学健康安全教育系教授)は「死亡事故の場合、亡くなったお子さんの保護者が詳細な調査を望まない場合もある。今後は報告を求める対象の事故をある程度整理していく必要があるのではないか」と調査対象の絞り込みを提言。
首藤由紀委員(社会安全研究所代表取締役)は「基本調査は学校が担うことになっているが、先生方の多くがそのやり方をおそらく知らないので、分かりやすいマニュアルのようなものを作るという案もある。なかなか報告が上がってこない場合には、事故事例のうち、調査すべき対象のものについては、個人情報保護の問題もあるがプッシュ型で調査すべきとすることもできるのではないか」と指摘。
また北村光司委員(産業技術総合研究所人工知能研究センター主任研究員)は「詳細調査に関しては学識経験者や専門家で調査委員会を構成するということだったが、原因究明や予防策を検討するのに十分ではない専門性の方しか集まらない場合もある。この専門性の部分について、もう少し言及があってもいいのでは」と発言。
神内聡委員(兵庫教育大学准教授)は「調査を行うメンバーも個々の調査能力の差もあるので、学校がそれぞれ組織してやっていくというのは負担が大きい。結果的に出てくる報告書の出来も違ってくるので、国で常設の機関を作ってそこで一元化して調査していく方が情報も集まりやすいし、調査能力も担保されるので将来的には望ましいのではないか」と述べた。